自殺したガール

駄犬

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 真一文字に口を閉じ、痩せ我慢にはなるものの、しばらくの間悠然と何食わぬ顔で電車に揺られた。俺にとって満員電車は地獄そのものであった。“臭い”が立ち所にえんりゅうし、身じろぎ一つ出来ない堅固な集団に身を投じている為、逃れたいと思えば思うほど、首が長く伸びて天井へ救いを求める。だがしかし、俺の視線は下線に向き、顎を突き上げるような間抜けな動作をせずに済んだ。「見初めた」と形容して、彼女へ抱く無形の気持ちを好意に託すほど、動悸の乱れは感じられない。目の前で死に急ぐ人間を止めたという事実が高揚感を生み、名を借りるには好都合の「好意」が、満員電車のストレスを和らげてくれている。そう解釈するのが適当だろう。

 やがて、俺が降りるべき駅に近付き、車内にアナウンスが流れ始める。

「それじゃ」

 再会を予見させる含みのある別れの言葉を交わして降車すると、俺は登校の道程を軽やかな歩みで進んだ。いつもなら、横断歩道の信号機に捕まるところを、青く点灯している間に通り抜けられ、概算した時間より早く教室に辿り着いた。

「なに、機嫌が良さそうだね。彼女でもできた?」

 幼馴染みならではの観察眼にはお手上げだ。目に見えない変化を精緻に把捉し、背景にある事情すら簡単に看破する力があった。そんな幼馴染みを煙たがり、闇雲に突き放そうとすれば、懐疑心の呼び水となり、これまでに起きた出来事を詳らかにする糸口を与えかねない。出来るだけ寄り添いながら、幼馴染みの疑問から遠ざる必要があった。

「なんで?」

「お出ましがいつもより早い上、直ぐに席に座るから」

 そう。俺は普段、始業時間の十分前に教室に着くように調節している。クラスメイト同士で始まる耳障りな四方山話から逃れる為に、授業が始まる三分前までトイレにこもるのが常であった。

「……よく見てるな」

「そりゃあ後ろの席に座るクラスメイトの動向ぐらい嫌でも記憶するでしょう」

 呆れた口調で幼馴染みはそう言って、俺がどれだけ周囲に目を配っていないかを暗に伝えてきた。“臭い”という存在に気付いてから、嗅覚を頼りに人間関係を築いてきたきらいがある。それは即ち、俺の俯き加減を示唆し、環境の変化に着いていけていない。ひいては、視野狭窄がもたらす弊害によって、自身がどのように振る舞っているかも曖昧にしたようだ。愚鈍な俺を幼馴染みは冷笑する。

「でも、古い付き合いのおかげでもあるかな?」

 何故か幼馴染みは、バツが悪いことを意味する、典型的な頭を掻く仕草をした。これは、目を合わせることすら拒否してきた俺への合図なのだろうか。幼馴染みの本心を“臭い”を介さず知ろうとするには、それこそ腹を割って話すような大胆さが必要だ。ただし、悪い機運を先んじて知覚し、常に居心地の悪い場面から避けてきた為、肉親以外にどのようにして自分の本心を打ち明けるべきか分からない。
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