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File.9
シスコンなヴァンパイア
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吸血鬼が日中にワイワイと祭りを楽しむなんて、世間のイメージとはかけ離れたものだろう。
俺はリリィに被せられた謎のお面をずらしてそんな事を思った。
「お兄様、なんか妙に似合うですね」
「ほんとだ!ヴァン兄ちゃん、お店の人みたいに見える!」
「うむ、確かにその辺で的屋をやってても違和感がない。特に根拠は無いが」
「どういう理屈だ……?別にいいけどよォ」
俺の見た目の年頃の男の販売員が多いから、くらいしか理由は見当たらないが、複雑な気分だな。
苦笑いを溢すと、リリィが俺達に聞こえるように少し声を張って指を差した。可愛い。流石は俺の妹。何しても可愛い。
「お兄様、あっちで楽しそうな催しがあります!行きましょう!」
「ん?なんだありャ」
「ふむ、【殴ってみろ屋】と書いてあるな」
「なんだろーね?行ってみたい!」
正方形に配置された膝程の高さの柵があり、その中にやたらと派手な金色の燕尾服を着た成金っぽいオヤジが、祭りの参加者と対峙していた。
程なくして鐘が鳴ると、成金オヤジは柵の外へ飛び出した。
「オー。ザンネン!時間切れ!またの挑戦、お待ちしてマース!」
「クッソー!!」
「サァ!次の挑戦者の方居ませんかー?ワタシを殴れたら大金貨五枚!参加費は大金貨一枚ですヨー!」
胡散臭いが、少し興味が湧く。回避にのみ集中すればいいと言っても、さっきの挑戦者も素人って訳では無さそうな体格はしていた。
せっかくの祭りだし、楽しんでやるか。
「よォし、やってやる」
「お兄様!」
「ヴァン兄ちゃんやるの?!」
「む……大丈夫なのか?」
勝てば大金貨五枚。それだけあればリリィに服や何か大量に買ってやれそうだしな。めちゃくちゃ可愛い服を着せて人間共に見せ付けてやる。
俺の邪な考えは誰も知る由もないが、声援を背に促されるまま柵を跨ぐ。
「一発殴れば大金貨五枚。マジなんだよな?」
「マジですヨー!その代わり魔法や特殊な力は使用禁止、オノレの肉体のみで来てくだサーイ」
「上等だ」
俺は金貨一枚を投げ渡すと、位置に着く。
「それではー!スタートッ!」
「ちなみに、一発五枚って考えて良いんだよなァ?今まで溜まった分、全部吐き出して貰うぜ?」
成金オヤジにそう言って、速攻。正面からの分かりやすいパンチは流石に避けられた。
「そんなルールはありませんガ、良いですよ!出来るものならネッ」
これはもう、リリィを全身フルコーディネートして俺の考えた最強に可愛い妹を創り上げる計画が発動してしまう。資金は多ければ多い方がいい。
モチベーションが上がったので、強化無しの純粋な身体能力だけで殴られ屋に肉薄した。こいつの瞬発力でも対応しきれない速度で動けばいいだけのことだ。
「オラァ!!」
「何っ、ガハァッ!?」
下へ打ち付けるような右フックで顔面を殴り付け、そこから左アッパー。ガラ空きになった胴へ怒涛のラッシュへなだれ込む。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」
「ごっふぶへぼほぉっ!ちょっ、まっ、」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」
「ぐほぁっ!がっぐぁ、ああああああ゛あ゛あ゛!!!!」
何発当てたら全部巻き上げられるか分からないので、念の為渾身のストレートも土手っ腹にブチ込んでおく。これも全て、リリィを可愛く着飾る為。
「オラァッ!!」
「ぁが……っ、うぐぉ……!」
手加減は一応したつもりだが、胡散臭い燕尾服男はほとんど意識がない。気絶される前にちゃんと確認しねェとな……。
「溜め込んだ金貨、全部貰ってくぜ」
「ひゃ、ひゃい……」
「潔いな。JACKPOTだ」
周囲から歓声があがり、大量の金貨を手に入れた。ざっと見ただけでも30枚はあるだろう。
それだけの人数がこの燕尾服に敵わずスッたって事だと思うが。
「お兄様!カッコよかったですぅ♡」
「……お前、やりすぎじゃないか?」
「いやァ、こんなもんだろ」
「ヴァン兄ちゃんカッコよかった!僕にも戦い教えてほしいな!」
リリィの頭を撫でつつ、オルガにはとぼけておいた。三十発以上殴った可能性もなくはない。数えてないし知らねェけど。
「ルキ、お前はまだ子供だ。戦いなんてのは、やれる奴にやらしときゃいんだよ」
「えー、でも僕だって強くなりたい」
「まァ、護身術程度なら今度教えてやってもいい」
その後、祭りを周りつつ目に付いた服屋全てでリリィに着て欲しい服を選んで買い漁った。
「あァ、やっぱりお前は黒……いやでも赤も捨て難い。ピンクも可愛いが紫も良い。どうしたらいいんだ……」
「着替え過ぎて疲れたです」
「よし、じゃあ全部買ってく」
「なんでそうなるですか?!」
毎日違う服を着られるように、アホほど買い込んだ。リリィだって年頃の少女だし、俺が色々残していけばきっと、いつまでも忘れないでいてくれるだろう。
「ヴァンは本当にリリィに対して過保護というか、甘いな」
「でもリリィお姉ちゃんも嬉しそうだね」
「たまにやりすぎですし、ちょっと恥ずかしいです……」
「恥じらう姿もまた良いもんだ。さァて、そろそろ聖歌舞台の会場行くか……席も確保しなきゃいけねェしな」
