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本編
第22話 嬉しい知らせ
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仕事がひと段落して、思い切り背伸びをしていた時だった。
「アステさん、ちょっといいかしら?」
急に名前を呼ばれた私は、その声の主に驚き、背伸びをした姿勢のままで固まってしまった。
「……フラスさん!?え、ええと、ど、どうしてこちらに!?」
慌てて腕を下ろした私に、フラスさんはいつものように優雅に微笑みかけてきた。そして、私の耳元に顔を寄せてくると、囁くように言った。
「ふふ、内緒の話をしに来たの。先ほど、ログさんが無事に出産を終えたわ。魔王様に似た女の子よ」
私は、驚きで、ゆっくりとフラスさんを見た。
「ほ……ほんとう、に?」
「ええ。でもまだ誰にも秘密よ?」
そう言って、フラスさんは私の唇に人差し指を当てて、お茶目にウインクをしてきた。
「そんな秘密を、私に教えて下さるなんて……」
「大丈夫。親友には真っ先に伝えたいって、そうお願いされていたの。お仕事中なのに、ごめんなさいね」
「いえ……そんな……こんないい知らせ……すぐに知らせに来て下さって感謝しかないです……」
私は感動で思わず泣きそうになってしまう。でも必死でグッと堪える。秘密の話なのに泣いてしまえば、周りに不思議がられてしまう。
「今度、一緒に顔を見に行きましょう?また声をかけるわ」
「はい、ぜひ!」
……そして、嬉しい知らせは、ログさんの出産だけではなかった。
仕事を終え帰宅すると、フォールスからの手紙が届いていた。もちろん、叔父からの手紙を装ってある。
手紙には、お兄さんが帰ってきた事、そして領主の座を譲る手続きを進めているという事が書いてあった。
私は、嬉しくて、でもまだ信じられなくて、頭がふわふわとしてしまう。
(あなたに愛してると伝えた時には、絶対に叶わないと思っていたのに……それがとうとう叶うのね……)
私は、手紙を読み進める。
『前にも伝えたと思うけれど、兄が君に会いたがっているんだ。迎えに行くので、都合の良い日を教えて欲しい。その時は、君の叔父さんにも一緒に挨拶に行こう。
あとは、ずっと会えなかった分、君とふたりきりで過ごす時間が欲しい。できれば、うちに泊まっていってくれると嬉しい。いや、絶対に泊まっていってくれ。そうじゃないと僕は、君不足で死んでしまいそうだ』
私は思わずクスッと笑ってしまう。でも、私も、必死で我慢していたけれど、フォールスに会いたくて仕方ないのだ。そろそろ本当に辛くて、耐えられなくなっている。彼の姿を見たら、嬉しくて気絶してしまいそうな気さえする。
私は、机の引き出しから、便箋を取り出して、すぐにフォールスへの返事を書くことにした。少しでも早く彼に会いたい、そのはやる気持ちで字が雑にならないよう、丁寧に文字を書いていく。
(…………よし、書けたわ)
私はインクが乾くのを待って、便箋を丁寧に封筒にしまう。
そうやって、フォールスと私は手紙をやり取りし、そしてとうとう、彼と再会する日が決まった。
――
約束の日、迎えの馬車が来るとは聞いていたが、そこに乗っていたのは意外なひとだった。
「叔父様!」
「アステ、久しぶりだね!元気だったかい?」
「ええ、私は元気よ。なぜ叔父様が?お会いできるのはもう少し後だと思っていたのに」
私がそう言うと、叔父様は頭をポリポリ掻きながら言う。
「いやあ、実は、フォールス君に今日の事を聞いてね。それならぜひ、私に迎えに行かせてくれと、そう頼んだんだよ。少しでも早く可愛い姪に会いたくてね」
「そう、だったんですね。ふふ、嬉しい……叔父様と一緒なら、長い時間も楽しく過ごせそう。叔父様、迎えに来てくださって、ありがとうございます」
「どういたしまして。さあ、こんなところで立ち話をしている場合じゃないよ。早くアステを王子様の元へ送り届けないと」
「もう、叔父様ったら……フォールスの前でそんな事言ったら、怒られますからね?」
