追放令嬢の叛逆譚〜魔王の力をこの手に〜

ノウミ

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第一章 灰姫と魔王

episode.03 夜会の襲撃

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私達が向う先は王城。本日は大規模な夜会ということもあり馬車が何台も連なっていた、馬車を降りる人達を見るとこの国の重鎮たちの顔がいくつか見受けられた、これらを前にして何事もなく終えれたらいいのだが。
私が乗っていた馬車も足を止め、外へと身を乗り出す。お継母様おかあさまとソフィアは既に会場に向かっているようで周囲にはいなかった、お父様の姿も見えないがどこへ行ってしまわれたのだろうか。

探す余裕もないので会場につながっているレッドカーペットに足を踏み入れる、周囲が急に騒がしくなり辺りを見渡すが何か起こった様子もみられない、緊張感からか足が重たく感じるが前に前に歩みを進める。

「大丈夫、最高の鎧を身に着けているのですから」

小さく、アリサの言葉を胸に抱く。

「わぁ、凄い……」

会場の中へと入ると、まさに豪華絢爛といったような巨大なシャンデリアや美しい花々、煌めかしい灯りと、天井にある大きなドーム型のガラス窓と周りのガラス窓から入る月明りが幻想的な演出を作り出していた。見たことないものばかりで目が眩みそうになる。

「お父様のドレスがあって良かったわ」

当初のドレスでは萎縮して周りから変な視線を向けられていた事でしょう、にしては先程から変な視線をそこらじゅうから感じるので、私はその視線に耐えれなくなり会場の端の方へと向う。

すると、足下が何かに引っ掛かり大きく転倒してしまった、一気に恥ずかしい感情に襲われながらも、誰かの足を引っ掛けたのかと焦りながら目線を向けるとソフィアの足が伸びていた事に気がつく。

周りの人はざわついていたが、ソフィアだけが笑みを浮かべている。

「ソフィア……」
「あらお異母姉おねえ様、大丈……」

ソフィアが私に手を伸ばそうとした瞬間、周囲がさらに騒がしくどよめきだした。その視線の先は私ではなく、隣の人物に注がれていた。

「大丈夫ですか?」

男性の声が聞こえ、見上げると誰もが知っているこの国の王子殿下が手を差し伸べていた。私は惹き寄せられるかのように差し出された手に触れる。

白髪でとても優しい雰囲気をまとっておりこの会場で一番の存在感を放っている、噂の通り誰に対しても分け隔てなく優しく接し、誰からも愛される人物であるその噂は間違っていないのだろうと感じさせてくれていた。

「あ、ありがとうございます……王子殿下」
「いえお怪我はありませんか?」

整った顔立ちから放たれる無邪気な笑顔はとんでもない破壊力を秘めていた、その証拠に先程までざわついていた周囲からは甲高い声が聞こえるようになっていた。まぁ、半分は嫉妬でしょうけど。

「王子殿下のお手をお借りしてしまい、大変申し訳ございません」
「いえ、そんな事は仰らずに。せっかくの夜会ですから心ゆくまで楽しんでいただけたら」

初めて向けられる優しい言葉遣いと表情に少し焦りを覚えてしまう、こんな事は今までに無かったのでどう取り繕えばいいのかも分からない。

「失礼ですがお嬢様、お名前を伺っても?」
「……あっ、はい!オーエンス家が長女、エレナと申します。以後お見知りおきを」

そう言いながら必死に自己紹介を述べて頭を下げる、スカートを少しだけ持ち上げて少しでも優雅に、美しく見られるようにと。

そうして顔を上げると、突如視界が遮られ間に入ってきたのはソフィアだった。

「私はオーエンス家が次女ソフィアと申します、どうぞよろしくお願いします。王太子殿下」

そう言いながら王太子の手を急に握り始めた、ソフィアはどうしてその行いが不敬に当たると気づかないだろうか、その証拠に先程まで騒がしかった周囲が静まり返り、あまりの行いと言動に周囲も呆れ返るしかない。

私も同じ気持ちを抱くがその光景を見ていたのか、奥から必死に表情を隠しながらお継母様おかあさまが駆け寄ってきた。

「王太子殿下申し訳ございません、娘は初めての場所で少し舞い上がっていたようで」
「おや、貴女がオーエンス家のルーゼン夫人か?」
「は、はいっ」
「オーエンス家には大変に世話になった」
「それは守るべき国があればこそ、その国を作りし王があればこそでございます」

