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第5章 動乱の王宮⑫『竜飛来』
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青く高い上空に飛来してきたその巨体を見て、アルミルト法国の旅人は我が目を疑った。
鳥獣型魔獣といえば、ルテアニア王国ではフロータービーストが代表的だ。蝙蝠のような容姿の黒い魔獣である。
だがそれよりも遥かに大きく、長い尾に鱗に覆われた赤い巨体。鳥というより爬虫類を思わせる。
あれはなんだ、と見上げている王都アルバスの住人たちの中で、アルミルト法国の旅人は叫んだ。
「竜だ! なんでこの国に!」
それを聞いたルテアニア王国の民は初めて見る竜を、その巨大さをただ物珍しげに仰ぎ見ていた。
「竜……?」
「おかあさん、りゅうってなに?」
旅人のそばにいた母娘が呑気に眺めている。竜の恐ろしさなど知るはずもない。
「あなたたち、はやく逃げて!」
竜の被害を目の当たりにしたことのある法国の旅人は、若い母親に向かって言うがきょとんとされた。
「え? 逃げるってどこへ?」
旅人もはっとした。
慣れない土地で自分もどこに逃げればいいのかわからない。旅人は近くにいた男の肩をつかんだ。
「どこかに地下道はないのか! あいつは火を吐くんだ!」
ぽかんとしているルテアニアの民に必死に呼びかけるが、なしのつぶてだった。
ひとり慌てふためく旅人に注目する者などいない。
彼らはみな、王都の上空を舞う赤黒い巨影に釘付けにされていた。
彼らがその恐怖に震えあがったのは、竜が灼熱の炎を吐いたときだった。
白亜の王宮が赤く染めあがる。
その巨大な口から吐かれた炎の強烈さと熱風に、王都アルバスは大混乱に陥った。
鳥獣型魔獣といえば、ルテアニア王国ではフロータービーストが代表的だ。蝙蝠のような容姿の黒い魔獣である。
だがそれよりも遥かに大きく、長い尾に鱗に覆われた赤い巨体。鳥というより爬虫類を思わせる。
あれはなんだ、と見上げている王都アルバスの住人たちの中で、アルミルト法国の旅人は叫んだ。
「竜だ! なんでこの国に!」
それを聞いたルテアニア王国の民は初めて見る竜を、その巨大さをただ物珍しげに仰ぎ見ていた。
「竜……?」
「おかあさん、りゅうってなに?」
旅人のそばにいた母娘が呑気に眺めている。竜の恐ろしさなど知るはずもない。
「あなたたち、はやく逃げて!」
竜の被害を目の当たりにしたことのある法国の旅人は、若い母親に向かって言うがきょとんとされた。
「え? 逃げるってどこへ?」
旅人もはっとした。
慣れない土地で自分もどこに逃げればいいのかわからない。旅人は近くにいた男の肩をつかんだ。
「どこかに地下道はないのか! あいつは火を吐くんだ!」
ぽかんとしているルテアニアの民に必死に呼びかけるが、なしのつぶてだった。
ひとり慌てふためく旅人に注目する者などいない。
彼らはみな、王都の上空を舞う赤黒い巨影に釘付けにされていた。
彼らがその恐怖に震えあがったのは、竜が灼熱の炎を吐いたときだった。
白亜の王宮が赤く染めあがる。
その巨大な口から吐かれた炎の強烈さと熱風に、王都アルバスは大混乱に陥った。
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