終点は異世界でした。

翠玉 結

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路面電車を降りた先は、ゆったりと時が流れるような木々の多い場所だった。


建物が並ぶ中でも木々が生い茂って、緑を増やしていっていた。


まるで森と共存しているようなそんな光景で、神秘的な感じがした。


大通りを抜けて少し細い道を進めば、教会が見えてくる。



「アルス、あれって教会?」


「正解。でも神様じゃなくて、魔力を司る魔人のね」



そこはやっぱり私の住む世界とは違うようだ。


でも私の住む世界にも色々と宗派があるように、こちらにもきっと色々あるんだろう。


失礼のないようにしなきゃ。


背筋を伸ばして歩くと、アルスが私を見て笑った。



「そんなに構えなくて大丈夫だよ。教会って言っても、畏まった感じの場所じゃないからさ」



教会といえば神々しいそんなイメージがあるが、住む世界が違えば考え方も違うのだろうか。


少し気を緩めつつも教会へと足を踏み入れた。


木造の建物だというのに、中へ入れば口が勝手に開いてしまった。


どこからともなく生い茂る木々の根っこが絡みついているのは、あちこちから生えるクリスタルの結晶だった。


想像絶する光景に、思わずその場で立ち止まってしまう。



「アルス……これ、本当に中入っていいの?」


「んーちょっと不味いけど、手入れしていないシスターが悪いからいいんだよ」



そう言いながら私の手を離して、木々の根っこを掴んではクリスタルから剥がしていく。


やれやれといった表情を浮かべながらアルスは教会の中をぐるっと見渡した。


どうやらアルスにも予想外だったようだ。



「テーラ!いるか!」



大きな声でそう言うと、どこからからミシミシと嫌な音がする。


そんな中でもアルスは奥へと突っ切っていくのだから、すごい。



「まーたそんな所で……」


「アル~助けて~」


「はあ……」



ため息混じりに何か唱えると、木々の根っこがビクリと驚いたかと思えばシュルリと音を立てて消えていった。


するとボロボロになった修道服を来た一人の女性が、クリスタルの下から現れた。


アルスに引っ張られようやく出てくると、大きく伸びをしてアルスに向かってお辞儀をする。



「いや~助かったよ~。このまま動けなかったら飢え死にする所だった~危ない危ない」


「定期的に魔力をコントロールしろっていつも言ってるのに……」



やれやれと哀れんだ目でシスターを見たアルスは、私に向かって手招きをした。


慌ててアルスの元へと駆け寄ると、シスターが私を見て瞳を輝かせた。



「アル~!!人の子~!!しかもトリプラー!!どうしたの~」


「どうしたも、俺が手助けしてるんだよ」


「アルが手助け~……?そんなまさか~」


「今あんたのことを助けたのは、どこのどいつだ?」



二人のやり取りに入る隙がなくて、どうしようかと悩んでいるとシスターが私に向かって手を差し伸ばしてきた。


釣られるようにして私を手を伸ばすと、勢いよく私の手を掴んでブンブンと振り回すように振ってくる。



「私はここでシスターをしています~テーラと申します~いや~アルがお世話になってます~」



ニコニコ笑顔のテーラさんの勢いに負けないように、おどおどしつつも自己紹介をする。


「美澄 栞菜です。日本から来ました!」


「遠い所からはるばるありがとうございます~」


「テーラ、トリプラーが珍しいのも分からなくはないが、カンナが可愛そうだからそれぐらいにしてくれないかな」


「あら~ごめんなさい~!ついね、つい~」



ようやく離された手を今度はアルスに掴まれる。


忙しい右手は誰かに掴まれていないとダメらしい。


そう言えばなんでこんな所に足を運んだんだろう。


その理由をアルスからまだ聞いていなかった。


でも私が聞くよりも先にアルスがテーラさんに、尋ねた。



「落し物、ここには届いてないよね?」


「ええ。残念ながら、届いていませんよ~」



どうやら私の落し物の手がかりを探しに来たらしい。


それにしても、この2人の関係は一体どんな関係なんだろう。


明らか親しい関係なのは見て分かる。


テーラさんはパット見た目は30代に見えるけれど、そんな年齢までは聞けない。


今は落し物の事を考えることが最優先だ。


そもそも落し物が分かっていない以上、テーラさんに聞いても分からないものなのではないのか。


この世界の人達の中には、特殊能力で落し物が何かを分かったりする人がいるのかな。


そこら辺は後でアルスに聞いてみよう。



「ないからと言ってガッカリしないでくださいね~。絶対この世界のどこかにはありますから」



優しく微笑みかけてくるテーラさんに、私は同じように笑みを向けた。


なんだかこの人見ると、向こうのペースに飲まれちゃうなあ……。



「ここに来た次いでですし、お清めでもしていってください~。この世界の【思い出】の一つとして」


「お清め?」



お祓いとかそういうことしか頭に浮かばない私だけど、アルスは賛成している。


どうやらこの世界ではいとも簡単に行う何からしい。


テーラさんに進められて行き着いた場所は、薄暗いクリスタルが中央に置かれた部屋だった。


アルスは着いてこないことから、神聖なことなのか……なんなのか。


少し不安になりながらも、テーラさんに座るよう促され渋々座った。



