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第3章 王都への道⑫『海人の力』
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日が暮れた窓の外から軽快な音楽が聴こえてくる。
里は昼間に魔獣が襲撃してきたとは思えないほど、何事もなかったかのように明るく賑やかだった。
花鎮めの祭りが始まっていた。
当初は開催が危ぶまれたが、里はイリアスが張った結界が生きている。
魔獣が入ってくることはないと、シモンとラダが説明したおかげで、予定通り行われることになった。
海人とシモンは宿屋の一階にいた。
夜には食堂になった店内で寛いでいる。食事を済ませ、軽くつまめる木の実の盛り合わせを口に放り込みながら、果汁を飲んでいた。
二人が窓際の席に座っていたところ、魔獣を退治してくれた騎士の顔を見に来る者が何人もいて、シモンが愛想よく対応していた。
そのたびに海人は居たたまれない気持ちになった。
里が襲われたのは、自分のせいなのだ。
そんなことも露知らず、御礼とばかりに酒を置いて行く人がいた。
王都までは禁酒中のシモンは苦笑しながらも、ありがたく受け取っていた。
中には「騎士様に御礼を言う」という名目で、噂になった美貌の人を一目見に訪ねてくる若い女の子たちもいた。だがシモンがあしらうまでもなく、イリアスはまだ起きていなかった。
里の人たちから祭りに誘われたが、イリアスが休んでいるのに出かける気にもなれない。かといってすることもないので、こうやって宿屋の一階で時間を潰していた。
海人は果汁の入ったコップを揺らしながら言った。
「明日は早朝出発って話だったけど、無理だよね」
「んー。隊長が起きないことにはどうにもなんないしな。王都に着くのが一日伸びるくらいだろうな」
海人がイリアスの様子を見に部屋に行ったら、深く眠っているようで、全く起きる気配がなかった。そのことをシモンに言うと、少し驚いていた。いつもなら、人が近づくとすぐに目を覚ますらしい。
シモンは窓から広場に駆けて行く子どもたちを眺めていたが、不意に口を開いた。
「本当のこと言うと、半信半疑だったんだ」
シモンは木の実を口に入れた。
「でもおまえの力、本物だったんだな」
イリアスは一度目の結界で魔力をほとんど使い切っていたと思われる。それを海人が回復させた。しかも初めに張った結界より強力になっているのは視てわかった。イリアスの生来の魔力を超える力を得たからだ、というようなことをシモンは言った。
「おれも、あんなこと本当にできるなんて思ってなかった」
海人自身も異能があると言われても、信じきれないところがあった。
生まれたときから特殊な能力などなかったし、この世界に来てからも体に変化を感じることはなかった。だが、疑いようのない現実を体感した。
あの詠唱の言葉をきっかけに、体に異変も感じた。
シモンは片肘をついて、口元を手で隠しながら言った。
「どうやったのか気になるけど」
ちらりと見られ、海人の心臓が跳ねた。
彼も魔法を扱う者だ。その恩恵に預かれなくても、魔力の付与自体には興味があるらしい。
海人はあのときの状況を思い返した。
呪文のようなものを唱えた後、海人は体の奥深くから『何か』が沸き起こるのを感じた。嫌な感じはせず、温かいような感覚だ。その『何か』はイリアスから口づけされて、胸を通り、喉を通り、彼に渡っていった。まさに『持っていかれた』感じだった。その光景は端から見れば、ただのキスシーンだ。
唇を触りながら、なんて答えようかと言葉に詰まっていると、シモンが不貞腐れたように言った。
「けど、隊長は知られたくなかったみたいだからな。聞かないでおいてやるよ」
隊長ラブな彼は敬愛する上司を裏切らない。
シモンが追及しないでいてくれることに海人はホッとした。
その後もとりとめのない会話を二人で続けていた。
「俺、王宮の中に入ったことないからさ。実はちょっと楽しみ」
「イリアスは何度か行ったことあるみたいだけど」
「隊長は腐っても貴族だからなあ」
「誰が腐っても貴族だ」
