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第2話 断罪イベント不発に終わる
しおりを挟む扉が空いてレナルドがリリアンをエスコートして会場に現れた。皆の視線はそこに釘付けになる。
「まあ、レナルド王子はリリアン様と会場にいらしたわ」
レナルドとリリアンの姿に会場はどよめいていた。
レナルドにエスコートされるリリアンは笑顔を浮かべ、周りに手を振っていた。それはまるで自身が正式な婚約者だとでもいうような態度だった。二人は会場の中央へとやってくる。そこにこれから婚約破棄を言い渡す相手がいると思って……
「おい!リスティアはどこだ?」
レナルドは会場中央で辺りを見回すがリスティアの姿が見えない事に機嫌を悪くする。
他の者らも辺りを見回し首を横に振った。
「どういう事だ?あの女、俺の誕生パーティーに姿も見せないなんて、酷い女だ」
レナルドは吐き捨てるように言った。するとリリアンはレナルドの腕に自身の腕を絡めて上目遣いにレナルドを見る。
「レナルド王子、きっとリスティア様はあの噂が本当だから怖くて会場に来られなかったんですわ」
「そうか!婚約者の誕生パーティーにも顔を出さないような女とは婚約破棄だ!!」
レナルド王子がそう高らかと宣言した時だった。コツコツと靴を鳴らして王子の前にやって来たのはリスティアの父親シュトバリュー公爵であった。
「レナルド王子、それではリスティアとの婚約破棄はこれで成立したと言う事ですね」
シュトバリュー公爵は淡々とそう述べた。
「ああ、そうだ。どんなに君の娘が後から嫌だと言ってももう決まった事だ。諦めるように言い聞かせてくれ。それからリリアンに対する嫌がらせの件だが……」
そう言いかけたレナルドの言葉を遮るようにシュトバリュー公爵はにこやかに言った。
「そうですか。やっと婚約破棄を受け入れて下さって良かった。再三、レナルド王子には婚約を破棄したいとこちらからお伝えしていたのになかなか受け入れてもらえず、どうしたものかと思っておりましたから。これでリスティアはゆっくりと病気の療養ができます」
そう言うと、シュトバリュー公爵はニッコリ笑って会釈をすると会場を去ろうとする。
「ま、待て!まだ、リリアンに対する嫌がらせの件の処罰が」
「それにつきましては、根拠のない噂でございましょう?噂だけで我が娘を罰すると言うのですか?」
シュトバリュー公爵はリリアンを一瞥する。それに恐れをなしたリリアンはこう言った。
「だ、だったら今日、レナルド王子の誕生パーティーに顔を出さなかった事は婚約者の身でありながらあり得ない事だわ。王族への不敬よ!ねえ、レナルド王子」
リリアンはレナルドに上目遣いでそう言った。
「ああ、確かにそうだ!それこそ私に対する不敬罪で処罰する!」
王子の言葉にシュトバリュー公爵はため息を吐いた。
「先程も申しましたが娘は体調が悪いので先に失礼させて頂いたんです」
「そんな嘘が通用するとでも思うのか!?」
「嘘だと思うのなら会場の皆さんに聞いてみたらいいではないですか?」
シュトバリュー公爵の言葉にレナルド王子は舌打ちすると会場に響き渡る声で言った。
「誰か、今日この会場でリスティアを見た者はいるか!?いないよな!?」
レナルド王子の強制力ある言葉に本当は会場にリスティアがいた事を知る者達は一斉に口をつぐんだ。
レナルド王子はフンッと鼻を鳴らすと
「いないではないか。シュトバリュー公爵、これでリスティアが不敬罪であるとハッキリしたな」
と睨んだ。シュトバリュー公爵が黙り込む皆を一瞥してやれやれと思っていると一人の深い青の瞳の青年が声を上げた。
「僕はリスティア嬢が会場にいるのを見たよ。レナルド王子が来る前は皆さんリスティア嬢の話題をよく話していたではないですか?どうして黙っているんですか?」
その一言で会場の雰囲気は変わった。
「わ、私も見ました」「あ、私も」
次々とリスティアの目撃情報が上がる。その上「ちょっとレナルド王子強引過ぎるよな」「婚約破棄だって元々、リスティア様側から申し出てたみたいだしな」という声まで聞こえてきた。レナルド王子はこのままでは今度は自身に火の粉がかかる事を恐れて
「分かった!不敬罪は不問とする!!」
と怒りながら会場を出ていった。
「ま、待って!レナルド王子!」
その後をリリアンも追って出ていった。
◇◆◇
その頃、リスティアは無事に会場を出て馬車に揺られていた。
「会場は今頃どうなっているかしら……。お父様が上手くやってくれると仰っていたけれど」
リスティアは断罪イベントがどうなったのか気になりながら国境近くにある屋敷に向かったのであった。
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