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7.彼氏かよ
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「のぼせそう」
限界にきた生田は、バスタブから出てタオルを手に取った。
熱くなり酒も回ってきたからだが、一番の理由は素のままの久世と向き合っていることに耐えられなくなったからだ。
バスローブを羽織って、シャンパンを飲み干す。
「先行ってるわ」
久世のほうを見ないように声をかけ、グラスを持ったままリビングへと戻った。
この妙な高ぶりは、友人とはいえ二人きりでホテルなんて場所にいるからに違いない。
通常こういったシチュエーションになる場合、相手はその気のある女性だ。脳が勝手にその種の期待を膨らませてしまったとしておかしくはない。
しかも久世は男の目で見ても色気があり、見惚れるほどの美貌を持ち、触れたくなるような肌をしているのだから、なおのこと仕方がないのである。
ともかくも、彼と二人きりなのだから、脳の間違った認識を正常に戻さなければならない。
バーカウンターへと向かい、適当に度の強そうな酒を注いで一気に煽り、もう一杯二杯と飲み干した。
すると、アルコールの酩酊感のお影で、ようやく高ぶりが鎮まってきた。
「なかなか揃ってるだろ」
煙草に火をつけたとき、同じくバスローブ姿の久世が近づいてきた。
その姿だと、なんだか事後のように感じてしまう。
「あー、うん」
「何飲んでるんだ?」
久世は生田のグラスの横に置いたボトルを持ち上げる。
「……適当に選んだだろ?」
「えっ? なんでわかったんだ?」
「また記憶をなくすぞ」
言いながら、彼はウィスキーを注いだグラスにソーダと氷も入れてソファへと向かっていった。
生田は煙草を消して後を追う。
「あのさ、この間……」
鎮まってきたこの勢いで、白黒つけてしまえと思って切り出すことにした。
「僕はその……透に何かした?」
聞くと、両手でグラスを持ってうつむいていた久世は、ゆっくりとした動作でガラリと氷を揺らして一口飲んだ。
「何かって?」
またあの上目で見られて動揺してしまう。
「えっと……失礼なこととか」
面と向かってキスをしたかなんて聞けない。
女性にもそんな無粋な真似はしたくないというのに、同性相手ならなおのことだ。
「……したような、してないような」
「え、つまり……」
まじかよ。
事実だったらしい返答を聞いて、酔いが一気に覚めた。
血の気が引くのを感じていると、なぜか久世はふっと微笑を浮かべた。
「今度ボンダルチュク版の『戦争と平和』のDVDを貸すって話をしたら、雅紀はプレイヤーなんか持ってないって言って、それなら今から買いに行こうって駆け出したのを無理やり止めた……そのときに」
久世は左手の袖口をまくって肌をあらわにした。
「わ! ごめん!」
左手首の下あたりに数センチほどの痛々しい傷跡ができている。かさぶたができているものの、負った直後は深かったのではと思わせるほどの傷だ。
傷を負わせたうえにまったく覚えていないとは、申し訳ないどころではない。
「悪かった。痛そうだな」
「それほどでもない。もう治りかけてるし」
失礼なことをしてしまったというのは、キスとかそういうのではなかったらしい。薄ぼんやりとした記憶は、ワンナイトの相手だと勘違いをして高ぶった頭が見せた妄想だったようだ。
ほっとしつつも、それどころではない事実を知ってしまって今度は気が引けて仕方がない。
「……ごめん」
神妙に謝罪をすると、彼はおかしげに表情を和らげた。
「行ってもよかったけど、たかが一つの映画を見るために買わせるわけにはいかないだろ」
彼は生田が自らを咎めないよう案じて、何でもないことのように振る舞ってくれている。
それならば合わせるほうが謝罪になるだろう。
「てか、プレイヤーなんて買っても、家にはテレビすらないから意味がない」
「そう。それも聞いたから止めた。だったら家に来ればいいと思って」
