39 / 117
第3章 王都への道⑭『忠告』
しおりを挟む
イリアスは続けてラダに言った。
「里を出るとき、結界は解いていく。皆にはそのことを伝えておいてくれ」
それを聞いたラダは惜しむような表情をした。
「このままというわけには、いきませんか」
強固な結界が里を守ってくれているのだ。できることなら残しておいて欲しい、と目が語っていた。
里の者は皆そう思うだろう。ラダは魔法に関しては詳しくはないようで、なぜ結界を解くのか、理由がわからなかったようだ。
「結界は魔力を持つ者の侵入を阻む。魔獣だけでなく、魔力を持つ人間もだ。内から外に出ることは可能だが、一度出たら里に入れなくなる。そうなれば困る者もいるだろう」
魔力のない者にはありがたい結界だが、魔力のある者にとっては迷惑千万な話だ。
イリアスの説明にラダは納得していた。ここで魔法の心得のあるシモンが口を挟んだ。
「結界を解くって、破るしかありませんよね。それって、かなりの魔力を使うんじゃないんですか」
海人の力を得て、しつこかった鳥獣型魔獣をあきらめさせるほどの強力な結界らしい。シモンはイリアスが結界を解くのに、大量の魔力を消費しなければならないのでは、と心配していた。しかしそれは杞憂だった。
「あれは外からの攻撃には強いが、内からだと案外脆い。おまえでも破れるだろう」
イリアスが答えると、シモンの声が弾んだ。
「ほんとですか! 俺、隊長の結界、破りたい! やってもいいですか!」
非常に生き生きとしている。
内から脆いとはいっても破れたら、上官に勝てたような気になれる、と思っているのがわかりやすく顔に出ていた。まやかしの気分でも勝利を味わいたかっただろうシモンだが、
「かまわんが、破れなかったら大恥かくぞ」
という、イリアスの痛烈な一言に悲壮な顔をした。その顔があまりにも情けなくて見えて、海人は笑った。申し訳なくて下を向いていたが、コミカルな会話に気分が軽くなった。
ラダとユナも笑う。
気がつくと外から聴こえる音楽の曲調が変わっていた。
「そうだ、良かったら広場に行きませんか。これから踊り子たちの花鎮めの舞があるんです。年に一度のことなので、踊り子たちも気合が入ってて、見物ですよ」
地元の祭りを楽しんでもらいたいようで、ラダが誘ってきた。
海人とシモンは顔を見合わせた。面白そうだが、イリアスの返答しだいだ。
二人でイリアスを見ると、当人が気を利かせた。
「見たければ行ってこい」
「隊長はどうされます」
「私は遠慮する。せっかくで悪いが」
最後の一言は里の者に対してだ。
幼馴染同士の二人はとんでもない、と恐縮するが、残念そうだった。
「俺は行くけど、カイトはどうする?」
シモンが立ち上がりながら海人を見る。
「あ……おれも行く」
イリアスと二人きりでいるのは、なんとなく気まずかった。
シモンがいてくれてよかったと思う。海人も立ち上がると、
「舞いの最後は里の人たちみんなで踊るんです。外から来た人たちも混ざったりして、けっこう楽しいんですよ」
ユナが一緒にどうですか、と笑いかけてくるので、海人は照れた。
「俺はそういうの苦手で。でもダンスとか見るのは好きです」
「みなさん最初はそう言うんですよ」
ユナはクスクスと笑った。
同年代の女の人と話すのは久しぶりだ。高校の同級生が懐かしくなった。四人で店を出ようとしたとき、
「カイト」
イリアスに呼び止められ、海人は振り返った。
「シモンから離れるなよ」
低い忠告の声に、なぜか不穏な空気を感じ、海人は小さくうなずいた。
「里を出るとき、結界は解いていく。皆にはそのことを伝えておいてくれ」
それを聞いたラダは惜しむような表情をした。
「このままというわけには、いきませんか」
強固な結界が里を守ってくれているのだ。できることなら残しておいて欲しい、と目が語っていた。
里の者は皆そう思うだろう。ラダは魔法に関しては詳しくはないようで、なぜ結界を解くのか、理由がわからなかったようだ。
「結界は魔力を持つ者の侵入を阻む。魔獣だけでなく、魔力を持つ人間もだ。内から外に出ることは可能だが、一度出たら里に入れなくなる。そうなれば困る者もいるだろう」
魔力のない者にはありがたい結界だが、魔力のある者にとっては迷惑千万な話だ。
イリアスの説明にラダは納得していた。ここで魔法の心得のあるシモンが口を挟んだ。
「結界を解くって、破るしかありませんよね。それって、かなりの魔力を使うんじゃないんですか」
海人の力を得て、しつこかった鳥獣型魔獣をあきらめさせるほどの強力な結界らしい。シモンはイリアスが結界を解くのに、大量の魔力を消費しなければならないのでは、と心配していた。しかしそれは杞憂だった。
「あれは外からの攻撃には強いが、内からだと案外脆い。おまえでも破れるだろう」
イリアスが答えると、シモンの声が弾んだ。
「ほんとですか! 俺、隊長の結界、破りたい! やってもいいですか!」
非常に生き生きとしている。
内から脆いとはいっても破れたら、上官に勝てたような気になれる、と思っているのがわかりやすく顔に出ていた。まやかしの気分でも勝利を味わいたかっただろうシモンだが、
「かまわんが、破れなかったら大恥かくぞ」
という、イリアスの痛烈な一言に悲壮な顔をした。その顔があまりにも情けなくて見えて、海人は笑った。申し訳なくて下を向いていたが、コミカルな会話に気分が軽くなった。
ラダとユナも笑う。
気がつくと外から聴こえる音楽の曲調が変わっていた。
「そうだ、良かったら広場に行きませんか。これから踊り子たちの花鎮めの舞があるんです。年に一度のことなので、踊り子たちも気合が入ってて、見物ですよ」
地元の祭りを楽しんでもらいたいようで、ラダが誘ってきた。
海人とシモンは顔を見合わせた。面白そうだが、イリアスの返答しだいだ。
二人でイリアスを見ると、当人が気を利かせた。
「見たければ行ってこい」
「隊長はどうされます」
「私は遠慮する。せっかくで悪いが」
最後の一言は里の者に対してだ。
幼馴染同士の二人はとんでもない、と恐縮するが、残念そうだった。
「俺は行くけど、カイトはどうする?」
シモンが立ち上がりながら海人を見る。
「あ……おれも行く」
イリアスと二人きりでいるのは、なんとなく気まずかった。
シモンがいてくれてよかったと思う。海人も立ち上がると、
「舞いの最後は里の人たちみんなで踊るんです。外から来た人たちも混ざったりして、けっこう楽しいんですよ」
ユナが一緒にどうですか、と笑いかけてくるので、海人は照れた。
「俺はそういうの苦手で。でもダンスとか見るのは好きです」
「みなさん最初はそう言うんですよ」
ユナはクスクスと笑った。
同年代の女の人と話すのは久しぶりだ。高校の同級生が懐かしくなった。四人で店を出ようとしたとき、
「カイト」
イリアスに呼び止められ、海人は振り返った。
「シモンから離れるなよ」
低い忠告の声に、なぜか不穏な空気を感じ、海人は小さくうなずいた。
17
あなたにおすすめの小説
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる