終点は異世界でした。

翠玉 結

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本日も出発は時刻通りです。

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ガタンと少し揺れたその振動に、私の虚ろになっていた意識が覚醒した。


ぼーっとする意識の中ふと窓の外を見ると、飲み会の帰りのサラリーマンの姿があちらこちらに見える。


じっとその光景を眺めていると、そっと肩を叩かれた。



「お客さん、終点ですよ。こちらの電車は車庫に入るので降りてください」



車掌さんにそう促されて、ハッと立ち上がる。


どうやら終点まで乗り過ごしてしまったようだ。


慌てて電車から降りて、駅の改札を通り抜けた。


まだ微かにモヤモヤする頭に、その場で一つ伸びをした。


なんだか長い長い夢を見ていたような気がする。


どんな夢か思い出したいのに、全然思い出せない。


幸せですごく嬉しかったり切なかったりする夢だったような気もするのに、断片的な記憶すら残っていない。


ただ驚くくらいに自分に対して自信が漲ってくる。


心に空いていた穴みたいなのが埋まった、そんな気持ちにきゅっと胸元を握りしめた。


外に出ればタイミング良く、最終のバスが到着していた。


慌てて乗り込み、ガランとした車内を見渡し何となく1番後ろの席のど真ん中へと腰を下ろした。


帰るのは日付跨いでしまうのは見え見えだけど、また仕方ない。


窓に映る自分の顔はいつもより晴れ晴れしている。


まあ飲んでるから頭はしゃんとしてないのだけれど。


揺れるバスに今度は寝ないぞと気合いを入れて、家へと向かった。





*・*・*・*・*




あれからというもの、何故か電車に乗ることにハマり出した私は週末になると電車に乗って宛のない旅をするようになった。


就活も失敗することもあったけど、なんとか自分のやりたいことをできるような企業へと就職が決まり一段落の区切りがついた。


グダグダしていた自分の道は、線路のようにまっすぐしゃんと伸びている。


時々花を見ると、胸が踊る。


なんでかは分からないけれど、電車に乗っていて綺麗な花が咲いている場所を見つけるとその駅で降りて、花を眺めてしまう。


何となくだけど人が変わったよね、そう周りからも言われるようになった。


自分では気づかないけれど、何かと成長しているのならそれでいいと胸を張れる。


そんな私に何人か同じ大学の人から告白されるようにもなっている。


どういう風の吹き回しなのだろうか、今まで一度もなかったというのに。


嬉しい気持ちはあるけれど、でも全てに対してごめんなさいと返事を返している。


『私には心に決めた人がいます』


そう言って断るけれど、その人が一体誰なのか分からない。


でも、必ずどこかにいる。


そう思ってはいるのにその人に会えなくて時々、涙を流してしまう。


顔も声も名前も何も覚えていないのに、その人が私を待っているそんな気がした。


よく考えればもしかしたら私精神的に病んでるのかもしれない、そういった思考にもなるんだけれど。


それでも私は自分を信じる、そう決めているからその人を待つ。


きっと……会える、そう信じて。 


日曜日の昼下がりは、ゆったりとした時間が流れていた。


少し暑い日差しが私の肌を突き刺していくものの、心地よい風が吹き抜けていく。


少し長い坂道を下りながら、街全体を眺めて一つ深呼吸をした。


どこかで鳴く鳩の声に、子供達の笑い声。


当たり前の日常中の変哲のない音。


何となくそれが懐かしい、そう感じてしまう。



「いい天気だな~!」



一人そう言って、チラリと生垣の綺麗に整えられた家を見た。


そこに咲く薄水色のデルフィニウムの花々に、自然と足が動いた。


ドキドキするこの感じは一体何なんだろう。


そう思ってデルフィニウムの花を眺めていた。


すると、生垣の隙間からこの家の方であろう綺麗なお姉さんが私の姿を見つけて外へ出てきた。


ぺこりと一つお辞儀をすると向こうも返してくれた。



「綺麗に咲いているでしょう。日本では育ちにくいから一年草なのよ」


「育てるの大変なんですね……」


「ふふふ、でもこうやって見てると癒されるから何度でも育てちゃうのよね」



お姉さんは愛でるようにそっと花を撫でて笑みを浮かべていた。


確かにこんなに綺麗な花だったら毎年見たいと思うだろう、現時点で私もこの花の虜だ。



「清く明るい人、そして幸福を振りまく人」


「え?」


「この花の花言葉よ。結婚式のブーケにも使われたりするのよ」