今日も俺の妹が可愛くて可愛かった。俺の妹がこんなに可愛い。
吸血鬼が日中にワイワイと祭りを楽しむなんて、世間のイメージとはかけ離れたものだろう。
俺はリリィに被せられた謎のお面をずらしてそんな事を思った。
「お兄様、なんか妙に似合うですね」
「ほんとだ!ヴァン兄ちゃん、お店の人みたいに見える!」
「うむ、確かにその辺で的屋をやってても違和感がない。特に根拠は無いが」
「どういう理屈だ……?別にいいけどよォ」
俺の見た目の年頃の男の販売員が多いから、くらいしか理由は見当たらないが、複雑な気分だな。
苦笑いを溢すと、リリィが俺達に聞こえるように少し声を張って指を差した。可愛い。流石は俺の妹。何しても可愛い。
「お兄様、あっちで楽しそうな催しがあります!行きましょう!」
「ん?なんだありャ」
「ふむ、【殴ってみろ屋】と書いてあるな」
「なんだろーね?行ってみたい!」
正方形に配置された膝程の高さの柵があり、その中にやたらと派手な金色の燕尾服を着た成金っぽいオヤジが、祭りの参加者と対峙していた。
程なくして鐘が鳴ると、成金オヤジは柵の外へ飛び出した。
「オー。ザンネン!時間切れ!またの挑戦、お待ちしてマース!」
「クッソー!!」
「サァ!次の挑戦者の方居ませんかー?ワタシを殴れたら大金貨五枚!参加費は大金貨一枚ですヨー!」
胡散臭いが、少し興味が湧く。回避にのみ集中すればいいと言っても、さっきの挑戦者も素人って訳では無さそうな体格はしていた。
せっかくの祭りだし、楽しんでやるか。
「よォし、やってやる」
「お兄様!」
「ヴァン兄ちゃんやるの?!」
「む……大丈夫なのか?」
勝てば大金貨五枚。それだけあればリリィに服や何か大量に買ってやれそうだしな。めちゃくちゃ可愛い服を着せて人間共に見せ付けてやる。
俺の邪な考えは誰も知る由もないが、声援を背に促されるまま柵を跨ぐ。
「一発殴れば大金貨五枚。マジなんだよな?」
「マジですヨー!その代わり魔法や特殊な力は使用禁止、オノレの肉体のみで来てくだサーイ」
「上等だ」
俺は金貨一枚を投げ渡すと、位置に着く。
「それではー!スタートッ!」
「ちなみに、一発五枚って考えて良いんだよなァ?今まで溜まった分、全部吐き出して貰うぜ?」
成金オヤジにそう言って、速攻。正面からの分かりやすいパンチは流石に避けられた。
「そんなルールはありませんガ、良いですよ!出来るものならネッ」
これはもう、リリィを全身フルコーディネートして俺の考えた最強に可愛い妹を創り上げる計画が発動してしまう。資金は多ければ多い方がいい。
モチベーションが上がったので、強化無しの純粋な身体能力だけで殴られ屋に肉薄した。こいつの瞬発力でも対応しきれない速度で動けばいいだけのことだ。
「オラァ!!」
「何っ、ガハァッ!?」
下へ打ち付けるような右フックで顔面を殴り付け、そこから左アッパー。ガラ空きになった胴へ怒涛のラッシュへなだれ込む。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」
「ごっふぶへぼほぉっ!ちょっ、まっ、」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」
「ぐほぁっ!がっぐぁ、ああああああ゛あ゛あ゛!!!!」
何発当てたら全部巻き上げられるか分からないので、念の為渾身のストレートも土手っ腹にブチ込んでおく。これも全て、リリィを可愛く着飾る為。
「オラァッ!!」
「ぁが……っ、うぐぉ……!」
手加減は一応したつもりだが、胡散臭い燕尾服男はほとんど意識がない。気絶される前にちゃんと確認しねェとな……。
「溜め込んだ金貨、全部貰ってくぜ」
「ひゃ、ひゃい……」
「潔いな。JACKPOTだ」
周囲から歓声があがり、大量の金貨を手に入れた。ざっと見ただけでも30枚はあるだろう。
それだけの人数がこの燕尾服に敵わずスッたって事だと思うが。
「お兄様!カッコよかったですぅ♡」
「……お前、やりすぎじゃないか?」
「いやァ、こんなもんだろ」
「ヴァン兄ちゃんカッコよかった!僕にも戦い教えてほしいな!」
リリィの頭を撫でつつ、オルガにはとぼけておいた。三十発以上殴った可能性もなくはない。数えてないし知らねェけど。
「ルキ、お前はまだ子供だ。戦いなんてのは、やれる奴にやらしときゃいんだよ」
「えー、でも僕だって強くなりたい」
「まァ、護身術程度なら今度教えてやってもいい」
その後、祭りを周りつつ目に付いた服屋全てでリリィに着て欲しい服を選んで買い漁った。
「あァ、やっぱりお前は黒……いやでも赤も捨て難い。ピンクも可愛いが紫も良い。どうしたらいいんだ……」
「着替え過ぎて疲れたです」
「よし、じゃあ全部買ってく」
「なんでそうなるですか?!」
毎日違う服を着られるように、アホほど買い込んだ。リリィだって年頃の少女だし、俺が色々残していけばきっと、いつまでも忘れないでいてくれるだろう。
「ヴァンは本当にリリィに対して過保護というか、甘いな」
「でもリリィお姉ちゃんも嬉しそうだね」
「たまにやりすぎですし、ちょっと恥ずかしいです……」
「恥じらう姿もまた良いもんだ。さァて、そろそろ聖歌舞台の会場行くか……席も確保しなきゃいけねェしな」
今日も俺の妹が可愛くて可愛かった。俺の妹がこんなに可愛い。
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