「え、でも実家だろ?」
「さっきは簡単に説明するためにそう言ったけど、実家と言っても離れだから親がいるわけじゃない。ただ、片付いていなかったから」
呼べるけど今日は無理ってのは、理由が事実である場合もあるが、半同棲していて恋人が在宅しているからという可能性もある。
久世はどちらだろう。
「いやいや、彼女がいるからだろ?」
久世は友人だ。知人というレベルは過ぎていると思う。
そう、当然ながらワンナイトの相手ではないし、欲情する対象でもない。
男同士ならそんな軽口を言えるはずで、さらには仲を深めるためにも恋愛や交友関係の話題は最適である。
「彼女?」
しかし、久世は照れるでも否定するでもなくきょとんとしただけだった。
「今朝、電話かけてきた……」
生田が言い添えて、彼はしばし静止したあとようやく思い出したという顔をした。
「あー、あれは……彼女じゃない」
「へえ、彼女未満?」
「そんなんじゃないって」
「じゃあ、彼氏?」
当然のことながら冗談である。友人を相手に親友のことを茶化して彼氏などというのはよくあることだ。
そんな軽口のつもりで口にしただけだったのに、久世はなぜか目を逸らして言い淀んだ。
「彼氏かよ!」
なおも茶化すと、彼はおもむろに立ち上がり、バーカウンターのほうへ向かった。
そしてまっすぐにボトルを手に取り、先程の生田のように注いでは一気に飲み、またも注いで飲み干している。
あれは、どういう反応なのだろう。
触れられたくないことを突いてしまったのか。
ということは──
「喧嘩か? そう自棄になるなって」
生田は追いかけて、慰めるように肩に手を置いた。
すると彼は身体をかすかに震わせて、もう一度杯を煽った。
「そんなに溜め込んでるなら酒に逃げるより話して楽になれよ」
言うと、彼は再び注ごうとした手を止めて、こちらに目を向けた。
またもあの上目である。
睨むでもなく、何かを訴えかけているかのような視線。
庇護欲をそそられるような哀れみすら覚える、抱きしめて背中を撫で、安堵の言葉をかけてやりたくなるような。
「雅紀は」
彼の声を聞いて生田はハッとする。
「……違うだろ?」
なんのことだろう。
前置きがないからわからない。
「彼女がいるかってこと? 今はいないよ」
答えながら笑みを見せたつもりだが、おそらく引きつっていただろう。
久世からの問いの答えになっていない気がして、自分でも違和を感じた。
「……やっぱり」
久世は微笑した。
なにやら寂しげなその笑みは、諦念とも言えるほどの悲哀を帯びている。
久世はボトルとグラスを手にソファへと戻り、サイドテーブルにそれらを置いて、届けられていたワゴンからつまみを物色し始めた。
「雅紀は『アンナ・カレーニナ』も読んでるんだっけ? あれの映画版はさらに種類が多くてまだ制覇しきれていないんだけど、原作ではリョーヴィンっていう地方貴族がダブル主人公のごとく出てくるって聞くから原作も気になっているんだ」
普段通りの彼に戻ったようだ。
それならばと彼に合わせるべく、生田もワゴンに近づいた。
「読んだよ。『戦争と平和』って戦争シーンが退屈なんだけど、『アンナ・カレーニナ』はそのリョーヴィンの領地経営くらいしか退屈なところがないから」
「でも、そこは退屈なんだ?」
彼はおかしげに笑みをこぼしながら言う。
「そう。でも世間で言われるほど苦痛ではなかったかな。意外と面白く読めたよ。そのリョーヴィンが魅力的なんだよね。どちらかと言うとアンナより好きかも」
「映画だとほとんど出てこない」
「まじで? まあ、確かにアンナの部分だけでも二時間に収めるには大変そうだもんな」
チーズや生ハムの乗ったパテやらを皿に盛り付けて、酒をワインに変えて飲み始めた。
未だにプライベートな話題は互いにならないまま、彼の映画話を聞きつつ、生田は小説の話を返して宵を過ごした。
生田が目覚めたときその目に映ったのは、久世が優雅にコーヒーを飲んでいる姿だった。
高級ホテルのスイートで見ると本当に絵になる男だなと、惚れ惚れしながら起き上がる。
「おはよう」
