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第4章 いにしえの因果⑦『夜会』
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赤くなった顔を悟られないよう、イリアスの後ろについて海人は部屋を出た。
海人の後ろを衛兵が付いて来たが、イリアスには付いていなかった。
昼間、王太子が退室したあと宰相は海人に護衛を付けると言った。
「イリアス様にはお付けしませんので。王宮内はお詳しいでしょうし、あなたを狙う命知らずは、ここにはおりません」
と、真顔で言った。
剣がなくとも、魔法だけでも衛兵より強そうだ。宰相もそのことを重々承知しているようだった。
夜会の会場に案内してくれるはずのイリアスも、王宮は久しぶりのようで、途中、どっちに行けばいいか、立ち止まるときがあった。そんなときは後ろにいる海人の衛兵に声をかけた。
「こっちだったか」
急に話しかけられた衛兵は飛び上がるように答えた。
「はい! そちらです!」
礼を言われた衛兵が恐縮する。
リンデの辺境警備隊隊長の強さは近衛騎士団でも噂になるくらい有名だとシモンが言っていた。彼もイリアスのことを知っているのかもしれない。
迷路のような王宮を歩きながら、イリアスは珍しく不満を漏らした。
「私にも衛兵を付けてほしかった。たまに迷う」
海人はくすりと笑った。
「それって、ガイドが欲しいだけでしょ」
「そうとも言うな」
海人が声を上げて笑うと、
「やっと調子が出てきたな」
と、イリアスは目元を柔らかくした。海人は小さく首を傾げる。
「カルを出てから、元気がなかっただろう」
カルというのは魔獣が襲って来た、あの里のことだ。
イリアスは海人が里に迷惑をかけたことを気にしているのだと思っているようだ。
確かに里に迷惑をかけたことを気にはしていた。だが、それは海人自身にはどうすることもできないことであり、イリアスたちが守ってくれたことに感謝していた。
元気がないように見えた原因はそれだけではなかった。
海人はイリアスにどう接したらいいのか、わからなくなっていたのだ。
あれから何度も「魔力の付与」場面を頭の中で反芻し、どきどきしたり、胸が騒いだりしていた。
口づけの感覚を思い出し、動揺を隠すように笑ってみせる。
「うん、もう大丈夫」
そうか、とイリアスが言ったとき、夜会の会場に着いた。
最初に目についたのは、天井から吊り下げられた豪奢なシャンデリアだ。きらきら光って綺麗だった。
大広間の白い壁には花柄模様が描かれ、赤い絨毯が敷き詰められている。
会場にはテーブルはあるが椅子はない。立食形式だった。
海人は立食パーティーの経験などもちろんないので、急に不安になってきた。
どうすればいいのかわからない。訊くと、イリアスは好きに取って食べていればいいと気軽に言った。
会場には昼間会った宰相とあのベイルとかいう枢密院長官もいた。知っている顔はそれだけで、たまにイリアスに会釈をする人もいれば、声をかけて来る人もいた。
イリアスはその誰に対しても丁寧に話していた。
海人たちが会場に入って数分後、王太子が入ってきた。みな、道を開ける。
王太子はバルコニーを背にグラスを受け取ると、参加者もグラスを持った。
海人もグラスを渡され、受け取る。
酒のようだったので、飲むかどうか迷ってしまう。この世界では合法だが、海人にはまだためらいがあった。
グラスの中身を見つめてどうしようかと悩んでいると、
「口をつけて、飲むふりだけすればいい」
イリアスが周囲に聞こえないように、耳元で囁いた。
海人の心臓が跳ね、顔がまた熱くなった。
海人の後ろを衛兵が付いて来たが、イリアスには付いていなかった。
昼間、王太子が退室したあと宰相は海人に護衛を付けると言った。
「イリアス様にはお付けしませんので。王宮内はお詳しいでしょうし、あなたを狙う命知らずは、ここにはおりません」
と、真顔で言った。
剣がなくとも、魔法だけでも衛兵より強そうだ。宰相もそのことを重々承知しているようだった。
夜会の会場に案内してくれるはずのイリアスも、王宮は久しぶりのようで、途中、どっちに行けばいいか、立ち止まるときがあった。そんなときは後ろにいる海人の衛兵に声をかけた。
「こっちだったか」
急に話しかけられた衛兵は飛び上がるように答えた。
「はい! そちらです!」
礼を言われた衛兵が恐縮する。
リンデの辺境警備隊隊長の強さは近衛騎士団でも噂になるくらい有名だとシモンが言っていた。彼もイリアスのことを知っているのかもしれない。
迷路のような王宮を歩きながら、イリアスは珍しく不満を漏らした。
「私にも衛兵を付けてほしかった。たまに迷う」
海人はくすりと笑った。
「それって、ガイドが欲しいだけでしょ」
「そうとも言うな」
海人が声を上げて笑うと、
「やっと調子が出てきたな」
と、イリアスは目元を柔らかくした。海人は小さく首を傾げる。
「カルを出てから、元気がなかっただろう」
カルというのは魔獣が襲って来た、あの里のことだ。
イリアスは海人が里に迷惑をかけたことを気にしているのだと思っているようだ。
確かに里に迷惑をかけたことを気にはしていた。だが、それは海人自身にはどうすることもできないことであり、イリアスたちが守ってくれたことに感謝していた。
元気がないように見えた原因はそれだけではなかった。
海人はイリアスにどう接したらいいのか、わからなくなっていたのだ。
あれから何度も「魔力の付与」場面を頭の中で反芻し、どきどきしたり、胸が騒いだりしていた。
口づけの感覚を思い出し、動揺を隠すように笑ってみせる。
「うん、もう大丈夫」
そうか、とイリアスが言ったとき、夜会の会場に着いた。
最初に目についたのは、天井から吊り下げられた豪奢なシャンデリアだ。きらきら光って綺麗だった。
大広間の白い壁には花柄模様が描かれ、赤い絨毯が敷き詰められている。
会場にはテーブルはあるが椅子はない。立食形式だった。
海人は立食パーティーの経験などもちろんないので、急に不安になってきた。
どうすればいいのかわからない。訊くと、イリアスは好きに取って食べていればいいと気軽に言った。
会場には昼間会った宰相とあのベイルとかいう枢密院長官もいた。知っている顔はそれだけで、たまにイリアスに会釈をする人もいれば、声をかけて来る人もいた。
イリアスはその誰に対しても丁寧に話していた。
海人たちが会場に入って数分後、王太子が入ってきた。みな、道を開ける。
王太子はバルコニーを背にグラスを受け取ると、参加者もグラスを持った。
海人もグラスを渡され、受け取る。
酒のようだったので、飲むかどうか迷ってしまう。この世界では合法だが、海人にはまだためらいがあった。
グラスの中身を見つめてどうしようかと悩んでいると、
「口をつけて、飲むふりだけすればいい」
イリアスが周囲に聞こえないように、耳元で囁いた。
海人の心臓が跳ね、顔がまた熱くなった。
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