不意に第三者の声が割って入った。
二人が顔を上げると、いつの間にかイリアスが近くに立っていた。
里は昼間に魔獣が襲撃してきたとは思えないほど、何事もなかったかのように明るく賑やかだった。
花鎮めの祭りが始まっていた。
当初は開催が危ぶまれたが、里はイリアスが張った結界が生きている。
魔獣が入ってくることはないと、シモンとラダが説明したおかげで、予定通り行われることになった。
海人とシモンは宿屋の一階にいた。
夜には食堂になった店内で寛いでいる。食事を済ませ、軽くつまめる木の実の盛り合わせを口に放り込みながら、果汁を飲んでいた。
二人が窓際の席に座っていたところ、魔獣を退治してくれた騎士の顔を見に来る者が何人もいて、シモンが愛想よく対応していた。
そのたびに海人は居たたまれない気持ちになった。
里が襲われたのは、自分のせいなのだ。
そんなことも露知らず、御礼とばかりに酒を置いて行く人がいた。
王都までは禁酒中のシモンは苦笑しながらも、ありがたく受け取っていた。
中には「騎士様に御礼を言う」という名目で、噂になった美貌の人を一目見に訪ねてくる若い女の子たちもいた。だがシモンがあしらうまでもなく、イリアスはまだ起きていなかった。
里の人たちから祭りに誘われたが、イリアスが休んでいるのに出かける気にもなれない。かといってすることもないので、こうやって宿屋の一階で時間を潰していた。
海人は果汁の入ったコップを揺らしながら言った。
「明日は早朝出発って話だったけど、無理だよね」
「んー。隊長が起きないことにはどうにもなんないしな。王都に着くのが一日伸びるくらいだろうな」
海人がイリアスの様子を見に部屋に行ったら、深く眠っているようで、全く起きる気配がなかった。そのことをシモンに言うと、少し驚いていた。いつもなら、人が近づくとすぐに目を覚ますらしい。
シモンは窓から広場に駆けて行く子どもたちを眺めていたが、不意に口を開いた。
「本当のこと言うと、半信半疑だったんだ」
シモンは木の実を口に入れた。
「でもおまえの力、本物だったんだな」
イリアスは一度目の結界で魔力をほとんど使い切っていたと思われる。それを海人が回復させた。しかも初めに張った結界より強力になっているのは視てわかった。イリアスの生来の魔力を超える力を得たからだ、というようなことをシモンは言った。
「おれも、あんなこと本当にできるなんて思ってなかった」
海人自身も異能があると言われても、信じきれないところがあった。
生まれたときから特殊な能力などなかったし、この世界に来てからも体に変化を感じることはなかった。だが、疑いようのない現実を体感した。
あの詠唱の言葉をきっかけに、体に異変も感じた。
シモンは片肘をついて、口元を手で隠しながら言った。
「どうやったのか気になるけど」
ちらりと見られ、海人の心臓が跳ねた。
彼も魔法を扱う者だ。その恩恵に預かれなくても、魔力の付与自体には興味があるらしい。
海人はあのときの状況を思い返した。
呪文のようなものを唱えた後、海人は体の奥深くから『何か』が沸き起こるのを感じた。嫌な感じはせず、温かいような感覚だ。その『何か』はイリアスから口づけされて、胸を通り、喉を通り、彼に渡っていった。まさに『持っていかれた』感じだった。その光景は端から見れば、ただのキスシーンだ。
唇を触りながら、なんて答えようかと言葉に詰まっていると、シモンが不貞腐れたように言った。
「けど、隊長は知られたくなかったみたいだからな。聞かないでおいてやるよ」
隊長ラブな彼は敬愛する上司を裏切らない。
シモンが追及しないでいてくれることに海人はホッとした。
その後もとりとめのない会話を二人で続けていた。
「俺、王宮の中に入ったことないからさ。実はちょっと楽しみ」
「イリアスは何度か行ったことあるみたいだけど」
「隊長は腐っても貴族だからなあ」
「誰が腐っても貴族だ」
不意に第三者の声が割って入った。
二人が顔を上げると、いつの間にかイリアスが近くに立っていた。
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