声を掛けると、彼の美しい横顔がこちらに向いた。
「……コーヒー飲む?」
「もらおうかな……今何時?」
立ち上がって彼のいるテーブルに向かいつつ、壁にかけられた時計を見て驚く。
「11時? 昼になるじゃん」
「4時くらいまで飲んでたからな……これ」
コーヒーを淹れたカップを渡される。
「ありがとう。透は大丈夫? めちゃくちゃ頭痛い」
あの日ほどではないものの、二日酔いではある。
「なんともない」
「さすが強いな」
「シャワー行ってくれば?」
「ああ、確かに」
生田はコーヒーで頭痛を和らげたあと、水差しからグラスに水を注いで飲み干して、バスルームへと向かった。
今回ばかりは記憶を失ってはいないはずだ。
寝室へは行かず部屋のソファで横になったまま記憶が途切れたものの、目覚めた場所は同じだった。
彼に妙な感情を覚えたのもバスルームが最後だったはずで、それ以降は友人として接することができたと思う。
安堵した生田は、おいおいと自らにツッコミを入れる。
それが普通だろ。ほっとするなんておかしい。
もう久世とは日付を越すような飲み方はしないほうがいいのだろうかと考えながら、さっぱりとさせてくれたシャワーに別れを告げてブースを出た。
すると目の前に見覚えのないシャツとスラックス、さらには下着までもが置いてある。
手に取ってみるとすべてがブランド物の新品で、彼ではなく自分に合うサイズであるばかりか、またもや生田の好みど真ん中である。
「これ、どういうサービス? こんなサービスもあるの?」
ありがたくそれらを身にまとい、部屋へ戻って軽口を叩くと、彼はこちらに微笑を向けた。
「サイズは合ってるだろ?」
「やはり貴様か」
いつの間にやら購入してシャワー中に置いてくれていたらしい。
まさかのことだが、二度目ともなると、これが彼の通常運転であるとも考えられる。
「ついでだから。俺の着替えの」
「マメだな。マジでモテるだろ」
「……似合うよ」
茶化したが、今度の彼は口元に拳をあてておかしげに笑みを堪えているだけで、逆にこちらのほうが気恥ずかしくさせられたのだった。
限界にきた生田は、バスタブから出てタオルを手に取った。
熱くなり酒も回ってきたからだが、一番の理由は素のままの久世と向き合っていることに耐えられなくなったからだ。
バスローブを羽織って、シャンパンを飲み干す。
「先行ってるわ」
久世のほうを見ないように声をかけ、グラスを持ったままリビングへと戻った。
この妙な高ぶりは、友人とはいえ二人きりでホテルなんて場所にいるからに違いない。
通常こういったシチュエーションになる場合、相手はその気のある女性だ。脳が勝手にその種の期待を膨らませてしまったとしておかしくはない。
しかも久世は男の目で見ても色気があり、見惚れるほどの美貌を持ち、触れたくなるような肌をしているのだから、なおのこと仕方がないのである。
ともかくも、彼と二人きりなのだから、脳の間違った認識を正常に戻さなければならない。
バーカウンターへと向かい、適当に度の強そうな酒を注いで一気に煽り、もう一杯二杯と飲み干した。
すると、アルコールの酩酊感のお影で、ようやく高ぶりが鎮まってきた。
「なかなか揃ってるだろ」
煙草に火をつけたとき、同じくバスローブ姿の久世が近づいてきた。
その姿だと、なんだか事後のように感じてしまう。
「あー、うん」
「何飲んでるんだ?」
久世は生田のグラスの横に置いたボトルを持ち上げる。
「……適当に選んだだろ?」
「えっ? なんでわかったんだ?」
「また記憶をなくすぞ」
言いながら、彼はウィスキーを注いだグラスにソーダと氷も入れてソファへと向かっていった。
生田は煙草を消して後を追う。
「あのさ、この間……」
鎮まってきたこの勢いで、白黒つけてしまえと思って切り出すことにした。
「僕はその……透に何かした?」
聞くと、両手でグラスを持ってうつむいていた久世は、ゆっくりとした動作でガラリと氷を揺らして一口飲んだ。
「何かって?」
またあの上目で見られて動揺してしまう。
