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第1章 跳躍と出会い⑥『神のいたずら』
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昼食はサンドイッチだった。パンに肉厚のベーコンとチーズが豪快に挟まっていた。
食べ終わると、海人とグレンは勉強部屋に戻った。
机に向かうと何も書かれていない洋紙が広げられる。
グレンはそこに線図を書いた。
「ルテアニア王国は、王都アルバスを中心に四つの領地があります。サウスリー、ノースリー、ニュースリー、マウスリーです」
地図のようである。王都を二重丸で描き、四方を四分割する。
サウスリーはここ、と分割した境界線を太くなぞった。王都から南に位置している。
私たちがいるリンデはここ、とそこからさらに南の国境沿いに黒丸を書いた。
しかし、そのうち都市名など忘れそうだった。
「これ、書き込んでもいいですか?」
メモを取りたくて、海人は自然に言った。すると、グレンは軽く目を見張り、どうぞ、とペンをくれた。
万年筆だった。ペン先をインクで濡らす。
海人はアルバス、サウスリー、と聞いたばかりの土地の名を書いた。
それを見ていたグレンがぽつりと言った。
「カイト様は読み書きができるのですね」
「え?」
思いがけない言葉に顔を上げたものだから、グレンが失礼しました、と恐縮した。
「あ、いえ、怒ったわけじゃないんですけど、どうしてですか?」
素朴な疑問にグレンは笑みを浮かべた。
「庶民は普通、読み書きはできません。できるのは貴族や裕福な商人くらいです。イリアス様からカイト様の世界には身分制度はないので、無礼なことをしても叱るなと言われておりまして。ですから、カイト様は庶民のような方なのだと思っておりました」
それは間違っていない。自分は間違いなく庶民だ。
身分制度がないことなどイリアスには言ってなかったが、ある程度、海人の世界の知識はあるらしい。
海人は言った。
「たしかに日本に身分制度はないし、おれも庶民だけど、字くらい誰でも書けますよ。それくらいの教育を受けるのは……日本じゃ当たり前だから」
グレンは、ほう、と感心したように大きくうなずいた。
「それは素晴らしい国ですね。わたくしは当家でお世話にならなければ、読み書きなど一生できなかったでしょう」
海人は借りたペンをグレンに返した。
「おれが読めるかどうかわからなかったから、字を書かなかったんですね」
グレンの優しい気遣いをうれしく思う海人だったが、ペンを返された当人はなぜか困った顔をした。
「ご自分で書かれた方がよろしいでしょう」
「?」
今の流れでどうしてそうなるのかわからない。海人が小首を傾げると、
「カイト様が文字を書かれることはわかりましたが、ルテアニア語ではありませんね。わたくしには読めません」
「え⁉」
グレンは返されたペンで、海人が書いたカタカナの下に、ルテアニア語の文字を書いた。
それはアルファベットとも違う、まったく読めない文字だった。
グレンの滑らかな文字をしばらく見つめ、愕然とした。
「これじゃあ、おれ、読み書きできないのと一緒じゃん……」
言葉が通じているから文字もわかるものだと思ったが、なんたることだ。
グレンも何と言っていいのかわからない顔をしている。
違う言語を話しながら言葉が通じるのなら、なぜ文字もわかるようにしてくれなかったのか。
海人は神のいたずらを呪いたくなった。
食べ終わると、海人とグレンは勉強部屋に戻った。
机に向かうと何も書かれていない洋紙が広げられる。
グレンはそこに線図を書いた。
「ルテアニア王国は、王都アルバスを中心に四つの領地があります。サウスリー、ノースリー、ニュースリー、マウスリーです」
地図のようである。王都を二重丸で描き、四方を四分割する。
サウスリーはここ、と分割した境界線を太くなぞった。王都から南に位置している。
私たちがいるリンデはここ、とそこからさらに南の国境沿いに黒丸を書いた。
しかし、そのうち都市名など忘れそうだった。
「これ、書き込んでもいいですか?」
メモを取りたくて、海人は自然に言った。すると、グレンは軽く目を見張り、どうぞ、とペンをくれた。
万年筆だった。ペン先をインクで濡らす。
海人はアルバス、サウスリー、と聞いたばかりの土地の名を書いた。
それを見ていたグレンがぽつりと言った。
「カイト様は読み書きができるのですね」
「え?」
思いがけない言葉に顔を上げたものだから、グレンが失礼しました、と恐縮した。
「あ、いえ、怒ったわけじゃないんですけど、どうしてですか?」
素朴な疑問にグレンは笑みを浮かべた。
「庶民は普通、読み書きはできません。できるのは貴族や裕福な商人くらいです。イリアス様からカイト様の世界には身分制度はないので、無礼なことをしても叱るなと言われておりまして。ですから、カイト様は庶民のような方なのだと思っておりました」
それは間違っていない。自分は間違いなく庶民だ。
身分制度がないことなどイリアスには言ってなかったが、ある程度、海人の世界の知識はあるらしい。
海人は言った。
「たしかに日本に身分制度はないし、おれも庶民だけど、字くらい誰でも書けますよ。それくらいの教育を受けるのは……日本じゃ当たり前だから」
グレンは、ほう、と感心したように大きくうなずいた。
「それは素晴らしい国ですね。わたくしは当家でお世話にならなければ、読み書きなど一生できなかったでしょう」
海人は借りたペンをグレンに返した。
「おれが読めるかどうかわからなかったから、字を書かなかったんですね」
グレンの優しい気遣いをうれしく思う海人だったが、ペンを返された当人はなぜか困った顔をした。
「ご自分で書かれた方がよろしいでしょう」
「?」
今の流れでどうしてそうなるのかわからない。海人が小首を傾げると、
「カイト様が文字を書かれることはわかりましたが、ルテアニア語ではありませんね。わたくしには読めません」
「え⁉」
グレンは返されたペンで、海人が書いたカタカナの下に、ルテアニア語の文字を書いた。
それはアルファベットとも違う、まったく読めない文字だった。
グレンの滑らかな文字をしばらく見つめ、愕然とした。
「これじゃあ、おれ、読み書きできないのと一緒じゃん……」
言葉が通じているから文字もわかるものだと思ったが、なんたることだ。
グレンも何と言っていいのかわからない顔をしている。
違う言語を話しながら言葉が通じるのなら、なぜ文字もわかるようにしてくれなかったのか。
海人は神のいたずらを呪いたくなった。
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