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第3章 王都への道⑥『お花、どうぞ』
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そこはこれまで立ち寄った宿場町のどこよりも美しい里だった。
周囲は山林に囲まれ、長閑な雰囲気だが里は活気づいていた。
祭りでもあるのか、人は忙しなく動き、薄紅色の大振りの花が至るところに飾られている。
到着したのは昼過ぎだったが、今日はこれ以上進まず、この里で夜を明かす予定だ。明朝、日が昇る前に立てば、最後の街に野宿せずに着けるらしい。
シモンは早速、宿屋で手続きをしており、イリアスと海人は宿の外で待っていた。
すると、籠に花を詰めた若い女の人がやってきた。
「外から来た方ですね。今日は花鎮めのお祭りなんですよ。お花、どうぞ」
フリルのスカートにくるくるした長い栗毛の女の人は、にこりとしながら、海人に花を差し出した。
(かわいい……)
海人はちょっとドキドキしながら、蓮華を大きくしたような花を受け取った。
「騎士様もおひとつ、どうぞ」
頬を赤らめながら、上目遣いでイリアスにも花を渡す。
イリアスが受け取ると、恥ずかしそうに片耳に髪をかけた。色っぽい所作だ。
海人は自分のときとの態度の違いに、そうですよね、本命はそっちですよね、といじけた。
イリアスは受け取った花を見て、これは何に使うんだ、と訊いた。
美貌の騎士様に話しかけられた彼女は、頬を上気させて答えた。
「お祭りの最後に、このお花を里の裏手にある川に流すんです。花鎮めの祭りは亡くなった方への鎮魂の祭りなんですよ」
灯籠流しみたいなものか、と海人は思った。
お盆の季節に灯籠に火を灯して海や川に流す。
暗闇の中を柔らかい光の灯った灯籠がゆるやかに流れていく光景は、とても幻想的だった。
「あの、騎士様。よかったら……」
女の人が何かを言いかけたところで、シモンが宿から出てきた。
「お待たせしました。今日はお祭りみたいですね」
宿屋でもらったのか、同じように花を持っている。
シモンは花籠を持った彼女に笑いかけ、
「ありがとう。もう行っていいですよ」
と、体よく追い払った。有無を言わさぬ笑顔に、彼女は慌てたように駆けて行った。
走って行く後ろ姿を見て、シモンがため息交じりに言った。
「だめじゃないですかー。若い子と話し込んだりしちゃ。惚れたりしたらかわいそうですよ」
「里の祭りだ。無下にもできないだろう」
「そうかもしれませんけどお。カイトも、ああいうときは追い払わないとダメだぞ。かわいい子だからって相手しちゃダメなんだからな!」
「お、おれは別に、なんとも……」
ちょっとかわいいと思ってしまったのは本当なので、あまり説得力はなかった。
シモンはきょろきょろと周辺を見て、広場の向こうを指さした。
「あっちにうまい店があるそうですよ。昼飯にしましょう」
周囲は山林に囲まれ、長閑な雰囲気だが里は活気づいていた。
祭りでもあるのか、人は忙しなく動き、薄紅色の大振りの花が至るところに飾られている。
到着したのは昼過ぎだったが、今日はこれ以上進まず、この里で夜を明かす予定だ。明朝、日が昇る前に立てば、最後の街に野宿せずに着けるらしい。
シモンは早速、宿屋で手続きをしており、イリアスと海人は宿の外で待っていた。
すると、籠に花を詰めた若い女の人がやってきた。
「外から来た方ですね。今日は花鎮めのお祭りなんですよ。お花、どうぞ」
フリルのスカートにくるくるした長い栗毛の女の人は、にこりとしながら、海人に花を差し出した。
(かわいい……)
海人はちょっとドキドキしながら、蓮華を大きくしたような花を受け取った。
「騎士様もおひとつ、どうぞ」
頬を赤らめながら、上目遣いでイリアスにも花を渡す。
イリアスが受け取ると、恥ずかしそうに片耳に髪をかけた。色っぽい所作だ。
海人は自分のときとの態度の違いに、そうですよね、本命はそっちですよね、といじけた。
イリアスは受け取った花を見て、これは何に使うんだ、と訊いた。
美貌の騎士様に話しかけられた彼女は、頬を上気させて答えた。
「お祭りの最後に、このお花を里の裏手にある川に流すんです。花鎮めの祭りは亡くなった方への鎮魂の祭りなんですよ」
灯籠流しみたいなものか、と海人は思った。
お盆の季節に灯籠に火を灯して海や川に流す。
暗闇の中を柔らかい光の灯った灯籠がゆるやかに流れていく光景は、とても幻想的だった。
「あの、騎士様。よかったら……」
女の人が何かを言いかけたところで、シモンが宿から出てきた。
「お待たせしました。今日はお祭りみたいですね」
宿屋でもらったのか、同じように花を持っている。
シモンは花籠を持った彼女に笑いかけ、
「ありがとう。もう行っていいですよ」
と、体よく追い払った。有無を言わさぬ笑顔に、彼女は慌てたように駆けて行った。
走って行く後ろ姿を見て、シモンがため息交じりに言った。
「だめじゃないですかー。若い子と話し込んだりしちゃ。惚れたりしたらかわいそうですよ」
「里の祭りだ。無下にもできないだろう」
「そうかもしれませんけどお。カイトも、ああいうときは追い払わないとダメだぞ。かわいい子だからって相手しちゃダメなんだからな!」
「お、おれは別に、なんとも……」
ちょっとかわいいと思ってしまったのは本当なので、あまり説得力はなかった。
シモンはきょろきょろと周辺を見て、広場の向こうを指さした。
「あっちにうまい店があるそうですよ。昼飯にしましょう」
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