異世界美貌の騎士様は、キスで魔力をもっていく

琉希

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第4章 いにしえの因果⑥『心音』

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 歓迎会といっても、夜会のパーティーである。
 海人はいつも袖のダボついた麻の服を着ていた。庶民が着ているものと変わらないもので、グレンが用意してくれている。既製品だからか、若干大きいのだが、気にはならなかった。

 イリアスは普段着であっても、良質な生地で袖口にカフスがついていたりする。サイズも身体に合わせて作っているようで、ぴったりだった。

 そのことについて、グレンが一度弁解してきたことがある。

「カイト様は特別な御方だからこそ、目立たない服装をご用意しました。本来なら、お体に合わせてお作りするのですが」

 領主家の面子を守りたいのだろう、グレンはそう言ったが、イリアスに言われて用意したに違いなかった。たしかに身なりの良い服は人目に付く。海人は着れればなんでもいいので、気にしていなかったが、さすがに今夜はこの服ではまずいようだ。

 応接間を出る前に、宰相から夜会用の服を用意するのでそれを着るように言われた。

 海人は宛がわれた部屋で用意された服を着ていた。

「これ、似合ってんのかな」

 誰もいない部屋で一人つぶやく。
 深いえんじ色の服で詰襟が少々窮屈だ。自分では選ぶことのない色だったが、借り物なので文句は言えない。

 時間になったらイリアスが迎えに来てくれることになっていた。といっても、イリアスの部屋は斜向かいである。
 
 シモンはどうしているかといえば、王太子と宰相との面談が終わると王宮を出た。これから数日、久しぶりの実家を楽しむことだろう。
 海人はもう会えない両親のことを思い出しかけ、慌てて頭を振った。

(考えるな! 生きているだけでもラッキーなんだから)

 海人はずっと自分のいた世界のことを考えないようにして、己を保ってきた。
 それはこれからも変わらないだろう。
 
 気を取り直そうと、頬を両手でぱちんと叩いたとき、扉を叩く音が聞こえた。
 返事をすると、私だ、というイリアスの声がした。
 
 扉を開けると隊服から夜会用の服に着替えたイリアスが立っていた。
 濃い藍色の服に同色のロングコート。袖口が白く、ワンポイントになっていた。

(殿下より、プリンスっぽいんですけど)

 海人は思わず見惚れてしまった。胸がトクトク鳴る。
 しかし、地味な色の服だった。眉目秀麗な彼は何を着てもかっこいいが、似合う色というのはあるもので、白を基調とした服であれば、誰の眼も釘付けにしただろう。王太子より注目を浴びるのは間違いない。

 服を選んだ人もそれがわかっていて、イリアスの容姿が映えないような色にしたのかもしれない。それでも充分にかっこよかった。
 
 海人がぽうっと見ていると、

「どうした?」
 
と、訊かれたので、慌てて、なんでもない、と首をふった。
 
 顔がほんのり熱くなって、海人は気づかれないように下を向いた。
 小鳥の心臓のように速い心音は、なかなか治まりそうになかった。
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