ゲームの犯人に転生したらサイコパス化した王子に溺愛された

七天八狂

文字の大きさ
6 / 23

6.供述

しおりを挟む
 王城へと戻り、夜の舞踏会に備えてそれぞれの部屋へと向かった。
 
「なんであんなことしたんですか?」

 思わず口について出た。話しかけられる立場でもないのに、イリスの部屋で二人きりになった途端しゃしゃり出てしまった。

「……抱いたあと馴れ馴れしくなるのはなんでなんだろうね……立場は変わってないのに」

 イリスは両手をあげ、目的はどうした?とばかりに呆れた目を向けてきた。召し替えは俺の仕事だ。

「申し訳ございません。イリス様のことが心配で……まことに勝手なことでありますが」
「心配? 俺の命を狙った張本人が?」
 
 イリスは皮肉げに口元を吊り上げ、上着を脱がせ始めた俺を覗き込んできた。

「……断罪される覚悟はあります」
「へえ。じゃああの毒針を持って近衛兵のもとへ行きなよ」

 あっさりと言われて面食らう。
 毒針さえ手に入れたら逃げおおせることになるが、いいのだろうか。万が一捕まったとしても、証拠がないとなれば、言い逃れることができる。
 本気で俺のことなんてどうでもいいのだろうか。
 暗殺未遂を見破られた直後に抱かれて、それ以降もイリスは俺を近衛兵に突き出そうとしなかった。なにか裏があるものと考えてそばにいたものの、誰に告げるでもなく行動を起こす気配もない。

「……承知いたしました」

 バレた時点で逃げることなど不可能だと覚悟していたが、本気で自首を促しているのならとんずらするチャンスだ。
 もしかしたら、クリステルは愚鈍だから、渡したとして逃げ出すことはないと考えているのかもしれない。
 確かに前世の記憶を取り戻さなければ、逃げても露頭に迷うことになっただろう。しかし、いまなら田舎でスローライフくらい……いや、それはさすがにラノベの読み過ぎか。どこかの下男に雇ってもらうくらいが関の山だ。それでも、事務作業なんかでのし上がれるかもしれない。そんなラノベもあったと思い出しつつ、意外に生きていけるかもと希望が見えてきた。
 
「どこやったっけ?」

 考えていたところ、着替えを終えたイリスがベッドのサイドテーブルへと行って、なにごとかとがさがさやっている。
 
「何をお探しなのですか?」
「毒針だよ」
「イリス様はデスクの中に仕舞われておられました」
「ああ、そうだ」

 イリスはサイドテーブルの引き出しを閉め、デスクのある部屋へと向かい出した。

「鍵のない場所に入れていたのに、なんで持ち出さなかったの?」
「……イリス様のものに勝手はできません」
「俺のじゃない。きみのだろ? ……はい」

 戻ってきたイリスから、不要品のようにそっけなく手渡される。

「……あ……りがとうございます」

 呆気なくも自由の身となった。
 
「最後にもう一度抱きたかったけど、まあいいや。きみくらいの相手なら他にもいるし」

 きょとんとしていた俺の耳に、抑揚のない声が突き刺さった。
 イリスはもう一度抱いてくれるつもりだったのだろうか。あの快感をもう一度? いやいや期待に熱くなっている場合じゃない。

「あとはもういいよ。舞踏会にはブルーノについてきてもらうし……じゃあ、よい絞首刑を」

 呆然と間抜け面をしている俺に、イリスはひらひらと手を振って洗面所のほうへ消えていった。
 このまま部屋から出ていけば、終わりだ。誰に追われることもないし、暗殺未遂という罪から解放される。王城を出るにしてもイリスからの用事だなんだと適当に言えばいいわけで、王都へ出てしまえば誰にも顔を知られていない。
 まごつきながらも毒針をポケットの中へと滑らせ、ドアのほうへと向かおうとした俺は、しかし途中で足を止めた。

「……イリス様」

 止めた足を、俺はなぜか反対のほうへと動かした。洗面所のほうへと行き、きょとんとした顔のイリスと目を合わせ、これまたなぜか頭を下げた。

「なにやってんの?」

 まったくだ。俺はなにをやっているんだ?
 
「あの……わたしがお供します」
「どこに?」
「ご予定の舞踏会であります」
「なんで?」

 イリスの眉根が訝しげに寄る。俺も寄せたいくらいだ。わけがわからない。しかし、止まらない。

「……イリス様のお命をお護りするためです」

 口から出た言葉に、自分でびっくりした。イリスも虚を突かれたようで、はあ?と呆れ顔になった。

「おまえの警護なんて必要ない。俺より弱いのだし……というか、剣など握れるのか?」
「いえ。身体を張るくらいしか……ですが、陰謀を探る程度のことはできるかと」
「陰謀?」
「イリス様はお命を狙われております。わたしが言う立場ではありませんし、弁明するつもりではないのですが……」
「俺の命が狙われるのは当然だろう。誰だと思ってる? 男娼と勘違いするほど阿呆なわけではあるまい?」

