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第24話 眠れる王子様
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初めて観る歌劇は、私が想像していた何百倍も素敵なものだった。
煌びやかな舞台装置や衣装、オーケストラの生演奏、美しい歌声。その全てが私の心を胸を打つ。
(私ったら、なぜもっと早く観に来なかったのかしら。もっと若いうちから見ていたら、私の感性もちょっとは豊かになっていたでしょうに…………たぶん)
でも、そんな夢のような世界から、現実に引き戻してくるいたずらっ子がいる。
横に座るフォールスが、たびたび私にちょっかいを出してくるのだ。
彼の顔は舞台を向いているのに、私の手をつついたり、肩にもたれかかってきたり、髪の毛をいじってきたり、私の右手をいじくりまわしたり……。
(とんだ甘えん坊ね。これで、弟と思うな、という方が無理だわ)
私は少し呆れながらも、同時にそんな彼が可愛く思えてくる。結局、そのまましたいようにさせる事にした。
そして、気づけばあっという間に終演。身分違いの男女が結ばれるという幸せな結末に、私は思わず目が潤んでしまう。
私は興奮したまま拍手をしながら、横のフォールスに話しかけた。
「すごかったわねフォールス!……って、あら」
フォールスは、腕を組んで船を漕いでいる。私は慌てて拍手の手を止める。
(少し前から、ちょっかいが止んでいるとは思ったけれど……まさか寝ていたなんて)
よっぽど疲れていたのだろうか、よく見ると、目の下にうっすら隈が見える。
(そうよね、領主の仕事なんて忙しいに決まっているじゃない。それなのに私、約束だ歌劇だなんて浮かれて……本当、気が利かない女だわ)
できるなら、このまま寝かせてあげたいところだが、そうもいかない。私は彼の肩に手を置くと、そっとその体を揺らす。
「フォールス……起きて……フォールス」
何度か声をかけるが、全く起きる気配がない。どうしよう、と途方に暮れる私。
その時。
「……キスしてくれないと、起きないからな」
寝ているはずのフォールスから声がした。
(もう!……まったく、いつからこんないたずらっ子になってしまったの!?)
私は思わず肩を竦める。
(キスだなんて……さては、どうせそんな事できないと思って、からかってるんだわ)
私は、彼の鼻を明かしてやりたくなる。彼に気付かれないようそっと近づくと、彼の額に軽くキスをした。
一瞬、これと似たような事があったような気がして、驚く。でも、その記憶はすぐに消えてしまった。
(きっと、気のせいよね)
私は、ようやく目を開けたフォールスと目が合う。その顔は、少し……いや、かなり不満そうだ。
してやったり、と思わずほくそ笑む私。
「おはよう、王子様。よく寝れたかしら?」
「……色々と最悪だね」
彼はひとつ伸びをすると、私を見て言った。
「ひとつ教えてあげるよアステ。キスっていうのは」
そう言うやいなや、フォールスは私の後頭部を持ち、強引に自分の方へ引き寄せると、私の唇を奪った。
呆然とする私に、彼はニヤッと笑い、続けた。
「……こうやるんだよ?」
ミイラ取りがミイラになる。その言葉の意味が、嫌と言うほど理解できた瞬間だった。
煌びやかな舞台装置や衣装、オーケストラの生演奏、美しい歌声。その全てが私の心を胸を打つ。
(私ったら、なぜもっと早く観に来なかったのかしら。もっと若いうちから見ていたら、私の感性もちょっとは豊かになっていたでしょうに…………たぶん)
でも、そんな夢のような世界から、現実に引き戻してくるいたずらっ子がいる。
横に座るフォールスが、たびたび私にちょっかいを出してくるのだ。
彼の顔は舞台を向いているのに、私の手をつついたり、肩にもたれかかってきたり、髪の毛をいじってきたり、私の右手をいじくりまわしたり……。
(とんだ甘えん坊ね。これで、弟と思うな、という方が無理だわ)
私は少し呆れながらも、同時にそんな彼が可愛く思えてくる。結局、そのまましたいようにさせる事にした。
そして、気づけばあっという間に終演。身分違いの男女が結ばれるという幸せな結末に、私は思わず目が潤んでしまう。
私は興奮したまま拍手をしながら、横のフォールスに話しかけた。
「すごかったわねフォールス!……って、あら」
フォールスは、腕を組んで船を漕いでいる。私は慌てて拍手の手を止める。
(少し前から、ちょっかいが止んでいるとは思ったけれど……まさか寝ていたなんて)
よっぽど疲れていたのだろうか、よく見ると、目の下にうっすら隈が見える。
(そうよね、領主の仕事なんて忙しいに決まっているじゃない。それなのに私、約束だ歌劇だなんて浮かれて……本当、気が利かない女だわ)
できるなら、このまま寝かせてあげたいところだが、そうもいかない。私は彼の肩に手を置くと、そっとその体を揺らす。
「フォールス……起きて……フォールス」
何度か声をかけるが、全く起きる気配がない。どうしよう、と途方に暮れる私。
その時。
「……キスしてくれないと、起きないからな」
寝ているはずのフォールスから声がした。
(もう!……まったく、いつからこんないたずらっ子になってしまったの!?)
私は思わず肩を竦める。
(キスだなんて……さては、どうせそんな事できないと思って、からかってるんだわ)
私は、彼の鼻を明かしてやりたくなる。彼に気付かれないようそっと近づくと、彼の額に軽くキスをした。
一瞬、これと似たような事があったような気がして、驚く。でも、その記憶はすぐに消えてしまった。
(きっと、気のせいよね)
私は、ようやく目を開けたフォールスと目が合う。その顔は、少し……いや、かなり不満そうだ。
してやったり、と思わずほくそ笑む私。
「おはよう、王子様。よく寝れたかしら?」
「……色々と最悪だね」
彼はひとつ伸びをすると、私を見て言った。
「ひとつ教えてあげるよアステ。キスっていうのは」
そう言うやいなや、フォールスは私の後頭部を持ち、強引に自分の方へ引き寄せると、私の唇を奪った。
呆然とする私に、彼はニヤッと笑い、続けた。
「……こうやるんだよ?」
ミイラ取りがミイラになる。その言葉の意味が、嫌と言うほど理解できた瞬間だった。
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