異世界美貌の騎士様は、キスで魔力をもっていく

琉希

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第3章 王都への道⑧『襲撃』

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 シモンがイリアスに助けられたのは、二年半前だった。
 当時、王都魔獣討伐にシモンは初めて参加していた。
 
 入団一年で魔獣討伐に参加できるのは、かなりの実力がないと無理なのだそうだ。
 ラダはその討伐部隊には選ばれなかったというから、シモンのすごさがわかる。
 
 王都の近くにある森は深い。ゆえに、危険な魔獣が多く生息している。

 魔獣討伐部隊は四つの領の警備隊が一組ずつ、近衛騎士団から六組、合計で十組がそれぞれ決められた範囲を索敵、討伐していく。
 
 魔獣を相手にする場合、援護として必要なのが魔法だった。

 しかし、どの領の警備隊も、近衛騎士団すらも魔法を使えない者がほとんどである。
 ゆえに魔法を専門にする魔導士が魔獣討伐のときに派遣される。
 
 今回も各組ひとりずつ、魔法院から魔導士が派遣されていたが、リンデの辺境警備隊は魔導士派遣を断っていた。

 彼らは隊員の誰もが剣と魔法を駆使するという、他の隊にはない特徴があった。
 各々の潜在能力が高いのだ。
 その実力は王宮の要人を守る任に就いている近衛騎士団を凌いでいると噂されており、その筆頭が隊長のイリアスだった。
 
 ちなみにシモンが討伐隊に選抜された理由は、防御魔法を重視されてのことである。
 魔獣討伐は一組が十数人いても、魔獣との戦いで命を落とすことはままあるという。

 シモンはそのとき、十人が集まった組にいて、窮地に立たされていた。
 彼らは運悪く、狼型魔獣ドーターの縄張り奥深くに入り、住処の近くに足を踏み入れてしまったのだ。
 
 ドーターの怒りは激しかった。あのとき何頭いたのか、思い出せないくらいの数に囲まれた。

 こういうときは撤退するに限るが、ドーターは住処を脅かした人間を許す気はなかったようで、逃げる隙を作らせなかった。
 仲間がしだいにやられていき、絶体絶命だったとき、たまたま近くにいたイリアスが異変に気付き、駆け付けてくれた。
 
 彼らリンデ組はわずか五人しかいないのに、強かった。
 中でもイリアスの戦いぶりは圧倒的だった。 
 
 魔法院の魔導士が目を見張るほどの高魔力の魔法が放たれ、鋭い風刃ふうじんでドーターが数頭やられた。
 それを見たドーターが怯んだところを剣で叩いていく。
 あれだけの数がいたドーターだが、勝ち目がないと思ったのか、散り散りに森の奥へと逃げていった。
 
 リンデ組はあっという間に魔獣を蹴散らしてしまった。
 あわや全滅となりかけたシモンらは、彼らの救援で九死に一生を得たのだという。

「あんな助けられ方したら、惚れちゃうだろ⁉」
 
  シモンは助けた本人を前に、鼻息荒く海人に語った。

「う、うん……」

 ちょっと引いた海人に、ラダが笑う。

「そのシモンが、今こうして憧れの隊長と一緒に任務にあたってるんだもんな。感慨深いよ」

 ラダは興奮を治めようと、ポンとシモンの肩を叩いたとき―

 窓の外から甲高い悲鳴が上がった。

「フロータービーストだ!」

 外から聞こえた声に、海人以外の三人が同時に立ち上がった。
 シモンが真っ先に外に出て、ラダも店を飛び出していった。
 
 イリアスの後ろを追って海人も外に出ると、皆、空を見上げていた。
 里の上空を黒い蝙蝠こうもりのような羽をした大きな魔獣が旋回していた。

「隊長! ドーターもいます!」

 シモンが鋭い声を上げた。

 里の人たちは魔獣の出現に近くの家や建物に転がり込んでいく。
 狼よりひと回り大きく、黒い毛皮をした魔獣ドーターは値踏みするかのように、悠々と里の中を歩いている。
 
 ゆっくり歩みを進めていた一頭が海人を見つけた。
 途端、赤い瞳をたぎらせて、向かってくる。

 海人はその赤い瞳に囚われたように、目が離せなかった。

 イリアスが風の魔法を放ち、鋭い風刃がドーターを引き裂く。

「カイトは店に入ってろ!」

 イリアスが叫ぶが、海人は足が震えて動けなかった。

 これは、自分が惹き寄せたのか―

 硬直した海人にシモンが駆け寄り、腕を掴まれた。
 引きずるように店に放りこまれ、扉が閉められる。

 店内には怯えた人たちが、窓から離れたところに固まっていた。
 海人はガクガクする膝を握り、力を込めた。

 震えを抑え、くずおれそうになる心を叱咤する。
 
 戦ってくれている人たちがいるのだ。
 
 海人は顔を上げた。閉じられた扉を見つめ、両手を握る。
 
(どうか、無事で……!)
 
 今の海人には、イリアスたちの無事を祈ることしかできなかった。

 
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