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終 章 巡る想い④『帰途』
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王都を出立する前、カイトはリンデの皆に土産を買いたいと言い、シモンはそれに付き合った。
駐屯地には王都名物の菓子や干物を、執事にはカフス、給仕係には手鏡、肉屋のロイには鞄を買っていた。
カイトはすっからかんになった、とうれしそうに笑っていた。
シモンにはまた別の機会にお礼をすると言われ、別にいいよ、と言いつつも内心嬉しかった。
王都を離れ、カイトはリンデから乗ってきた馬に跨って、ご機嫌だった。
竜が飛来して王宮に舞い戻るとき、カイトの馬は近くの木に括りつけてきた。盗まれる可能性もあったが、幸いなことにつながれたままだった。
隊長が目覚めるまでの間、シモンは近衛騎士団に出入りしていた。カルの里で再会したラダや元上司にも挨拶をして、仕入れた情報を報告しながらの戻り旅である。
魔獣もやはり出てきたが、隊長に退治してもらった。
帰路も順調だったが、リンデに帰り着くまであと二日というところで、野宿を強いられた。そこでシモンはとんでもない事実を知ってしまう。
そのとき、シモンは魔獣避けの香木を探しに森に入っていた。
両手に抱えるほどの枝を集め、二人のところに戻ろうとしたとき、その会話を聞いてしまったのだ。
陽も暮れかけ、辺りが茜色に染まっている。焚火の土台をはさみ、隊長とカイトが向き合って座っていた。
「あのさ、イリアス。おれ、どうしても、訊いておきたいことがあって」
カイトが深刻な声で話し出したので、シモンは思わず木の陰に隠れた。
「王宮で力の受け渡し、したじゃん」
そのときのことを思い返す。
シモンは隊長と一緒に城門まで戻っていたので、その光景はしっかりと見ていた。
魔力の付与がまさか物理的な受け渡し、つまり、口づけだなんて思いもよらなかった。
(あれは……うん、見られたくないな)
カルの里で隊長が自分とラダを追いやった理由がわかった。
竜飛来のときは一刻の猶予もなかったから仕方がないだろうが、それでも衆目は避けたい行為だ。
シモンは、けどそれになんの問題が、と思いながら聞き耳を立てた。悪趣味と言われようが、好奇心の方が強かった。
カイトはなかなか言い出さなかったが、意を決したように言った。
「あのとき、舌まで入れる必要あったの⁉」
カイトの声は森に響いた。シモンは危うく香木を落としそうになった。
(え、ええっ……⁉)
お怒りのカイトに、隊長は平然と答えた。
「覚えていない」
「ぜったい嘘だ」
カイトは頬を赤らめて、隊長をにらんでいた。にらんでいるのに、どことなく可愛げがある。
シモンは空を仰いだ。梢から鳥が飛び立っていく。
(あー……そっか。まあ、なんとなくそうかなとは思ってたけど。隊長、やっぱそうだったのか)
シモンは隊長ラブな部下なので、部下たちへの態度とカイトへの接し方の違いには気づいていた。
隊長がカイトに向ける目は常に優しかった。いつも無表情なのでわかりにくいが、目に感情が出るのだ。
カイトに女が近寄ったときなどは、肌に刺さるような険悪な空気を醸していた。
しかし、それを恋慕だと断定できるものはなかった。
(隊長とカイトかあ)
カイトも満更ではないというのが、帰りの道中でわかりやすく態度に出ていた。
シモンは敬愛する上官と仲の良い友人が恋人同士になることに、うれしい反面、なぜか寂しい気もした。
日暮れのカラスの鳴き声がこだまする。
カイトは隊長がまともに答えてくれないので、さらに文句を言い始めた。
「おれ、あんなキスされたの初めてだったんだぞ! てか、キスも初めてだったのに!」
(⁉)
シモンは慌てて身を乗り出した。
(待て、カイト! それは隊長を喜ばせるだけだ!)
