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終 章 巡る想い⑥『はじまりの記憶』
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それは空から眺め下ろしているような光景だった。自分が天使になった気分だ。
漂うように見下ろした先に、若木がある。
小高い緑の丘に一本だけ、植えられていた。
そこに突如、小柄な男が滑り出てきた。
男はこの世界では珍しいと言われる黒い髪をしていた。前で重ね合わせる上衣を着ている。
空間から躍り出た彼は、若木を前に見つめ、つぶやいた。
「まさか、キミの方が先に逝ってしまうなんて思わなかったよ」
この丘に忽然と現れた男は、次元を超えることのできる力を持った巫覡だった。
若木の前で誰かに聴かせるように話す。
「キミから借りた竜玉のおかげで、『虚空見つの国』は平和になったよ」
柔らかい風が頬を撫でている。
「返そうと思って来たんだけど、キミが死んだと聞いたから、ここに来るまでに時間がかかってしまった」
彼は懐から麻で作られた袋を取り出した。
「この竜玉は現世にあれば争いを生む。キミも苦労してたね。もしかして、僕に押しつけたのかい?」
恨むように言いながら、まさかね、と優しげに笑う。そして男は真顔になった。
「ずいぶん考えたんだけど。この竜玉は僕の内に封印することにした」
了承を待つかのように、若木を見つめている。
一陣の風が彼の髪をさらっていった。
「いつか僕の子孫が、きみの子孫に返しに行く。何代かかるかわからないけど、そのための仕組みは作っておいた」
竜玉を片手に若木のそばに座る。
男は軽く目を閉じ、彼らが出会ってからのことを思い出していた。
―本当に人のふりをするのが下手な奴だった。
―人間の瞳はそんなに猫みたいに細くなったりしないと、何度言ったことか。
男の想いが流れ込んでくる。彼は目尻を光らせ、笑っていた。
穏やかな陽光に包まれて、しばらくして彼は目を開けた。
「さて、僕はそろそろ行くよ。あまりこの次元に長居するわけにはいかない」
立ち上がり、もう一度若木を見た。
名残惜しむかのように、つむじ風が巻き起こる。
男はうなずき、微笑んだ。
「ゆっくりおやすみ。心優しき黄金竜イグドラシル」
*****
海人が目を開けたとき、イリアスはすでに起きていた。
ベッドに腰かけて、海人を見下ろしている。
「どうした?」
イリアスが頬を流れる涙を拭ってくれ、泣いていたことに気がついた。
「夢見てたんだけど……それが」
海人は語ろうとして、不意に胸がざわついた。
心を鎮めようと、静かにまぶたを閉じる。
あの夢は『始まりの人』の記憶だ、と海人は思った。
古い血の中にだけ流れる記憶の人は、語ってほしくない、と言っているようだった。
「カイト? 夢がどうした?」
イリアスの声に心配の色が滲んでいる。
海人は小さく首を振った。開きかけた口を閉じ、目を開けた。
「……それが、思い出せない」
海人は今朝みた夢を心にしまった。
気遣うように見てくるイリアスに手を伸ばすと、その手を握り、優しくキスをしてくれた。
愛しむように頬を撫でてくれ、心地良さに安堵する。
海人は穏やかな灰色の瞳を見つめた。
「おれ、イリアスに会えてよかった」
心から湧き出た言葉を口にすると、イリアスは極上の笑みを浮かべた。
漂うように見下ろした先に、若木がある。
小高い緑の丘に一本だけ、植えられていた。
そこに突如、小柄な男が滑り出てきた。
男はこの世界では珍しいと言われる黒い髪をしていた。前で重ね合わせる上衣を着ている。
空間から躍り出た彼は、若木を前に見つめ、つぶやいた。
「まさか、キミの方が先に逝ってしまうなんて思わなかったよ」
この丘に忽然と現れた男は、次元を超えることのできる力を持った巫覡だった。
若木の前で誰かに聴かせるように話す。
「キミから借りた竜玉のおかげで、『虚空見つの国』は平和になったよ」
柔らかい風が頬を撫でている。
「返そうと思って来たんだけど、キミが死んだと聞いたから、ここに来るまでに時間がかかってしまった」
彼は懐から麻で作られた袋を取り出した。
「この竜玉は現世にあれば争いを生む。キミも苦労してたね。もしかして、僕に押しつけたのかい?」
恨むように言いながら、まさかね、と優しげに笑う。そして男は真顔になった。
「ずいぶん考えたんだけど。この竜玉は僕の内に封印することにした」
了承を待つかのように、若木を見つめている。
一陣の風が彼の髪をさらっていった。
「いつか僕の子孫が、きみの子孫に返しに行く。何代かかるかわからないけど、そのための仕組みは作っておいた」
竜玉を片手に若木のそばに座る。
男は軽く目を閉じ、彼らが出会ってからのことを思い出していた。
―本当に人のふりをするのが下手な奴だった。
―人間の瞳はそんなに猫みたいに細くなったりしないと、何度言ったことか。
男の想いが流れ込んでくる。彼は目尻を光らせ、笑っていた。
穏やかな陽光に包まれて、しばらくして彼は目を開けた。
「さて、僕はそろそろ行くよ。あまりこの次元に長居するわけにはいかない」
立ち上がり、もう一度若木を見た。
名残惜しむかのように、つむじ風が巻き起こる。
男はうなずき、微笑んだ。
「ゆっくりおやすみ。心優しき黄金竜イグドラシル」
*****
海人が目を開けたとき、イリアスはすでに起きていた。
ベッドに腰かけて、海人を見下ろしている。
「どうした?」
イリアスが頬を流れる涙を拭ってくれ、泣いていたことに気がついた。
「夢見てたんだけど……それが」
海人は語ろうとして、不意に胸がざわついた。
心を鎮めようと、静かにまぶたを閉じる。
あの夢は『始まりの人』の記憶だ、と海人は思った。
古い血の中にだけ流れる記憶の人は、語ってほしくない、と言っているようだった。
「カイト? 夢がどうした?」
イリアスの声に心配の色が滲んでいる。
海人は小さく首を振った。開きかけた口を閉じ、目を開けた。
「……それが、思い出せない」
海人は今朝みた夢を心にしまった。
気遣うように見てくるイリアスに手を伸ばすと、その手を握り、優しくキスをしてくれた。
愛しむように頬を撫でてくれ、心地良さに安堵する。
海人は穏やかな灰色の瞳を見つめた。
「おれ、イリアスに会えてよかった」
心から湧き出た言葉を口にすると、イリアスは極上の笑みを浮かべた。
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