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第3章 王都への道⑭『忠告』

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 イリアスは続けてラダに言った。

「里を出るとき、結界は解いていく。皆にはそのことを伝えておいてくれ」

 それを聞いたラダは惜しむような表情をした。

「このままというわけには、いきませんか」

 強固な結界が里を守ってくれているのだ。できることなら残しておいて欲しい、と目が語っていた。
 里の者は皆そう思うだろう。ラダは魔法に関しては詳しくはないようで、なぜ結界を解くのか、理由がわからなかったようだ。

「結界は魔力を持つ者の侵入を阻む。魔獣だけでなく、魔力を持つ人間もだ。内から外に出ることは可能だが、一度出たら里に入れなくなる。そうなれば困る者もいるだろう」

 魔力のない者にはありがたい結界だが、魔力のある者にとっては迷惑千万な話だ。
 イリアスの説明にラダは納得していた。ここで魔法の心得のあるシモンが口を挟んだ。

「結界を解くって、破るしかありませんよね。それって、かなりの魔力を使うんじゃないんですか」

 海人の力を得て、しつこかった鳥獣型魔獣をあきらめさせるほどの強力な結界らしい。シモンはイリアスが結界を解くのに、大量の魔力を消費しなければならないのでは、と心配していた。しかしそれは杞憂だった。

「あれは外からの攻撃には強いが、内からだと案外脆い。おまえでも破れるだろう」

 イリアスが答えると、シモンの声が弾んだ。

「ほんとですか! 俺、隊長の結界、破りたい! やってもいいですか!」

 非常に生き生きとしている。
 内から脆いとはいっても破れたら、上官に勝てたような気になれる、と思っているのがわかりやすく顔に出ていた。まやかしの気分でも勝利を味わいたかっただろうシモンだが、

「かまわんが、破れなかったら大恥かくぞ」

という、イリアスの痛烈な一言に悲壮な顔をした。その顔があまりにも情けなくて見えて、海人は笑った。申し訳なくて下を向いていたが、コミカルな会話に気分が軽くなった。
 ラダとユナも笑う。
 
 気がつくと外から聴こえる音楽の曲調が変わっていた。

「そうだ、良かったら広場に行きませんか。これから踊り子たちの花鎮めの舞があるんです。年に一度のことなので、踊り子たちも気合が入ってて、見物ですよ」

 地元の祭りを楽しんでもらいたいようで、ラダが誘ってきた。
 海人とシモンは顔を見合わせた。面白そうだが、イリアスの返答しだいだ。
 二人でイリアスを見ると、当人が気を利かせた。

「見たければ行ってこい」
「隊長はどうされます」
「私は遠慮する。せっかくで悪いが」
 
 最後の一言は里の者に対してだ。
 幼馴染同士の二人はとんでもない、と恐縮するが、残念そうだった。

「俺は行くけど、カイトはどうする?」

 シモンが立ち上がりながら海人を見る。

「あ……おれも行く」

 イリアスと二人きりでいるのは、なんとなく気まずかった。
 シモンがいてくれてよかったと思う。海人も立ち上がると、

「舞いの最後は里の人たちみんなで踊るんです。外から来た人たちも混ざったりして、けっこう楽しいんですよ」

 ユナが一緒にどうですか、と笑いかけてくるので、海人は照れた。

「俺はそういうの苦手で。でもダンスとか見るのは好きです」
「みなさん最初はそう言うんですよ」

 ユナはクスクスと笑った。
 同年代の女の人と話すのは久しぶりだ。高校の同級生が懐かしくなった。四人で店を出ようとしたとき、

「カイト」

 イリアスに呼び止められ、海人は振り返った。

「シモンから離れるなよ」

 低い忠告の声に、なぜか不穏な空気を感じ、海人は小さくうなずいた。
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