先程までと違い空気が張り詰めたように感じる、私もその場から動けずに二人を見つめることしか出来なかった。いつの間にか会場の視線はこの2人に集められており、誰もが固唾をのんで見守っている。

すると、その空気を取り払うかのように王太子殿下が大きく腕を振り、声を高らかにこの会場に集まった人たちに告げる。

「皆の者!此度は魔獣掃討作戦の成功を祝う会である、その立役者となるオウル・オーエンス当主、並びにオーエンス家に盛大な拍手を!」

その瞬間、誰もが拍手を打ち鳴らし歓声を上げる。その迫力に圧倒されそうになるが、お父様の成果によるものだと思うと心の内から込み上げてくるものがある、当のお父様の姿は見当たらないが、その分私がお父様に労いを伝えたいと、そう感じる。

「それで、オーエンス当主はどちらへ?」

「それでしたら……」と二人が話していると、突然入口の扉から爆発音が鳴り響いた、辺りは騒然として王子殿下を守ろうと兵士たちが取り囲み始める。

私は何が起こったのか分からず、状況を把握するよりも先に目の前に黒い人影が現れた。

「コノ国ニ破滅ヲモタラサン」
その人影は黒装束に身を包み、混乱に乗じて私に迫ってきたのだろう。反応する事が出来ずに、次に気がついた時には光る刃を向けられていた。

(なに、これ!?)

私は突然の出来事に目を瞑るしかなかった、斬り込まれると思ったその瞬間、すぐ傍で金属音が響き渡る。私は恐怖心を抱きながらも目を開けると、そこに立っていたのはお父様だった。お父様は、黒装束の敵が持っていた剣を弾き飛ばし、そのまま斬り伏せてしまった。

「大丈夫かエレナっ!?」
「え、あ…あ」
「エレナっ、しっかりしろ!」

その一言に先程まで混乱していた頭が冴えわたる、冷静さを取り戻し周囲を確認すると黒装束の敵は会場を入り乱れるように動き回り、侵入口は入口の大きい扉と四方の窓ガラス割って入ってきていた。

狙いは王子殿下のようで周囲に集まる兵士が守りながらも対処にあたっており、その見た目からは敵の正体は判明できない、敵は揃って黒装束で身を覆い隠しながら剣を振りながら軽やかに会場を動き回っている。

「お父様、これは一体」
「細かい話は後だ、取り敢えずお前は動くな!」

そう言いながらお父様は私たちを守るように戦い続けていてくれてる、お継母様おかあさまとソフィアは腰が抜けたのかお互いに抱き合うようにしてその場にうずくまっていた。王子殿下は冷静に兵士に指示をしながら、自身も戦いに参戦していた。

こうなってしまえば敵も味方も入り乱れて状況を把握するだけで精一杯ね。冷静になった今、私にも出来ることを考える。

すると天井のガラスドームが激しく割れる音が聞こえる、上を見上げると敵は空からも襲撃を始めたようだ。私は先程までとは違い体が考えるよりも先に動いていた。

「本当に情けない」

先程まで身が竦んでいたのが情けなく感じる、私は一体誰の娘なのだ、誰の背中を追いかけていたのかと。先ほどまでとは違い、歯を食いしばり目線を上げ眼前に迫る脅威に目を向ける。

「私はオーエンス家が長女、オウル・オーエンスの娘!こんな賊なんかに遅れは取らない!!」

敵の正体は見当もつかないが、これ以上お父様に情けない姿は見せることはできない。天に手をかざし、私は

フレイムジャベリン!!炎焔ノ群槍

炎の槍をいくつも展開させ、空から降ってきた敵に連射していき紅蓮の炎が天上を覆うようにして、迫ってきた敵を足止めする。詠唱を省いたので、威力は控えめだが十分な効力をもたらしていた。

「エレっ、いや……すまない助かった」
「お父様、私は大丈夫です」

それでも敵の勢いは衰える気配が無く場は混乱を極めていた、一度攻め込まれた以上どうしても守りに入ってしまい後手が続いている、お父様も王太子殿下も攻めあぐねている状況に焦りを感じているようにも見えた、この状況を逆転するには私が動くしかない。

