クールな伯爵令嬢と見習い魔術師

花見 有

文字の大きさ
2 / 9

第2話

しおりを挟む
 


「お嬢様、お茶とお菓子をこちらに置いておきますね」

「ええ、ありがとう」

 そう言うと、侍女は部屋から出ていく。

 私はそれを確認すると、持っていた本を開いて、一人読書を始めた。
 読書が特別好きだというわけでもないが、読書をしている間は、侍女を下げて一人の時間を過ごせるから、セシリアはこの時間を好んでいた。
 本に熱中し過ぎるわけでもなく、淡々と読み進めていく。
 そして、ページをめくったその時だった――

 突然ピカ!!と部屋の中が明るくなった事に驚いて、本から顔を上げた――

 目の前には見知らぬ少年がいた。少年と私は一瞬目を合わせたと思ったが、すぐに少年は顔をキョロキョロさせ言った。

「あれ?ここどこ!?」

 黒のローブを着た格好から察するに、魔術師といった所だろうか。

「やっば!急いで帰らないと師匠に怒られる!!」

 少年はすぐ様、指を何か書くように振ると、少年がなぞった通りに空中に光る文字が浮かび上がり、少年はその文字を握って「転移!」と言った。

 だが――

 その場から少年が消えることはなく、代わりに……

 グー

 と少年のお腹が鳴った。

「は、腹が減って魔力が足りない?」

 そう言った少年はやっと私の方を見た。

「えーと、すみません。怪しい者じゃないんで、すぐ出ていくんで……」

 部屋の右にある扉の方に、ジリジリと向かいながら言うと、扉のノブを持って開けた。

「そこは衣装室よ」

「え?」

 少年は開けた部屋の中を見て、数秒止まるとパタンと扉を締めた。

「ハ、ハハッ。間違えちゃったみたいです」

 と今度は部屋の反対側にある扉の方へ向かって行って

「では、お騒がせしました」

 と言って扉を開ける。

「そっちは浴室だけど」

 またしても、扉の先を確認した少年は静かに扉を締めると言った。

「どうやったら外に出られるんだー!!」

 頭を抱える少年に、私は少年の後ろにある扉を指差した。

「あなたの後ろにある扉が、廊下へ繋がっているけれど、今、この部屋からあなたが出たらきっと不審者扱いで捕まると思うわよ」

 飛びついて、開けようとした扉からそっと離れて少年は言った。

「ええ!?どうしよう!?俺捕まりたくないよー!!」

 その少年の慌てふためく様子に、セシリアは驚いて目をパチパチさせる。

 変わった魔術師ね……

「あなた、ここに突然現れたんだから、また突然消える事もできるのよね?」

「そうなんだけど、お腹が空いてて魔力切れで……」

 と少年はお腹を擦るとまたしてもグーとお腹が鳴った。

 よく鳴るお腹ね。とっても空いているのかしら?

「よかったらこれ、どうぞ」

 セシリアは、自分用に用意されたお茶とお菓子を少年に差し出した。

「え!?いいの!?めっちゃ美味しそうだけど」

 少年は、瞳をキラキラさせてテーブルの上に並ぶお茶とお菓子を見た。

「ええ。どうぞ」

「じゃあ、いただきまーす!」

 そう言うと少年は、1番大きなケーキを口に運んだ。

「うっま!」

 本当に美味しそうに食べるのね……。

 そして、少年はそのままぺろりとお茶とお菓子を平らげてしまった。

「ふう。これで、魔力回復!じゃあ、お世話になりましたー」

 少年はさっきのように空中に文字を書き、光った文字を拳で握ると「転移」と言った。その瞬間少年の姿は跡形もなく、消えてしまった。

 本当に消えてしまったわ……。

 そして、セシリアはおもむろに心臓を押さえた。

 どうしてかしら……。心臓がドクドクいってるわ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

処理中です...