「えっと……失礼なこととか」
面と向かってキスをしたかなんて聞けない。
女性にもそんな無粋な真似はしたくないというのに、同性相手ならなおのことだ。
「……したような、してないような」
「え、つまり……」
まじかよ。
事実だったらしい返答を聞いて、酔いが一気に覚めた。
血の気が引くのを感じていると、なぜか久世はふっと微笑を浮かべた。
「今度ボンダルチュク版の『戦争と平和』のDVDを貸すって話をしたら、雅紀はプレイヤーなんか持ってないって言って、それなら今から買いに行こうって駆け出したのを無理やり止めた……そのときに」
久世は左手の袖口をまくって肌をあらわにした。
「わ! ごめん!」
左手首の下あたりに数センチほどの痛々しい傷跡ができている。かさぶたができているものの、負った直後は深かったのではと思わせるほどの傷だ。
傷を負わせたうえにまったく覚えていないとは、申し訳ないどころではない。
「悪かった。痛そうだな」
「それほどでもない。もう治りかけてるし」
失礼なことをしてしまったというのは、キスとかそういうのではなかったらしい。薄ぼんやりとした記憶は、ワンナイトの相手だと勘違いをして高ぶった頭が見せた妄想だったようだ。
ほっとしつつも、それどころではない事実を知ってしまって今度は気が引けて仕方がない。
「……ごめん」
神妙に謝罪をすると、彼はおかしげに表情を和らげた。
「行ってもよかったけど、たかが一つの映画を見るために買わせるわけにはいかないだろ」
彼は生田が自らを咎めないよう案じて、何でもないことのように振る舞ってくれている。
それならば合わせるほうが謝罪になるだろう。
「てか、プレイヤーなんて買っても、家にはテレビすらないから意味がない」
「そう。それも聞いたから止めた。だったら家に来ればいいと思って」
「え、でも実家だろ?」
「さっきは簡単に説明するためにそう言ったけど、実家と言っても離れだから親がいるわけじゃない。ただ、片付いていなかったから」
呼べるけど今日は無理ってのは、理由が事実である場合もあるが、半同棲していて恋人が在宅しているからという可能性もある。
久世はどちらだろう。
「いやいや、彼女がいるからだろ?」
久世は友人だ。知人というレベルは過ぎていると思う。
そう、当然ながらワンナイトの相手ではないし、欲情する対象でもない。
男同士ならそんな軽口を言えるはずで、さらには仲を深めるためにも恋愛や交友関係の話題は最適である。
「彼女?」
しかし、久世は照れるでも否定するでもなくきょとんとしただけだった。
「今朝、電話かけてきた……」
生田が言い添えて、彼はしばし静止したあとようやく思い出したという顔をした。
「あー、あれは……彼女じゃない」
「へえ、彼女未満?」
「そんなんじゃないって」
「じゃあ、彼氏?」
当然のことながら冗談である。友人を相手に親友のことを茶化して彼氏などというのはよくあることだ。
そんな軽口のつもりで口にしただけだったのに、久世はなぜか目を逸らして言い淀んだ。
「彼氏かよ!」
なおも茶化すと、彼はおもむろに立ち上がり、バーカウンターのほうへ向かった。
そしてまっすぐにボトルを手に取り、先程の生田のように注いでは一気に飲み、またも注いで飲み干している。
あれは、どういう反応なのだろう。
触れられたくないことを突いてしまったのか。
ということは──
「喧嘩か? そう自棄になるなって」
生田は追いかけて、慰めるように肩に手を置いた。
すると彼は身体をかすかに震わせて、もう一度杯を煽った。
「そんなに溜め込んでるなら酒に逃げるより話して楽になれよ」
言うと、彼は再び注ごうとした手を止めて、こちらに目を向けた。
またもあの上目である。
睨むでもなく、何かを訴えかけているかのような視線。
庇護欲をそそられるような哀れみすら覚える、抱きしめて背中を撫で、安堵の言葉をかけてやりたくなるような。
「雅紀は」
彼の声を聞いて生田はハッとする。
「……違うだろ?」
なんのことだろう。
前置きがないからわからない。
「彼女がいるかってこと? 今はいないよ」
