異世界美貌の騎士様は、キスで魔力をもっていく

琉希

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第1章 跳躍と出会い⑬『海人のしたいこと』

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 ぐったりしている二人に掛けられる言葉もなく、海人が静かに待っていると、イリアスが戻ってきた。
 彼は彼でそこはかとなく疲れたような顔をしていた。
 
 それを見たダグラスがにんまり笑った。

「襲われでもしましたか」
 
 若い上官をからかうように言った。
 さっきの打ちのめされっぷりはどこへいったのか。

 シモンも息を吹き返した。

「あの女主人、隊長に色目使ってましたもんね。お触りくらいされたんじゃないんですか」

 確かにイリアスは若いうえにかなりの美形だ。
 領主の息子で、地位もある。男の海人ですらかっこいいと思うのだ。異性にモテるのも当然だろう。
 
 軽口を叩いた二人に、海人の隣に座ったイリアスは恐ろしく低い声で言った。

「来季の魔獣討伐、二人だけで行くか?」

 無表情というのがまた怖い。

 調子に乗った二人はしまった、という顔をした。
 場の空気が重苦しくなる。
 
 海人はおろおろしてしまい、二人をフォローすることにした。

「ダグラスさんもシモンさんも、こんなこと言ってますけど、さっきまでイリアスのことすごいってずっと褒めてたんですよ」
「…………」
「えっと、火の魔法と水の魔法、ふたつ使えるのもすごいし、魔力のコントロールが神業だって」

 海人が一生懸命、二人を庇って場を良くしようとすると、イリアスは小さく息を吐いた。

「カイトに感謝するんだな」

 それが許しの合図だったようで、二人はホッと胸をなでおろしていた。

「さて。どこまで話したか」

 イリアスが言うと、シモンは、第五の霊脈への干渉方法についての途中だったと説明した。

「そうだったな。それについては……後でカイトに話そう」

 海人はそんな力があることは半信半疑だったが、何かの役に立てるならうれしいと思った。

 話は落ち着いたかのように見えたが、ダグラスが目を光らせた。
 髭を触りながら、イリアスに言った。

「我々のような第五の霊脈が視えない者にとって、彼はただの人ですが、視える者にとっては喉から手が出るほど欲しいでしょうな。存在が知られれば、拉致される可能性もありましょう。王宮にこのことは?」
「まだだ」
「いつまでも黙っているわけにはいかんでしょう。どうするおつもりですか」
 
 イリアスは膝の上で両指を組んだ。

「カイトの希望は王宮にいるもう一人の跳躍者に面会することだ。いずれは伝える。だが、王宮に連れて行くなら、父上か私が同行しなければ無理な話だ。それが整うまで三か月かかる。その間、カイトを屋敷に閉じ込めておくわけにもいかない。正直、悩んでいる」
 
 海人は自分が狙われるなどとは思ってもみなかった。
 急に不安が沸き起こり、イリアスの横顔を見つめる。
 
 窓の外で誰かが大声を上げている。応えるような声もした。

 海人はうつむき、拳を握った。イリアスは考え込んでいるようだった。

 不意にダグラスが思い直したように口を開いた。

「とはいえ、隊長のような化け物じみたのがゴロゴロいるわけではないですからな。警備隊の中でも魔力が高い我々二人ですら、彼の霊脈は視えない。よほどの人物と接触しなければ大丈夫でしょう」

 ダグラスが海人を安心させるように笑い、その目をイリアスに向ける。

「隊長のそばにいるのが一番安全でしょうな。それなら駐屯地に来てもらうというのはどうですか」

 ダグラスは提案したが、イリアスは首を縦に振らなかった。
 すると、それまで黙っていたシモンが急に口を開いた。

「きみは何かしたいことはないの?」

 人懐っこく話しかけられた。

(したいこと……)

 尋ねられた海人の脳裏に浮かんだのは、馬に乗っていたイリアスだった。

 これだ、と思った。

「おれ、馬に乗れるようになりたいです!」

 海人が生き生きと答えると、ダグラスとシモンはにっこりとうなずいた。

 ダグラスが言う。

「隊長。俺とシモンで彼の面倒をみましょう。乗馬の訓練もここでできますしな」
「ほんとですか⁉」

 海人は声を弾ませた。
 シモンは海人に近づき、よろしく、と握手を求めてきた。

「きみのことはカイトって呼んでいいの?」
「はい、シモンさん!」
「俺のことはシモンでいいよ。歳、そんな変わんないだろ」
「いま十七ですけど、あと二か月で十八になります」
「なら同い年だな! ため口でいいよ。堅苦しいの苦手だから」
「じゃあ、シモン。よろしく!」

 がっちりと握手する。

 決まったことのように隊長そっちのけで話を進めていると、イリアスはダグラスに言った。

「……世話をかけるが、よろしく頼む」

 若い上官に頭を下げられ、中年の副官はなんの、と懐の広さを見せた。
 話しが終わると、イリアスは海人を見た。

「昼がまだだったな。遅くなってしまったが、食べに出るか」

 そういえば昼前にナンに包まれた肉を食べたきりだ。

 衝撃的な話しばかりだったので、すっかり忘れていた。急に腹が空いてくる。
 イリアスが立ち上がり、全員が執務室から出た。
 
 先を行こうとしたイリアスに、俺らはここで、とダグラスが言った。
 この二人は勤務中だ。イリアスは軽くうなずいて行こうとしたが、何かを思い出したかのように振り返った。

「シモン、おまえの属性魔法は風だったな」
「? そうですが」

 突然どうしたんだと首を傾げたシモンに、イリアスは淡々と告げた。

「火を消すのに使った魔法はな、水だけじゃない。水の中に風魔法も入れてある」
「‼」

 衝撃で固まったシモンにイリアスは止めを刺した。

「自分の属性魔法に気づかないのは問題だぞ。もっと精進しろ」

 言って、イリアスは歩き出した。

 海人はシモンが泣きそうなくらい顔を歪め、ダグラスが天を仰いで彼の肩を叩いているのを見たのだった。
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