叔父様と私は、ふたりで笑い合う。そして私は、叔父様が差し出した手を取って、馬車に乗り込んだ。
「アステさん、ちょっといいかしら?」
急に名前を呼ばれた私は、その声の主に驚き、背伸びをした姿勢のままで固まってしまった。
「……フラスさん!?え、ええと、ど、どうしてこちらに!?」
慌てて腕を下ろした私に、フラスさんはいつものように優雅に微笑みかけてきた。そして、私の耳元に顔を寄せてくると、囁くように言った。
「ふふ、内緒の話をしに来たの。先ほど、ログさんが無事に出産を終えたわ。魔王様に似た女の子よ」
私は、驚きで、ゆっくりとフラスさんを見た。
「ほ……ほんとう、に?」
「ええ。でもまだ誰にも秘密よ?」
そう言って、フラスさんは私の唇に人差し指を当てて、お茶目にウインクをしてきた。
「そんな秘密を、私に教えて下さるなんて……」
「大丈夫。親友には真っ先に伝えたいって、そうお願いされていたの。お仕事中なのに、ごめんなさいね」
「いえ……そんな……こんないい知らせ……すぐに知らせに来て下さって感謝しかないです……」
私は感動で思わず泣きそうになってしまう。でも必死でグッと堪える。秘密の話なのに泣いてしまえば、周りに不思議がられてしまう。
「今度、一緒に顔を見に行きましょう?また声をかけるわ」
「はい、ぜひ!」
……そして、嬉しい知らせは、ログさんの出産だけではなかった。
仕事を終え帰宅すると、フォールスからの手紙が届いていた。もちろん、叔父からの手紙を装ってある。
手紙には、お兄さんが帰ってきた事、そして領主の座を譲る手続きを進めているという事が書いてあった。
私は、嬉しくて、でもまだ信じられなくて、頭がふわふわとしてしまう。
(あなたに愛してると伝えた時には、絶対に叶わないと思っていたのに……それがとうとう叶うのね……)
私は、手紙を読み進める。
『前にも伝えたと思うけれど、兄が君に会いたがっているんだ。迎えに行くので、都合の良い日を教えて欲しい。その時は、君の叔父さんにも一緒に挨拶に行こう。
あとは、ずっと会えなかった分、君とふたりきりで過ごす時間が欲しい。できれば、うちに泊まっていってくれると嬉しい。いや、絶対に泊まっていってくれ。そうじゃないと僕は、君不足で死んでしまいそうだ』
私は思わずクスッと笑ってしまう。でも、私も、必死で我慢していたけれど、フォールスに会いたくて仕方ないのだ。そろそろ本当に辛くて、耐えられなくなっている。彼の姿を見たら、嬉しくて気絶してしまいそうな気さえする。
私は、机の引き出しから、便箋を取り出して、すぐにフォールスへの返事を書くことにした。少しでも早く彼に会いたい、そのはやる気持ちで字が雑にならないよう、丁寧に文字を書いていく。
(…………よし、書けたわ)
私はインクが乾くのを待って、便箋を丁寧に封筒にしまう。
そうやって、フォールスと私は手紙をやり取りし、そしてとうとう、彼と再会する日が決まった。
――
約束の日、迎えの馬車が来るとは聞いていたが、そこに乗っていたのは意外なひとだった。
「叔父様!」
「アステ、久しぶりだね!元気だったかい?」
「ええ、私は元気よ。なぜ叔父様が?お会いできるのはもう少し後だと思っていたのに」
私がそう言うと、叔父様は頭をポリポリ掻きながら言う。
「いやあ、実は、フォールス君に今日の事を聞いてね。それならぜひ、私に迎えに行かせてくれと、そう頼んだんだよ。少しでも早く可愛い姪に会いたくてね」
「そう、だったんですね。ふふ、嬉しい……叔父様と一緒なら、長い時間も楽しく過ごせそう。叔父様、迎えに来てくださって、ありがとうございます」
「どういたしまして。さあ、こんなところで立ち話をしている場合じゃないよ。早くアステを王子様の元へ送り届けないと」
「もう、叔父様ったら……フォールスの前でそんな事言ったら、怒られますからね?」
叔父様と私は、ふたりで笑い合う。そして私は、叔父様が差し出した手を取って、馬車に乗り込んだ。
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