異世界美貌の騎士様は、キスで魔力をもっていく

琉希

文字の大きさ
23 / 117

第2章 街での暮らし⑨『イリアスの微笑』

しおりを挟む
 イリアスに連れられ屋敷に戻ると、海人は急ごしらえしてくれた風呂に入った。
 左腕の傷は湯につけないよう言われたが、湯をかけてしまい、傷がしみた。

 傷は腕の皮を切る程度で縫うほどのことではなかった。
 
 拉致らちされかけたと聞いたグレンとマーシャはことの外、海人を心配した。
 食事も喉を通りやすいものにしてくれ、精神の昂ぶりを治めてくれるハーブティーも淹れてくれた。
 
 ひとりにならないように、代わる代わるそばにいてくれた。

 イリアスはシモンと共に駐屯地に戻った。

 本当はそばにいて欲しかったが、何かと後処理があるようで、我がままは言えなかった。
 
 陽が落ちた頃にイリアスが帰ってきた。
 
 部屋で休んでいた海人を見に来てくれたときには、だいぶ落ち着いていた。

 海人はイリアスの顔を見るなり、謝った。

「ごめんなさい……」

 言いつけを破り、ひとりで出掛けたことはわかっているだろう。
 まさかこんなことになるとは思わなかった。
 
 辺境警備隊の誰かと一緒にいるということがどれほど相手への抑止力になっていたのか、わかっていなかった。
 それに、自分は本当に狙われる存在だったのだと身をもって知った。
 それまではどこか他人事のように感じていたのだ。
 
 顔を上げられない海人に、イリアスはひとこと、無事でよかった、とだけ言った。
 
 海人はその優しさにまた涙が出そうになり、ベッドに潜った。

「ゆっくり休め」

 イリアスが部屋から出ていく。
 
 海人は布団の中で声を押し殺して泣いた。

 どれくらい泣いただろうか。
 
 涙が出尽くし、疲れ果てているのに、なかなか眠れなかった。
 寝ようとすると、さらわれた恐怖が舞い戻ってくるのだ。

 殴られた腹、切られた腕。縛り上げられ身動きできず、どこに連れて行かれるのかもわからない恐怖。

 そして何より人間の断末魔が一番怖かった。

 布団から顔を出すと、部屋は月光で照らされていた。

 屋敷にはイリアスもいて安全なはずなのに、窓から侵入者があるように思えて、気が気でなかった。

 幾度も寝返りを打ったあと、海人は起き出し、そろりと部屋を出た。
 
 不安で眠れなくて、イリアスの部屋の前まで来る。

 ノックをしようとしたとき、グレンからイリアスの部屋には入ってはいけないと言われたことを思い出した。
 
 部屋に戻ろうと思ったが、近くに人がいないのは不安だった。
 イリアスの部屋の前をしばしうろうろしていたが、扉の横に座り込んだ。

(少しだけ)

 そう思いながら、海人は目を閉じた。


 ***

 
 目が覚めたとき、海人はいつもと違う部屋にいることに気がついた。
 
 窓を見ると、外は薄青い。鳥のさえずりがかすかに聞こえた。

 体を起こしてみると、椅子に座ったまま寝ているイリアスがいた。
 長い脚を組んで、頬杖をついたままだ。

(ここ……イリアスの部屋?)

 昨夜、眠れなくてイリアスの部屋まで来て、座ったら眠ってしまったようだ。
 あれだけ寝付けなかったのに、不思議だった。

 部屋の前で寝ていた海人をベッドに運んでくれたのだろうが、まったく気づかなかった。
 精神が憔悴しょうすいしきっていたからかもしれない。

(そばにいてくれたんだ)

 イリアスは海人がこの世界にやって来てから、ずっと守ってくれていた。
 海人の意見を尊重してくれ、働きに応じて報酬だってくれた。

 そして拉致されたときは真っ先に助けに来てくれた。
 海人は強くて綺麗なこの人が、そこまでしてくれる価値が自分にあるのかと思ってしまった。
 
 跳躍者だけが持つという、特別な能力。
 
 しかしその力が本当にあるかどうかわからない。

 方法さえ教わっていない。
 だが本当に魔力を付与できる力があるとしたら、自分が彼にできることは、その力を差し出すことだけだ。
 
 海人が眠っているイリアスを見つめていると、視線に気づいたかのように、目を開けた。
 
 どきりとする。

「起きてたのか」

 イリアスは体の前で両手を組み、軽く伸びをした。

「あの、ベッド、ごめん」

 なぜか急に恥ずかしくなった。肩を回しながら、彼は気にするな、と言った。

「今日は屋敷でゆっくりしていろ。まだ疲れがとれていないだろう」

 イリアスが気遣ってくれるが、海人は首を振った。
 駐屯地には行くつもりだった。

「あんなことがあったから、みんなに謝りに行かなきゃ」
「あんなことがあったから、休めと言っているんだがな」

 イリアスが呆れたように言ったので、海人は笑った。

「大丈夫。みんなに御礼も言いたいんだ」

 ベッドから抜け出した海人はイリアスに向かって頭を下げた。

「イリアス。助けてくれて、ありがとう」

 心からの謝辞にイリアスは軽く目を見張った後、ふと口元を和らげた。

「もう、ひとりになるなよ」

 海人は初めて、イリアスが微笑んだのを見た。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。 そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。 倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。 そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。 体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。 2026.1.5〜

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...