カイトは気づかない。
「あ! いま馬鹿にしただろ!」
「してない」
「わかるんだぞ、そういうの!」
シモンは頭を押さえたくなった。これではただの痴話喧嘩だ。
これ以上、隠れているのはよそう。隊長は自分の存在に気づいている。
シモンは木の陰から姿を現した。
「あの、すみません。俺、いるんで、もうやめて?」
「!」
カイトは驚いたように顔を向けた。会話を聞かれたことを知り、真っ赤になっている。シモンは疲れた声を出した。
「隊長。俺、先に帰ってもいいですか……」
カイトは大慌てでシモンを引き留めたのだった。
駐屯地には王都名物の菓子や干物を、執事にはカフス、給仕係には手鏡、肉屋のロイには鞄を買っていた。
カイトはすっからかんになった、とうれしそうに笑っていた。
シモンにはまた別の機会にお礼をすると言われ、別にいいよ、と言いつつも内心嬉しかった。
王都を離れ、カイトはリンデから乗ってきた馬に跨って、ご機嫌だった。
竜が飛来して王宮に舞い戻るとき、カイトの馬は近くの木に括りつけてきた。盗まれる可能性もあったが、幸いなことにつながれたままだった。
隊長が目覚めるまでの間、シモンは近衛騎士団に出入りしていた。カルの里で再会したラダや元上司にも挨拶をして、仕入れた情報を報告しながらの戻り旅である。
魔獣もやはり出てきたが、隊長に退治してもらった。
帰路も順調だったが、リンデに帰り着くまであと二日というところで、野宿を強いられた。そこでシモンはとんでもない事実を知ってしまう。
そのとき、シモンは魔獣避けの香木を探しに森に入っていた。
両手に抱えるほどの枝を集め、二人のところに戻ろうとしたとき、その会話を聞いてしまったのだ。
陽も暮れかけ、辺りが茜色に染まっている。焚火の土台をはさみ、隊長とカイトが向き合って座っていた。
「あのさ、イリアス。おれ、どうしても、訊いておきたいことがあって」
カイトが深刻な声で話し出したので、シモンは思わず木の陰に隠れた。
「王宮で力の受け渡し、したじゃん」
そのときのことを思い返す。
シモンは隊長と一緒に城門まで戻っていたので、その光景はしっかりと見ていた。
魔力の付与がまさか物理的な受け渡し、つまり、口づけだなんて思いもよらなかった。
(あれは……うん、見られたくないな)
カルの里で隊長が自分とラダを追いやった理由がわかった。
竜飛来のときは一刻の猶予もなかったから仕方がないだろうが、それでも衆目は避けたい行為だ。
シモンは、けどそれになんの問題が、と思いながら聞き耳を立てた。悪趣味と言われようが、好奇心の方が強かった。
カイトはなかなか言い出さなかったが、意を決したように言った。
「あのとき、舌まで入れる必要あったの⁉」
カイトの声は森に響いた。シモンは危うく香木を落としそうになった。
(え、ええっ……⁉)
お怒りのカイトに、隊長は平然と答えた。
「覚えていない」
「ぜったい嘘だ」
カイトは頬を赤らめて、隊長をにらんでいた。にらんでいるのに、どことなく可愛げがある。
シモンは空を仰いだ。梢から鳥が飛び立っていく。
(あー……そっか。まあ、なんとなくそうかなとは思ってたけど。隊長、やっぱそうだったのか)
シモンは隊長ラブな部下なので、部下たちへの態度とカイトへの接し方の違いには気づいていた。
隊長がカイトに向ける目は常に優しかった。いつも無表情なのでわかりにくいが、目に感情が出るのだ。
カイトに女が近寄ったときなどは、肌に刺さるような険悪な空気を醸していた。
しかし、それを恋慕だと断定できるものはなかった。
(隊長とカイトかあ)
カイトも満更ではないというのが、帰りの道中でわかりやすく態度に出ていた。
シモンは敬愛する上官と仲の良い友人が恋人同士になることに、うれしい反面、なぜか寂しい気もした。
日暮れのカラスの鳴き声がこだまする。
カイトは隊長がまともに答えてくれないので、さらに文句を言い始めた。
「おれ、あんなキスされたの初めてだったんだぞ! てか、キスも初めてだったのに!」
(⁉)
シモンは慌てて身を乗り出した。
(待て、カイト! それは隊長を喜ばせるだけだ!)
カイトは気づかない。
「あ! いま馬鹿にしただろ!」
「してない」
「わかるんだぞ、そういうの!」
シモンは頭を押さえたくなった。これではただの痴話喧嘩だ。
これ以上、隠れているのはよそう。隊長は自分の存在に気づいている。
シモンは木の陰から姿を現した。
「あの、すみません。俺、いるんで、もうやめて?」
「!」
カイトは驚いたように顔を向けた。会話を聞かれたことを知り、真っ赤になっている。シモンは疲れた声を出した。
「隊長。俺、先に帰ってもいいですか……」
カイトは大慌てでシモンを引き留めたのだった。
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