答えながら笑みを見せたつもりだが、おそらく引きつっていただろう。
久世からの問いの答えになっていない気がして、自分でも違和を感じた。
「……やっぱり」
久世は微笑した。
なにやら寂しげなその笑みは、諦念とも言えるほどの悲哀を帯びている。
久世はボトルとグラスを手にソファへと戻り、サイドテーブルにそれらを置いて、届けられていたワゴンからつまみを物色し始めた。
「雅紀は『アンナ・カレーニナ』も読んでるんだっけ? あれの映画版はさらに種類が多くてまだ制覇しきれていないんだけど、原作ではリョーヴィンっていう地方貴族がダブル主人公のごとく出てくるって聞くから原作も気になっているんだ」
普段通りの彼に戻ったようだ。
それならばと彼に合わせるべく、生田もワゴンに近づいた。
「読んだよ。『戦争と平和』って戦争シーンが退屈なんだけど、『アンナ・カレーニナ』はそのリョーヴィンの領地経営くらいしか退屈なところがないから」
「でも、そこは退屈なんだ?」
彼はおかしげに笑みをこぼしながら言う。
「そう。でも世間で言われるほど苦痛ではなかったかな。意外と面白く読めたよ。そのリョーヴィンが魅力的なんだよね。どちらかと言うとアンナより好きかも」
「映画だとほとんど出てこない」
「まじで? まあ、確かにアンナの部分だけでも二時間に収めるには大変そうだもんな」
チーズや生ハムの乗ったパテやらを皿に盛り付けて、酒をワインに変えて飲み始めた。
未だにプライベートな話題は互いにならないまま、彼の映画話を聞きつつ、生田は小説の話を返して宵を過ごした。
生田が目覚めたときその目に映ったのは、久世が優雅にコーヒーを飲んでいる姿だった。
高級ホテルのスイートで見ると本当に絵になる男だなと、惚れ惚れしながら起き上がる。
「おはよう」
声を掛けると、彼の美しい横顔がこちらに向いた。
「……コーヒー飲む?」
「もらおうかな……今何時?」
立ち上がって彼のいるテーブルに向かいつつ、壁にかけられた時計を見て驚く。
「11時? 昼になるじゃん」
「4時くらいまで飲んでたからな……これ」
コーヒーを淹れたカップを渡される。
「ありがとう。透は大丈夫? めちゃくちゃ頭痛い」
あの日ほどではないものの、二日酔いではある。
「なんともない」
「さすが強いな」
「シャワー行ってくれば?」
「ああ、確かに」
生田はコーヒーで頭痛を和らげたあと、水差しからグラスに水を注いで飲み干して、バスルームへと向かった。
今回ばかりは記憶を失ってはいないはずだ。
寝室へは行かず部屋のソファで横になったまま記憶が途切れたものの、目覚めた場所は同じだった。
彼に妙な感情を覚えたのもバスルームが最後だったはずで、それ以降は友人として接することができたと思う。
安堵した生田は、おいおいと自らにツッコミを入れる。
それが普通だろ。ほっとするなんておかしい。
もう久世とは日付を越すような飲み方はしないほうがいいのだろうかと考えながら、さっぱりとさせてくれたシャワーに別れを告げてブースを出た。
すると目の前に見覚えのないシャツとスラックス、さらには下着までもが置いてある。
手に取ってみるとすべてがブランド物の新品で、彼ではなく自分に合うサイズであるばかりか、またもや生田の好みど真ん中である。
「これ、どういうサービス? こんなサービスもあるの?」
ありがたくそれらを身にまとい、部屋へ戻って軽口を叩くと、彼はこちらに微笑を向けた。
「サイズは合ってるだろ?」
「やはり貴様か」
いつの間にやら購入してシャワー中に置いてくれていたらしい。
まさかのことだが、二度目ともなると、これが彼の通常運転であるとも考えられる。
「ついでだから。俺の着替えの」
「マメだな。マジでモテるだろ」
「……似合うよ」
茶化したが、今度の彼は口元に拳をあてておかしげに笑みを堪えているだけで、逆にこちらのほうが気恥ずかしくさせられたのだった。
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