「この世界でのお清めは、その身に宿る魔力を癒すことなのです」


「魔力を……癒す?」



無限に使えるものそれが魔力だと思っていたが、魔力には限りがあるらしい。



「魔力は色々な所から影響を受けます。それを正すのがお清めなのです」


「でも私魔力持ってないんですけど……」


「魔力がなくても精神的ストレスは誰しも抱えていますから~。それを癒すことにもなるんです」



こっちの世界では色々と素晴らしいことが取り揃えられているものだ。


ストレスで満ち溢れた私の住む世界にもお清めがあればいいのに。


そんなことを考えていると、テーラさんが長い呪文を唱えると青白くクリスタルが光り輝いた。


蛍のように光がポゥ……と舞い降りてくるその光景に、私は思わずため息が漏れた。


その光はゆっくりと私を撫でていくように触れては消えていく。



「御加護が……汝にあらんことを」



先程までのテーラさんの穏やかなゆっくりとした声とはまるで違う、凛とした声が部屋に響いた。


すうっと力が抜けていくようなそんな感覚に、静かに目を閉じた。


こだまする私の鼓動が一つ小さく跳ねた。



「さあ、光よ……その身に示せ」



テーラさんがそう言った途端に、目を閉じていても眩しい光が届いてきた。


恐る恐る目を開ければ、光り輝くクリスタルが微かに振動しながら光を放っていた。


テーラさんがゆっくりと手を振り上げると、その光はゆっくりと輝きを失っていく。


それと同時に何故か身体が軽くなっていくのを感じた。



「お清めが終わりました~お疲れ様です」



聞き覚えのあるゆったりとしたその声にはっとしつつ、テーラさんへと振り返った。



「あ、ありがとうございました!なんか体が軽くなった気がします」


「それは良かったです~。こうしてお清めするのも久々なものですから、少し緊張してたんですよね~」


「そうなんですか?」



そう聞き返したが、確かに今思えば最初に教会に足を踏み入れた時の木々の生え具合は人が常に来ていればならないことだ。


よっぽどの事がない限り、教会にはこの街に住む人達は来ない……ということ?


こんなに立派なクリスタルがあれば、人は手を合わせにでも来そうなのに。


日本の文化と照らし合わせているから、違和感を感じてしまうのだろうか。


なんにせよ、この教会は少し街の人から遠い存在にあるということには代わりないのだろう。



「アルも久々に顔を見せに来たものだから、私嬉しくって~」


「あの、アルスとのご関係って……?」



ようやく聞けたその質問にテーラさんは少し苦い笑みを浮かべた。



「私は、アルの母親代わりとしてあの子を育てて来ました」



思いも寄らないその答えに体が硬直した。


そんな私の反応が見えなかったのか、テーラさんはそのまま話を続ける。



「母親はアルが生まれてすぐに亡くなり、父親は優秀な方でした。魔法にも長けている中、大好きな汽車の乗車員として日々楽しそうに仕事をしていました」



父の背中を追って、と言っていたアルスの言葉がふと蘇る。


きっとお父さんと共に一緒になって働きたい、その思いがきっとあったんだろうな。


「そんな中国と国のぶつかり合いが激しくなって、戦争が起こりました。働く男は全て兵士として駆り出されてしまいました。アルの保護する者がいないとなって、友人である私がその役割を引き受けました」


「それで……お父さんは戦争で……」


「はい。強力な爆破魔法によって跡形もなくなったそうです。その知らせが届いたのは、アルが8歳になった時でした」



テーラさんの言葉に全身に衝撃が走ったような気がした。


唯一の家族が一瞬にして消えてしまったなどと、幼い子供には理解するどころか受け入れることすらできないはず。


そんな中でもアルスは乗り越えて、お父さんの背中を追ったんだ。


やっぱりアルスは強くて、かっこいいと心からそう思った。



「それからと言うもの、アルが独り立ちするまで私と共にここで一緒に暮らしてきました。俺、何かを見つけるためにここを出る、なんて言い出した日には本当の親のように巣立ちが寂しく思えました」


「それで二人は仲が良かったんですね」


「はい~時々顔を見せてくれては少しほっとします」


アルスの周りには素敵な人がいる、だからきっとここまでこれたんだろうなと感じながらテーラさんに笑顔を向けた。


アルスはきっとここで様々な思いを抱えながら歩んできた。


悲しみだったり喜びだったり、そして幸せだったり。


彼なりにもがきながら必死に前へ前へと進んでいった、そう思うと自然と涙が溢れた。



「カ、カンナさん?!どこか具合でも?!」


「違うんです。ただ……胸が熱くて」



ひたすら前へと進むことは誰しもが苦しみを通り抜けなければならないこと、それでも前に進むのには幸せが待っていると信じているから。


きっとアルスもお父さんの死を受け入れて、その分自分が幸せになってみせるとそう思ったはず。


私も、そんなアルスを見習わなきゃ。


何が正解かはやってみなきゃ分からない、だから自分を信じて頑張ってみよう。


自分の道を見つけられると言ってくれたアルスを信じて。



「カンナさん。今の話はアルには内緒でお願いしますね。私とカンナさんの女の子だけの秘密で~」


「はい!」



一粒の涙を流して、ゆっくりと立ち上がり私を待つアルスの元へと足を動かした。









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