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第1話
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淡々と伯爵令嬢として生きていた私の人生に、突如現れたその人は、私の人生を大きく変えた――
私は、名門伯爵家の娘、セシリア・フィグラス。幼い頃からクールな子だと言われていた私は、15年過ごしてきた今の人生に不満も不安もない……。けれど、胸が高鳴るような高揚もない。
もちろん、恵まれている事は分かっている。だから、伯爵令嬢としての務めはきちんと果たしているし、家族や周りの人間に迷惑をかけるような事もしない――
「セシリア、今度モンテット侯爵夫人のお茶会があるのよ。衣装屋を呼んだから、ドレスを選んであげるわね」
「ええ、お母様」
美人と評判の母親は、そのファッションセンスも注目を集めていて、母が着るドレスをこぞって他のご婦人も真似をした。
そして、それは娘の私にも……。私のドレスを母が選び、それを茶会に着ていくと他の令嬢に何処の衣装屋のドレスなのかと質問攻めにあうのが、最近の流れである。
「まあ!可愛い!やっぱり、このドレス、セシリアちゃんにとっても似合うわ!ねえ!貴方も見て!」
呼ばれたお父様は、部屋に入って来ると両手を広げて大袈裟なくらいに言った。
「なんと!可愛い!!さすが私達の娘だ!!」
「そうでしょう」
お母様が得意気に言う。
素敵なドレスを着て褒められたら、普通は気持ちが高揚したりするものなのだろうが、セシリアにとっては、可愛いドレスも称賛の声も心を動かされるようなものではなかった。
「ああ、君のセンスはいつもながらに抜群だよ。いつもセシリアの魅力を際立たせるドレスを選ぶんだから」
そう言ってお父様はお母様の腰に手を回し、頬に口付けた。そのまま、二人の世界がしばらく続くのは何時もの事。
両親はとても仲が良くて、これでもかって程、子供の前でもイチャイチャする。
ひとしきりイチャつき終わったお母様は
「セシリア、このドレスにしましょうね」
と満足げに言った。
「ええ」
私はそれに、薄く笑って答える。
「もう、セシリアちゃんはいつも反応が薄いんだから!もっと喜んだ顔を見せてあげないと、せっかく頑張ってドレスを作ってくれた方々に失礼よ!」
お母様が怒ったように言っても全然怖くないけれど、少々、うす味な反応をしてしまった事を反省した私は、衣装屋の人達を見ると
「とても着心地が良くて、素敵ですわ」
と言ってフワリと笑った。そんなセシリアに、衣装屋の女性は「なんと、お美しいの」とセシリアの微笑みに絆されていた。
◇
「まあ!セシリア様のドレスとっても素敵!」
モンテット侯爵夫人のお茶会では、早速いつものお決まりのセリフがセシリアの耳を通り過ぎる。
「ええ、母が選んでくれました」
「セシリア様のお母様は、センスが良くて羨ましいわぁ。ご本人もとってもお美しいものね」
「母が聞いたら、喜びますわ」
張り付いた笑顔で当たり障りのない会話をして、ずっとこんなふうに過ごして、私の一生は終わるのだとそう思っていた。それが、寂しいとか悲しいとかそんな事さえ思う事もない。
私は、感情の機微に乏しい人間なのだと、そう結論づけて……。
――それでも、何処か心を動かされる瞬間を……私の心を動かす事が出来る人を……私は待っていたのだと、彼と出会って気が付いた――
私は、名門伯爵家の娘、セシリア・フィグラス。幼い頃からクールな子だと言われていた私は、15年過ごしてきた今の人生に不満も不安もない……。けれど、胸が高鳴るような高揚もない。
もちろん、恵まれている事は分かっている。だから、伯爵令嬢としての務めはきちんと果たしているし、家族や周りの人間に迷惑をかけるような事もしない――
「セシリア、今度モンテット侯爵夫人のお茶会があるのよ。衣装屋を呼んだから、ドレスを選んであげるわね」
「ええ、お母様」
美人と評判の母親は、そのファッションセンスも注目を集めていて、母が着るドレスをこぞって他のご婦人も真似をした。
そして、それは娘の私にも……。私のドレスを母が選び、それを茶会に着ていくと他の令嬢に何処の衣装屋のドレスなのかと質問攻めにあうのが、最近の流れである。
「まあ!可愛い!やっぱり、このドレス、セシリアちゃんにとっても似合うわ!ねえ!貴方も見て!」
呼ばれたお父様は、部屋に入って来ると両手を広げて大袈裟なくらいに言った。
「なんと!可愛い!!さすが私達の娘だ!!」
「そうでしょう」
お母様が得意気に言う。
素敵なドレスを着て褒められたら、普通は気持ちが高揚したりするものなのだろうが、セシリアにとっては、可愛いドレスも称賛の声も心を動かされるようなものではなかった。
「ああ、君のセンスはいつもながらに抜群だよ。いつもセシリアの魅力を際立たせるドレスを選ぶんだから」
そう言ってお父様はお母様の腰に手を回し、頬に口付けた。そのまま、二人の世界がしばらく続くのは何時もの事。
両親はとても仲が良くて、これでもかって程、子供の前でもイチャイチャする。
ひとしきりイチャつき終わったお母様は
「セシリア、このドレスにしましょうね」
と満足げに言った。
「ええ」
私はそれに、薄く笑って答える。
「もう、セシリアちゃんはいつも反応が薄いんだから!もっと喜んだ顔を見せてあげないと、せっかく頑張ってドレスを作ってくれた方々に失礼よ!」
お母様が怒ったように言っても全然怖くないけれど、少々、うす味な反応をしてしまった事を反省した私は、衣装屋の人達を見ると
「とても着心地が良くて、素敵ですわ」
と言ってフワリと笑った。そんなセシリアに、衣装屋の女性は「なんと、お美しいの」とセシリアの微笑みに絆されていた。
◇
「まあ!セシリア様のドレスとっても素敵!」
モンテット侯爵夫人のお茶会では、早速いつものお決まりのセリフがセシリアの耳を通り過ぎる。
「ええ、母が選んでくれました」
「セシリア様のお母様は、センスが良くて羨ましいわぁ。ご本人もとってもお美しいものね」
「母が聞いたら、喜びますわ」
張り付いた笑顔で当たり障りのない会話をして、ずっとこんなふうに過ごして、私の一生は終わるのだとそう思っていた。それが、寂しいとか悲しいとかそんな事さえ思う事もない。
私は、感情の機微に乏しい人間なのだと、そう結論づけて……。
――それでも、何処か心を動かされる瞬間を……私の心を動かす事が出来る人を……私は待っていたのだと、彼と出会って気が付いた――
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