 勘違いはしていないがアホではある。逃げないばかりか、従者の仕事を逸脱するような世迷言を口にしているのだから。

「わたしに毒針を渡してきたのはウルヤナです」
「……誰?」
「エデュアルド様の従者をしております」

 ぴんとこない様子のイリスに説明したものの、ふうんと興味がなさそうにつぶやいただけだった。実行犯の俺を逃がすだけでなく、黒幕の正体に関してもどうでもいいらしい。

「イリス様は、なぜ俺を逮捕させないのですか?」
「え?」
「騒ぎにして、護衛が強化されるのを面倒と感じたからですか?」
「いきなりなに?」
「わたし以外にもイリス様のお命を狙う者がいるかもしれません」
「……よく喋るね。抱いたせいで調子に乗っちゃった?」

 調子に乗っているのは少しあるかもしれない。クリステルがいくら愚鈍でも、こんな口を効いたりはしなかった。しかし、止めようにも抑えられないのである。
 逃げ出せばいいし、身を滅ぼすことだとわかっている。それなのに、支配されてしまった。
 好奇心という、抑えがたいほどの欲求に突き動かされてしまっている。

「ユングストレーム公爵の怒りを煽るような真似をされたのはなぜですか? わたしにはイリス様自らが敵をつくっていらっしゃるように見受けられました」

 ゲームの世界へ転生したというラノベでは、先の展開を回避しようと主人公が行動するドラマが展開される。しかし多くがゲームの強制力なるものによって、危機的状況には必ず追い込まれてしまう。盛り上げるためのスパイスであろう虚構の話だが、現実に虚構的な世界に生きている現状、可能性があると考えた。
 つまり、俺がイリスを殺さなかったとしても、他の誰かによって殺されるのではないかと思いついたのだ。

「敵なんてたくさんいるよ」
「イリス様のお立場では当然のことと存じますが、わたしが申し上げたいのは、ご自身でわざわざ敵意を引き出されているように感じられたということです」
「うん。そうだね」

 イリスは当然とばかりの顔で、あっさりと肯定した。
 
「敵はつくらなきゃ現れないじゃないか。俺が優秀過ぎるせいだけど、父上が名君のせいで近隣諸国と戦争を起こすのも一苦労だし、スリルを楽しむには恨みを買って狙われるくらいしないと」
「……申し訳ございません。理解が追いつかないのですが、イリス様が自ら恨みを買うような真似をされて、暗殺させるよう仕向けられているとおっしゃられているように聞こえてしまいました」
「理解してるじゃん。そのとおりだよ。誰だっけ……ウラヤナ?」
「……ウルヤナです」
「そのエデュアルドの従者のも、俺が手を回したやつの差し金だと思う。毒草の話はネーヤにしていたから、おそらくそれを生成したものなんじゃないかな」
 
 目が点になるとはこのことだ。イリスの話が事実なら、暗殺の黒幕とはつまり殺される本人ということになる。

「……そういうこと」

 俺を見ておかしげに噴き出したイリスは、「そろそろ行かないと」と言ってドアへと向かい出した。
 なぜそんなことを? 困惑する話だが、嘘をついているようには見えない。そもそもがつく必要などないし、事実とするなら俺を突き出さなかった理由にも頷ける。先に暗殺される可能性を考慮して、早い所炙り出そうという魂胆なのだろうか。凶器のアイデアを持ち出したのも、回避するための事前策としてなら考えられなくもない。

「きみが逃げないんなら、ブルーノのことは呼ばないけど……どうする?」
 
 やれやれといった様子でイリスに言われ、とりあえず考えるのは後だと頷き、後を追うことにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない

深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。 聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。 ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。 ――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。 何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。 理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。 その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。 ――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。 傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?~前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します~

いつく しいま
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在―― いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? 「俺のものになって」 「ちょっと、この子を独占しないでよ」 「お前こそ」  ちょっと困るって!   これは、法的事案だよ……! *** ※男主人公をめぐる逆ハーレムあり ※法廷・ミステリーパートの描写あり(基本理解できる範囲になっております) 以前こちらで投稿していた作品を、2章の構成を整えて再投稿します。以前読んでくださっていた方、本当にありがとうございました。36話まで1日3回(11時半、15時半、19時半)予約投稿済みです。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

執着騎士団長と、筋肉中毒の治癒師

マンスーン
BL
現代日本から異世界へ転生した治癒師のレオには、誰にも言えない秘密がある。 それは「定期的に極上の筋肉に触れて生命力を摂取しないと、魔力欠乏で死んでしまう」という特異体質であること! ​命をつなぐため、そして何より己のフェティシズムを満たすため、レオがターゲットに選んだのは「氷の騎士団長」と恐れられる英雄ガドリエル。 ​「あぁっ、すごい……硬いですガドリエル様ッ!(大胸筋が)」 「……っ、治療中にそんな熱っぽい声を出すなッ」 ​生きるために必死で揉みしだくレオを、ガドリエルは「これほど俺の身を案じてくれるとは」と都合よく勘違い 触られたいムッツリ攻め×触りたい変態受け

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます

水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。 しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。 このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。 そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。 俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。 順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。 家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。 だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。

処理中です...