『 燃ゆる逆巻く 劫炎一切 我が焔を顕現せよ 
この刃に込めた炎 恐れ抱き 業火と共に散れ』

「お、おい……エレナ?」

私の全身を猛り狂う炎が身を包み始める。それをお父様が心配そうにこちらを見つめていた、それもそのはず、お父様にを見せた事は無いのだから、私がこの見た目と他に"灰かぶり"と言われる事になった理由の一つ。

「目覚めなさいっ!《灰燼斬刀かいじんざんとう》」

噴き出す炎が私の右手に収束し一振りの刀を形作っていく。異常を感じたのか敵の視線が私に集まり始めているのを感じたが私は臆することなく姿を整えた刀を強く握りしめ、向かってきた黒装束の敵に向かって振り切る。

その刀は敵の握る剣と一緒に胴体を一刀両断し、その勢いを殺すことなく良く振り切られたその瞬間、眼前の敵は激しく燃え上がり空へと灰が舞い上げられた。

「ひっひぃぃっ」

一人をいとも簡単に屠った事で、周囲の敵に恐怖が伝染したようだ。手前の何人かは震えながら立ち止まっていたが奥から臆せずに数人が飛び込んできた、私は向かってくる剣を溶かし斬りながら、そのまま目に映る敵を全て灰にしていく。

気がつけば王太子殿下を守っていた兵士やお父様がこれを期に場を掌握、一気に押し返していった。そこからは一方的な戦況が続き、こちらは大きな負傷者を出す事なく場を収めた。

落ち着いた私は握っていた刀を炎に還し一呼吸ついた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

体力的には問題ないが体内の魔力が尽きかけていた、私の中で使える強力な魔法を連発したせいだ。

「エレナっ!大丈夫かっ!?」

驚いた事にお父様が私の元へと駆け寄ってきた、その顔は娘を心配する父親の顔そのものだった。今までに向けられたことのなかった感情に私は戸惑いながらも「私は大丈夫です」と、返事する。

その言葉に安心したのか周囲の確認と兵士を数人引き連れ、この場を後にしたその去り際に「後で屋敷に戻れば話がある」

その時の言葉と表情はいつも通り、私に興味がなかったお父様のままだった。そうしてこの場には私とお継母様おかあさまとソフィアが取り残されていた、二人は変わらず抱き合ったままその場でうずくまったまま動こうとせずにいた、一応近づいて様子を見に行くと何か呟いているのが聞こえた。

「こんなはずじゃ…ここまでとは聞いてない」

その言葉に耳を疑う。まるで今回の襲撃を事前に知っていたかのような、若しくは手引きをしていたような。何かの聞き間違いかと思い声をかけようとすると、王太子殿下が後ろから声をかけてきた。

「エレナ、ご無事ですか?」
「王太子殿下におかれましても、ご無事で何よりでございます」
「まさか、貴女が"灰かぶり姫"だったとは」

その言葉に緊張が走る。私は昔に魔学の一環で魔獣の実戦討伐に出た事があるが、その際に盗賊に襲われた。身を守るために先ほどの力を振るい、これを退けることに成功したがその際の戦いぶりと、戦闘後に灰を撒き散らしていたことから、この見た目と相まって"灰かぶり姫"と言われる事になった。

その正体が私だと知って王太子殿下は幻滅した事だろう。こんな、淑女とは程遠い私の事を。

「はい、そう呼ばれる事もあります」
「そうか、名乗り遅れてしまったが私の名は【リュシアン・バーン】と申す」
「勿論、存じ上げております」
「それもそうか」

そう言いながらリュシアン殿下は笑いかけていた、向けられたその笑顔には少しばかり幻滅されていないと期待したくなってしまうほどの。

「今宵の礼は追って出すゆえ、今日は帰られるといい。エレナの母君と妹君は帰られたようだしな」

その言葉に振り向くとその場所にいたはずの二人は見当たらなくなっていた、気になる言葉の意味を問いたかったが今日は厳しいだろう。

「お言葉に甘えさせていただきます、王太子殿下。私は此処で失礼させていただきます」

そうして頭を下げながら私はその場をあとにする。会場の外に出ると、アリサが馬車を用意して待っていてくれていた。馬車に乗り込むと全身の力が抜けるかのようにソファに座り込む。

今日一日で色々な出来事が起こりすぎて疲れ切っていたようで、私は窓の外から見える景色に少しの寂しさを覚えながらも屋敷に向かって馬車を走り出してもらう。
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