異世界美貌の騎士様は、キスで魔力をもっていく

琉希

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第1章 跳躍と出会い⑪『跳躍者』

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 辺境警備隊が常駐している駐屯地は商業街の外れにあった。
 街の外壁の内側にあり、隊舎、宿舎、厩舎きゅうしゃと並んでいる。

 門番がひとりいて、私服のイリアスに少々驚いたようだったが、かまわず敬礼した。
 海人は後ろをついて行きながら、日本人の癖で軽くおじぎする。
 
 隊舎に入るとすれ違う隊員達は姿勢を正し、道を譲ったが、それだけで声をかけてはこなかった。
 
 階段を三階分あがり、木造廊下を進んで奥の部屋に向かう。
 扉は開いていた。イリアスは中に入ったとたん、ため息を吐いた。

「ここは私の執務室なんだがな」
 
 執務机がひとつ、そこには誰も座っていなかったが、部屋には先客がいた。
 応接用のソファでくつろいでいる髭面の中年男と、さっき街で会った青年だ。

 若い彼なんて、もぐもぐと何かを食べている。
 中年男が渋い顔をして言った。

「いかんぞ、シモン。さすがに隊長の部屋で飯はまずい」

「ええっ! 副官が食べていいって言ったじゃないですか!」

 上司の前で悪びれもしない二人に、表情の薄いイリアスもさすがに呆れていた。

「シモン。私はダグラスを捕まえておけとは言ったが、ここに来いとは言ってないぞ」

 扉の近くで入っていいのか様子を見ていた海人をイリアスが手招きした。

「でもどうせここに呼ぶでしょう?」

「そうですぜ。我々は手間を省いたわけですから、褒めてくださいよ」

 イリアスは海人をソファに座らせ、その隣に腰を下ろす。
 青年は紙袋をつぶすと、立ち上がり、扉を閉めに行った。

 それが合図とばかりに、ほんの数秒前までおちゃらけていた二人は、真顔になった。

 深くソファに凭れて座っていた中年男は居住まいを正し、扉を閉めた彼は、中年男の後方に立って控えた。
 その変わり身に海人は緊張した。

 イリアスは静かに言った。

「彼の名はフジワラカイト。異世界から来た者、跳躍者だ」

 彼らは耳を疑うようにして海人を見たが、何も言わなかった。
 海人は、はじめまして、と小声で言った。

「カイト、この者はダグラス=ユーヴァ。ここ、辺境警備隊の副隊長だ。さっき会った後ろの者はシモン=パドル。士官ではないが」

 一度言葉を切り、海人を見る。

「カイトがこの世界に来たとき、私と一緒にいた者だ」

「!」

 街で会ったとき、見覚えがあるような反応を見せたのは、そのせいだったのか。

 海人は、その節はお世話になりました、と言ったら、シモンは軽く口端を上げて、頭を下げた。

 イリアスは続けた。

「跳躍者の存在は公にはなっていない。二人にカイトを紹介したのは、シモンはその場にいたから隠せなかったこと、ダグラスは私の副官だからだ。
 ダグラス、近衛兵をしていたときに、跳躍者の話しは聞いたことはあるか」

 ダグラスは首を振った。

「王宮でそのような話は一度も」

 上官に対してざっくばらんな物言いをしていたダグラスはどこへやら、至極しごく真面目な顔をしていたダグラスが振り返りながら、

「シモンはなんのことかわかるか?」

と問うと、彼もまた首を振った。

「この方が突然現れたときはびっくりしましたが、新手の魔法かと思っていました。『跳躍者』というのは聞いたことがありません」

 ダグラスは続けて訊いた。

「誰かにこのことは?」

「言ってません。隊長から口止めされてましたから」

 上官の執務室に勝手に入り、食事までしていた下っ端らしき青年だったが、忠誠心は厚いようだ。
 ダグラスはうなずき、イリアスに向き直った。

 シモンはたまたまその場にいたというが、海人はイリアスがこの二人をとても信頼しているのだと思った。
 
 イリアスは神妙に言った。

「跳躍者がなぜ公にされていないのかだが、それは彼らにしかない特殊な能力があるからだ」

 海人は目を丸くした。そして心中、突っ込む。

(そんなものありませんけど)

 だが次の言葉には目をいた。

「跳躍者は魔力を付与する力を持っている。事実、私は彼以外の跳躍者から魔力をもらったことがある」

『えっ』

 海人とシモンの声が重なった。
 
 ダグラスはさすがとも言うべきか、驚きはしていたが、あからさまに顔色を変えるようなことはなかった。

 若い二人は同時に叫ぶ。

「魔力の付与なんてできるんですか⁉」
「イリアス、魔法が使えるの⁉」

 前者はシモン、後者は海人である。二人の言葉は重なったが、

 ん? とダグラスとシモンが顔を見合わせた。

 海人はおかまいなしに、イリアスに半身を向けた。

「おれ、魔法見たことない。見てみたいんですけど!」

 小さな子供のように見せて、見せて! と目をキラキラさせた海人に、部下二人はイリアスを見た。
 
 つかの間、静寂が流れ、イリアスは胸のあたりに左手を上げた。

 どうやら見せてくれるらしい。
 
 上を向いたてのひらに注目すると、突然、拳大こぶしだいほどの炎が生まれた。
 そして数秒後には跡形もなく消える。
 
 初めて魔法を見た海人は感動の声を上げた。

「すごい! 手品みたいだ!」

 率直な感想を言った海人だったが、その手品みたいな魔法を見て、部下二人はあんぐりと口を開けた。
 海人は二人の様子を尻目に、イリアスに訊いた。

「魔法を使うのに呪文とかないんですね」

 海人の知っている物語では、魔法は呪文を唱えると発動するのだ。
 だがイリアスが見せてくれたときに言葉は発していなかった。
 
 イリアスは唱えるものはないな、と言った。
 
 海人はなんとなく残念だった。

(呪文唱える方がかっこいいのに)

と、どうでもいいことを思いつつ、海人はもうひとつ尋ねた。

「異世界人は魔力の付与ができるってことですけど……。だったらおれも魔法が使えるようになれますか」

 海人の問いに、イリアスは魔法の仕組みから教えてくれた。

「魔法は地水火風の四属性の霊脈に干渉して、顕現けんげんさせる。この霊脈に干渉できる力が魔力だ。干渉する魔力が多ければ多いほど、顕現させる力も大きくなる。つまり強力な魔法が使えるということだ」

 ふんふん、と海人はうなずく。

「カイトはこの四属性の霊脈は視えるか?」

 訊かれても、なんのことかわからなかった。

 イリアスは海人を見た。

「霊脈はこの世界のどこにでも流れている。いまこの場にもある。だから魔法が使えたわけだが、この霊脈は魔力のある者にしか視えない。
 カイトが視えないということは、魔力はなく、魔法は使えないということだ」
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