花嫁にはぴったりの言葉に、なるほどと一つ頷いた。


「あなたのその胸元につけているネックレスのモチーフも、デルフィニウムなんじゃないの?」



そう言われて思わずネックレスを優しく握りしめた。


自分で買った記憶はないが、気がついたら常に身につけているこのネックレスはとても大切なもの。


確かに良く見れば花の形が似ていることに気づく。



「ふふ、それをプレゼントしたお相手は素敵な方なんでしょうね」


「あははー……どうなんでしょう」



果たしてこれは一体誰に貰ったのか、それまた自分で買ったのか。


今度レシート探して自分で買ったかどうかぐらいは確かめておこう。


少しお姉さんとお喋りをしてから、その場を離れ知らない街の駅へと辿り着いた。


ずっと使われてきているようなレトロな駅に、感動しつつ切符を買った。


人は誰一人いなくて、静かな駅に伸び伸びしながら電車が来るまで駅を探検することにした。


ホームには三人がけのベンチ、待合室のオシャレな窓縁。


ホームから見える景色も緑いっぱいで気持ちが落ち着く。


いつもの現代っぽい駅とは全く違うこの感じに、気分が上がる。



『間もなく電車が入ります。危険ですので、黄色の線までお下がり下さい』



色々見て回っていると、アナウンスが入り渋々と探検をやめた。


見慣れた電車が入って来て、ゆっくりと私の前で止まる。


ゆっくりと扉が開き、乗り込もうとすると1番後ろの扉から一人の車掌さんが顔を出した。



「あっ……」



片足を電車の中に置いたまま、思わず声を漏らした。


見覚えのあるようなその顔に、何故か胸がドキドキする。


私が乗らないものだから、不思議に思って私を見た車掌さんに声をかけられる。



「乗ります……よね?」


「あ、はい……!」



慌てて乗り込み、扉が閉まると電車はゆっくりと閉まる。


窓越しに車掌さんを見つめては、心臓がバクバクとうるさい。  


ずっとその車掌さんのことを考えていると最寄り駅を通り越して、終点の駅までやって来てしまった。


そっと降りて、車掌さんが降りてくるのを待った。


ホームで立ち止まる私に気づいた車掌さんがゆっくりとやって来る。



「あの、大丈夫ですか?」


「はい、その……」



どこかでお会いしたことありますか、なんて聞けるわけなくて吃っていると車掌さんは私の胸元を見て、目を見開いた。


首を傾げて車掌さんを見ていると、急に嬉しそうな笑顔で私の事を抱き上げる車掌さんに反応が出来なかった。



「会えた!会えたんだ!!」


「えっあの?!」



困惑している私にはお構い無しに車掌さんは、ギュッと抱きしめてくる。


普通なら突き飛ばすだろうが、車掌さんに抱きしめられて涙がこみ上げた。



「カンナ……ずっとずっと会いたかった」



そっと耳元で名前を呼ばれ、私の中で何かが弾けた。



「アル……ス?」



言葉を紬だしながら言ったその名前に、車掌さんは強く頷いた。


ああ、そうか。


私が会いたかった人……それがこの彼だったんだ。


思い出した、彼との……アルスとの落し物探しを。



「俺の中の大切なものを落としてしまったらしいーーこっちの世界に」


「へ……?」


「カンナ、君だよ。もう絶対に離さない」



そう言って優しくキスをされて、再び抱きしめられた。


そしてテーラさんに言われた言葉がようやく分かる。



『それと……一度これと決めたら絶対変えないので、覚悟しててくださいね』



何のことかと思っていたけれど、アルスのことだったんだ。


まさかアルスがこっちの世界に来るなんて、誰が想像できるだろう。



「私も……ずっとずっとあなたを探してた。電車に乗って宛のない旅をしてたのも、花を見ては懐かしい気持ちになったのも、全部アルスを探していたからだったんだね」


「俺も、カンナがいない世界なんてつまらないって、ずっとこっちの世界に行けるようにって、頑張って追いかけて来た」


「ふふふ、お互い必死に探してたんだ」



落し物が何か分からずにさ迷っていても、いつか必ず見つけられる。


例え険しい道のりだったとしても、手に手を取ればきっと必ず。


それを教えてくれたーーアルスと一緒なら。


抱きしめる力を緩めて、手を差し伸ばす。



「アルス、私が道に迷わないようにもう一度、手繋いでてくれる?」


「もちろん。ずっとずっと、カンナの傍でその道を示していくよ」



キュッと握られた掌に私は新しい、アルスとの道を歩み出した。






*END*
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