34 / 116
第3章 王都への道⑨『結界』
しおりを挟む
店の扉を閉めたシモンはイリアスの横に立ち、剣を抜いた。
狼型魔獣ドーターはまだいる。奴らは二、三頭で動くことが多かった。
里の人々は家に入って身を潜めている。
人の匂いを嗅ぎ取ったドーターが住居に体当たりをしていたが、入れないとわかるとすぐに諦めた。
代わりにもっと『気になるもの』に向かってやってくるだろう。
イリアスはドーターには目をくれず、上空を見ていた。
様子を窺うように、里を見下ろしながら旋回を続ける黒い羽根。鷲のような頭を持つ鋭い瞳と嘴。
鳥獣型魔獣フロータービースト。
(あれが下りてきたらまずい)
人間の五倍ほどの大きさがある。
獲物を見つけたら降下し、鋭利な足で掴み、連れ去っていく。
かまいたちのような風の魔法を放つこともあり、カイトを狙って上空から魔法を放ってくる危険もあった。
イリアスは店の前から動くことができない。
ぐるぐると見定めるように旋回していた鳥獣型魔獣に言語があったとしたら、こんな感じだろう。
―なんだかよくわからないが、
なにか気になって、来てみた。
そして、なぜか、あのあたりが気になる。
あそこになにかある。あれが、欲しい―
イリアスは第五の霊脈に魅かれて出て来る魔獣の気持ちは、こんなものではないかと思っている。
人間ほどの知能はないため、食欲優先のようだが、知能の高い魔獣になれば、カイトを狙うことを重視するかもしれない。
姿が見えなかったラダが剣を携えてやってきた。ラダが合流し、戦力が増える。
これはありがたいことだった。
遠目でドーターが駆け寄ってくるのが見えたが、シモンが風の魔法を放って牽制し、ラダが回り込んでドーターを仕留める。
危なげない戦いぶりを確認し、イリアスは鳥獣型魔獣に意識を向けた。
空中を飛んでいるので仕留めにくいが、フロータービースト一匹くらいなら退治できるだろう。
だが、山間にあるこの里は、奴らの根城が近いのかもしれない。
あの一匹だけを退治しても、カイトに魅かれ、魔獣がまた出てくる可能性は大いにある。
この里で、ひとりたりとて犠牲者を出すわけにはいかなかった。
もしここで怪我人でも出れば、カイトは自責の念に囚われ、苦しみ続けるだろう。
そんなことにはさせたくなかった。
イリアスは決断した。
「里に結界を張る。時間を稼いでくれ」
シモンとラダが短く返事をし、周囲を警戒する。
彼らに援護してもらっている間に、イリアスは胸の前で指先を合わし、精神を集中させた。
普段は難なく魔法を発動できても、結界ともなると時間が必要だった。
風の霊脈を使い、複雑に魔力を編み込んでいく。
里全体を覆う、広域結界。
結界は防御魔法の一つではあるが、通常の防御魔法とは比べ物にならないほど強力な魔法障壁だ。
一度張った結界を壊すには、魔法による力業か、時を経て自然消滅するかのどちらかである。
そのため通常の防御魔法より多くの魔力を使う。そもそも魔力の少ない者には結界は作れないうえに、顕現するための干渉方法もまた複雑だった。
フロータービーストは羽ばたきながらしばらく旋回していたが、いよいよ狙いを定め、カイトのいる店を目指して急降下した。
刹那―
バチンッとその巨体が強い力で弾かれた。
間一髪で、イリアスの広域結界が完成した。
大きな鳥獣が弾かれた音を聞いて、ラダが空を見上げた。
「すごい……!」
シモンも同じように見上げていた。
狼型魔獣ドーターはまだいる。奴らは二、三頭で動くことが多かった。
里の人々は家に入って身を潜めている。
人の匂いを嗅ぎ取ったドーターが住居に体当たりをしていたが、入れないとわかるとすぐに諦めた。
代わりにもっと『気になるもの』に向かってやってくるだろう。
イリアスはドーターには目をくれず、上空を見ていた。
様子を窺うように、里を見下ろしながら旋回を続ける黒い羽根。鷲のような頭を持つ鋭い瞳と嘴。
鳥獣型魔獣フロータービースト。
(あれが下りてきたらまずい)
人間の五倍ほどの大きさがある。
獲物を見つけたら降下し、鋭利な足で掴み、連れ去っていく。
かまいたちのような風の魔法を放つこともあり、カイトを狙って上空から魔法を放ってくる危険もあった。
イリアスは店の前から動くことができない。
ぐるぐると見定めるように旋回していた鳥獣型魔獣に言語があったとしたら、こんな感じだろう。
―なんだかよくわからないが、
なにか気になって、来てみた。
そして、なぜか、あのあたりが気になる。
あそこになにかある。あれが、欲しい―
イリアスは第五の霊脈に魅かれて出て来る魔獣の気持ちは、こんなものではないかと思っている。
人間ほどの知能はないため、食欲優先のようだが、知能の高い魔獣になれば、カイトを狙うことを重視するかもしれない。
姿が見えなかったラダが剣を携えてやってきた。ラダが合流し、戦力が増える。
これはありがたいことだった。
遠目でドーターが駆け寄ってくるのが見えたが、シモンが風の魔法を放って牽制し、ラダが回り込んでドーターを仕留める。
危なげない戦いぶりを確認し、イリアスは鳥獣型魔獣に意識を向けた。
空中を飛んでいるので仕留めにくいが、フロータービースト一匹くらいなら退治できるだろう。
だが、山間にあるこの里は、奴らの根城が近いのかもしれない。
あの一匹だけを退治しても、カイトに魅かれ、魔獣がまた出てくる可能性は大いにある。
この里で、ひとりたりとて犠牲者を出すわけにはいかなかった。
もしここで怪我人でも出れば、カイトは自責の念に囚われ、苦しみ続けるだろう。
そんなことにはさせたくなかった。
イリアスは決断した。
「里に結界を張る。時間を稼いでくれ」
シモンとラダが短く返事をし、周囲を警戒する。
彼らに援護してもらっている間に、イリアスは胸の前で指先を合わし、精神を集中させた。
普段は難なく魔法を発動できても、結界ともなると時間が必要だった。
風の霊脈を使い、複雑に魔力を編み込んでいく。
里全体を覆う、広域結界。
結界は防御魔法の一つではあるが、通常の防御魔法とは比べ物にならないほど強力な魔法障壁だ。
一度張った結界を壊すには、魔法による力業か、時を経て自然消滅するかのどちらかである。
そのため通常の防御魔法より多くの魔力を使う。そもそも魔力の少ない者には結界は作れないうえに、顕現するための干渉方法もまた複雑だった。
フロータービーストは羽ばたきながらしばらく旋回していたが、いよいよ狙いを定め、カイトのいる店を目指して急降下した。
刹那―
バチンッとその巨体が強い力で弾かれた。
間一髪で、イリアスの広域結界が完成した。
大きな鳥獣が弾かれた音を聞いて、ラダが空を見上げた。
「すごい……!」
シモンも同じように見上げていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
273
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる