彼岸よ、ララバイ!

駄犬

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負け知らずのコンビニ店員①

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 これほど強盗が押し入るコンビニエンスストアは珍しく、市内に於ける凶悪犯罪の件数のほとんどを担っている。だが、犯罪解決の旗手を持って取り締まり体制の強化を図ろうとしないのは、尽くの犯罪者が捕まっていることに起因する。強盗の入店から退店までの様子を捉えた監視カメラの様子から後日、逮捕されるという一連の事象が様式美とって築かれていた。

 珍妙と言わざるを得ない強盗のあらましを、世間は対岸の火事として囃し立てて、物見高い野次馬根性を持った人間が、見世物小屋のように件のコンビニエンスストアを撮影する。醜悪と例えずにはいられない様相を呈し始めた矢先、それはやってきた。

「いらっしゃいませ」

 道場破りを主眼に置く、倒錯した人間が金属バットを正々堂々と持って来店する。匿名を気取る目出し帽を被った恰幅のいい男の姿からしても、異様そのものであり、通報してくれと言わんばかりの意気込みが全身から伝わってきた。だが、「田中」という名札を服に付けた店員は、男の姿形を目にした上で飄々と尋ねるのである。

「強盗ですか?」

 嘆息がよく似合う諦観のこもった声色で、男の登場を当然のことのように受け入れていた。これまでに現れた強盗の数々を指で数え、取るに足らない端役との一幕を演じる憂いを嘆く。そんな気風が気怠げに脱力した手足の案配から窺えた。肩で風を切って歩く男の意気揚々とした雰囲気とは相反し、明らかに嫌悪感を抱いていることが一目で把捉できる。そんな二人が正面切って向き合えば、世にも奇妙な軋轢が火花のように打ち上がった。

「刃物なんていう、小賢しい真似はしねぇ。これ一本だ」

 男は、高校球児が夏にホームランでも狙うかのような調子で大見得を切る。日常とは乖離した物珍しい光景が繰り広げられているというのに、店員である田中は至って平静だ。粟立つ肌や、怯懦に足腰が立たないなどの感情の揺らぎは全くもって感じられない。それでも田中は、炯々たる眼差しですかさず指摘した。

「刃物は怖いですよ」

 死を連想するのはやはり、刃物であって、金属バットではない。田中はそう言い放ち、男がわざわざ持ち込んだ金属バットを腐した。

「……」

 出鼻をくじかれた男は一転、口を閉ざして押し黙る。深夜のコンビニエンスストアならではの静寂は、輪を掛けてバツの悪さを醸成し、如何ともし難い雰囲気が立ち込める。断絶と言っても過言ではない大きな溝が、田中と男の間にはあり、その温度差は語るまでもない。だからこそ男は、心逸りのままに舌打ちをした。すると、男はありもしない打球を空目し、金属バットを振りかぶる。そこに悔恨の種は撒かれておらず、一切の躊躇を感じさせない殺意があった。道理に従い、規範を重んじる知性が剥落した暴力への強い結び付きは、まさに野生動物のそれである。猛獣の扱い方をよく理解する田中は、ふと足元に視線を落とした。さりげない、意図をまるで捉えさせない突飛な仕草は、男の関心をそこに誘う。
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