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第43話『片思い』
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美しい紅葉は道に散り広がり、行く者の目を楽しませてくれる。その中をレヴィンは怒りを隠すことなく、落ち葉を踏み、森の家に向かっていた。
スタンフォード家が接触してきたと知り、頭に血が上った。
彼らの奸計により、自分は身ぐるみはがされた状態でここに追いやられたのだ。面会など、どの面下げていっているのだ。ふざけるなと言いたい。
フレディからいい話を聞いたばかりだというのに、気分は最悪だった。ところが秋晴れの清々しい自然の中を歩いていると、徐々に怒りが収まり、冷静になってきた。
レイトンに来て半年が過ぎた。
ここに来てよかったことはクオンに会えたことだ。
突然押し掛けた自分に、なんだかんだ言いつつ相手をしてくれている。上流階級だと知っているのに媚びへつらうことがないので、(むしろ無礼な部類だが)彼の言葉は疑わずにすむ。宮廷ではこうはいかない。それを思えばレイトンにいる自分は素直に生きていた。
スタンフォード家に陥れられたからこそ、彼に会えたわけだが、だからといって、スタンフォード家を許すつもりはない。
レヴィンの心がまたささくれ立ち始めたとき、森の家に着いた。
家主が珍しく薬草畑でしゃがんでいる。黙々と作業している姿を見たら、苛立った気持ちが霧散した。
「クオン。手伝う」
「ん」
畑の薬草を摘んでいたクオンは顔を上げずに返事をした。
この畑は春からずっと、雑草を抜いたり水を撒いたりと、レヴィンが世話をしてきた。わずか半年ではあるが、ついに収穫のときか、と妙に感慨深かった。
レヴィンは葉を千切りながら、クオンに先ほどフレディから聞いたばかりの話をした。
クオンは手を休めずに「売れてよかった」と言った。
「値段きいたら、高すぎて誰も買わないだろうと思ったけど、それでも気に入ってくれた人がいたんだな」
価格設定については、レヴィンとフレディで決めた。通常の価格の約一・八倍だ。クオンは高いと言ったが、紅茶の仕入れ価格、クオンとフレディの取り分を考えたら、決して高すぎるわけではない。
クオンはお人好しなので、すぐに値段を下げようとするが、商品には適正価格というものがある。高すぎるのは論外だが、安すぎるのも問題なのだ。流通の仕組みは宮廷である程度、教わった。
「次はいつ作ってくれるのかと言っていたが」
レヴィンの言葉にクオンはやはり手を止めずに答えた。
「しばらくは作らない」
「……そうか」
レヴィンは少し残念だった。
作れば儲かるのに、商売気のない人である。
二人で黙って薬草を摘んでいると、不意にクオンが口を開いた。
「なあ」
レヴィンは顔を上げた。クオンはそのまま口を閉じてしまった。なんとなく言いづらそうにしている。
どうしたのか促すと、ためらいがちに言った。
「んと……紅茶の代金って、いつもらえるのかな」
「来週になるそうだが」
「そっか、わかった」
クオンは下を向いた。彼が金銭の話をするなど珍しい。
「入り用なのか?」
レヴィンが訊くと、クオンは千切った薬草を指でつまんで撫でた。
「ちょっと蜂蜜がほしくて」
「!」
クオンの蜂蜜がほしい、は食用ではない。食べてもらうつもりで贈った蜂蜜は別の用途に使われたのだ。それを知ったのはトレイの村で医師のグラハムに会ったときだ。あのときは衝撃だった。
レヴィンの心中などよそに、クオンは続けて言った。
「冬に向けて切り傷用の練薬を作りたくてさ。欲しがる人がいるんだ。けどいつも蜂蜜がなくて、みんなにあげれなくてさ。ないって言うと、すごく残念がるから……」
ぽつぽつと薬草を千切る姿を見て、レヴィンは胸がいっぱいになった。
ああ、クオンが好きだ—
紅茶が売れて、少しでもクオンの生活が楽になればいいと思っていたが、彼はそんなことより、みんなの喜ぶ顔が見たいのだ。
黒い髪が陽射しを受けて白く反射している。
レヴィンは口元を緩めた。
「代金を受け取ったら、蜂蜜を買って行く」
クオンは再び顔を上げ「助かるよ」と柔らかく目を細めた。その微笑みにレヴィンの胸はトクトク音を立てた。わずかに上気しかかった頬に気づかれないように、目をそらした。
「蜂蜜はそれでいいが、薬草は……」
レヴィンは言いかけて、手元を見た。クオンがうなずく。
「そう、これ。おまえが世話したやつ」
レヴィンも摘んだ葉を手に取った。生き生きと瑞々しい薬草。これが人の役に立つのだ。
「なんというか、うれしいものだな」
クオンは微笑みながら葉を触るレヴィンに、優しくに言った。
「自分で世話した薬草だもんな。愛着出るのもわかる。薬も作ってみたいよな?」
