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第4章 いにしえの因果⑱『古書』

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 佐井賀は続けた。

「魔力をあげるときは詠唱が必要だ。でも、この世界で魔法を使うときは呪文なんていらないよね」

 海人はうなずいた。
 確かにそうだ。しかし、それを不思議だとは思わなかった。

 佐井賀は足を組み、上げた足を揺らした。

「魔力を生むための詠唱文は、僕が唱えなきゃ意味がない。僕の意志が必要なんだ。なのにその詠唱文を教えてくれたのは、この世界の人間だ。
 それっておかしくない?
 まるで僕が来ることを待っていたかのようだ。だから僕と彼らには何らかの因果関係があると思うんだ。僕はそれがなんなのか知りたい」

 佐井賀はその思いに至ったときから、この国の歴史、特に魔法の分野について調べ続けてきたという。

 魔力の付与ができるということは、まずは魔法の仕組みから理解することが必要だった。
 異世界の人間をこの世界に呼ぶ力は魔力において他にはないと思ったらしい。

 海人も、それはそうかもしれない、と思った。

「魔法書や学術書、古代の魔法とかも調べてみたんだけどね。でも異世界に関わりそうなものは何もなかった」

 佐井賀はそこで一旦、言葉を切った。そして、口端を上げた。

「だけど、まさかこんなところにヒントがあるとは思わなかった」

 佐井賀は机に置いた古びた本を、指先でトントンと叩いた。

「僕は王宮の外を自由に出歩くことを許されていないんだ。……十五年経った今でもね。
 時間だけはたっぷりあって、十年以上、ずっと調べ続けていたんだ。
 でも手がかりになりそうなものは見つからなくてさ……。
 あきらめかけていたとき、気分転換に手にしたのが、これ」

 イリアスが置かれた本の題名を読んだ。

「アルミルト神話?」

 佐井賀がうなずいた。

 ルテアニアの神話は読んでたんだけど、と独り言のようにつぶやく。

「僕はね、神話には真実が隠されていると思っているんだ。
 もちろん、すべてが事実だとは思っていないよ。でも神話を作るきっかけとなった事柄は必ずあると思ってるんだ」

 歴史はときに為政者たちの都合の良いものに書き換えられる。永く伝われば嘘は事実となり、真実は闇に葬られる。

 神話にもそういった側面があるのではないかと、佐井賀は言った。

「海人くんはアルミルト法国を知ってる?」

 問われて、うなずく。

 ルテアニア王国の隣国で、リンデと国境を隔てた先にある、山岳地帯の国だ。
 海人がうなずいたのを見て、佐井賀は古書に目を落とした。

「その国の神話でこういうものがあったんだ」

 佐井賀は本をめくった。古い本の独特な匂いがする。
 開いたページをイリアスが海人のために読み上げてくれた。
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