レヴィンは「そうだな」と答えると、クオンは満足気にうなずいた。
そして、作らないという選択肢は端から用意されていなかったことに、後から気づいた。
スタンフォード家が接触してきたと知り、頭に血が上った。
彼らの奸計により、自分は身ぐるみはがされた状態でここに追いやられたのだ。面会など、どの面下げていっているのだ。ふざけるなと言いたい。
フレディからいい話を聞いたばかりだというのに、気分は最悪だった。ところが秋晴れの清々しい自然の中を歩いていると、徐々に怒りが収まり、冷静になってきた。
レイトンに来て半年が過ぎた。
ここに来てよかったことはクオンに会えたことだ。
突然押し掛けた自分に、なんだかんだ言いつつ相手をしてくれている。上流階級だと知っているのに媚びへつらうことがないので、(むしろ無礼な部類だが)彼の言葉は疑わずにすむ。宮廷ではこうはいかない。それを思えばレイトンにいる自分は素直に生きていた。
スタンフォード家に陥れられたからこそ、彼に会えたわけだが、だからといって、スタンフォード家を許すつもりはない。
レヴィンの心がまたささくれ立ち始めたとき、森の家に着いた。
家主が珍しく薬草畑でしゃがんでいる。黙々と作業している姿を見たら、苛立った気持ちが霧散した。
「クオン。手伝う」
「ん」
畑の薬草を摘んでいたクオンは顔を上げずに返事をした。
この畑は春からずっと、雑草を抜いたり水を撒いたりと、レヴィンが世話をしてきた。わずか半年ではあるが、ついに収穫のときか、と妙に感慨深かった。
レヴィンは葉を千切りながら、クオンに先ほどフレディから聞いたばかりの話をした。
クオンは手を休めずに「売れてよかった」と言った。
「値段きいたら、高すぎて誰も買わないだろうと思ったけど、それでも気に入ってくれた人がいたんだな」
価格設定については、レヴィンとフレディで決めた。通常の価格の約一・八倍だ。クオンは高いと言ったが、紅茶の仕入れ価格、クオンとフレディの取り分を考えたら、決して高すぎるわけではない。
クオンはお人好しなので、すぐに値段を下げようとするが、商品には適正価格というものがある。高すぎるのは論外だが、安すぎるのも問題なのだ。流通の仕組みは宮廷である程度、教わった。
「次はいつ作ってくれるのかと言っていたが」
レヴィンの言葉にクオンはやはり手を止めずに答えた。
「しばらくは作らない」
「……そうか」
レヴィンは少し残念だった。
作れば儲かるのに、商売気のない人である。
二人で黙って薬草を摘んでいると、不意にクオンが口を開いた。
「なあ」
レヴィンは顔を上げた。クオンはそのまま口を閉じてしまった。なんとなく言いづらそうにしている。
どうしたのか促すと、ためらいがちに言った。
「んと……紅茶の代金って、いつもらえるのかな」
「来週になるそうだが」
「そっか、わかった」
クオンは下を向いた。彼が金銭の話をするなど珍しい。
「入り用なのか?」
レヴィンが訊くと、クオンは千切った薬草を指でつまんで撫でた。
「ちょっと蜂蜜がほしくて」
「!」
クオンの蜂蜜がほしい、は食用ではない。食べてもらうつもりで贈った蜂蜜は別の用途に使われたのだ。それを知ったのはトレイの村で医師のグラハムに会ったときだ。あのときは衝撃だった。
レヴィンの心中などよそに、クオンは続けて言った。
「冬に向けて切り傷用の練薬を作りたくてさ。欲しがる人がいるんだ。けどいつも蜂蜜がなくて、みんなにあげれなくてさ。ないって言うと、すごく残念がるから……」
ぽつぽつと薬草を千切る姿を見て、レヴィンは胸がいっぱいになった。
ああ、クオンが好きだ—
紅茶が売れて、少しでもクオンの生活が楽になればいいと思っていたが、彼はそんなことより、みんなの喜ぶ顔が見たいのだ。
黒い髪が陽射しを受けて白く反射している。
レヴィンは口元を緩めた。
「代金を受け取ったら、蜂蜜を買って行く」
クオンは再び顔を上げ「助かるよ」と柔らかく目を細めた。その微笑みにレヴィンの胸はトクトク音を立てた。わずかに上気しかかった頬に気づかれないように、目をそらした。
「蜂蜜はそれでいいが、薬草は……」
レヴィンは言いかけて、手元を見た。クオンがうなずく。
「そう、これ。おまえが世話したやつ」
レヴィンも摘んだ葉を手に取った。生き生きと瑞々しい薬草。これが人の役に立つのだ。
「なんというか、うれしいものだな」
クオンは微笑みながら葉を触るレヴィンに、優しくに言った。
「自分で世話した薬草だもんな。愛着出るのもわかる。薬も作ってみたいよな?」
レヴィンは「そうだな」と答えると、クオンは満足気にうなずいた。
そして、作らないという選択肢は端から用意されていなかったことに、後から気づいた。
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