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第3話
しおりを挟む「セシリアお嬢様、こちらにお茶とお菓子をご用意しておきますね」
「ええ。ありがとう」
侍女がカップにお茶を注ぐのを見つめながら、セシリアは昨日の事を思い出していた。
あの少年は一体何だったんだろう。あ、美味しいって言ってたケーキが今日もあるわ。……って、そんな事気にしてどうするのよ。昨日は、たまたまこの部屋に来ただけよ。
それにせっかくの一人の時間を邪魔されたくないし。
「それでは、セシリアお嬢様、失礼致します」
侍女が部屋を出ていくと、セシリアはいつものように本を開いた。
目は文字を追っているが、内容が頭に入ってこない。ページを捲る時に不意に顔を上げてしまう。
「はあ……、何だか集中出来ないわ」
そうセシリアが呟いた時だった。部屋の中が光に包まれ、昨日の少年が現れた。
「あ!昨日ぶり!」
にこやかに言う少年にセシリアは眉を寄せた。
「どうしてまた来たの?」
そう問われた少年は、顎に手を置いて首を傾げる。
「どうしてなんだろう?師匠の所に戻るつもりが、何故かここに転移しちゃうんだよなぁ」
そして少年は、テーブルにあるお菓子を見て、ゴクリと喉を鳴らした。
「もしかして、またお腹が空いているの?」
「あ、分かっちゃった?」
セシリアはため息を吐くと「どうぞ」と少年に向けて言った。
少年はパッと嬉しそうな顔をすると「いただきまーす」と言って昨日と同じケーキから口に運んだ。
少年の名前はケヴィと言って、魔術師の見習いらしい。
歳は私より下だと思ったら同じ15歳だった。
もぐもぐとお菓子を美味しそうに食べるケヴィに、私は本を読むのも忘れてその様子を見ていた。
「どうして私の部屋へ転移してくるの?」
「いや、わざとじゃないよ?まだ、俺見習いだからさー。転移術も昨日初めて教えてもらって、だから上手く思った所に転移出来ないんだと思う」
「そうなの」
じゃあ、彼の魔術が上達すれば、この部屋に来る事はなくなるのね。
「やあ、お腹いっぱい!」
気付けば、ケヴィはテーブルの上のお菓子とお茶を全部食べ終えていた。
昨日もだけど、食べるの早いわね。
「それじゃ、昨日も今日もありがとう!またね!」
そう言ってケヴィは空中に光る文字を書くとそれを握って「転移」と言ってパッと消えてしまった。
さっきまで騒がしかった室内が急に静寂に包まれて、やはりセシリアの心臓はドクドクと鳴っていた。
◇
そして、ケヴィはその次の日もその次の日もセシリアの元へやって来た。
そして、お茶とお菓子を食べて帰っていくのだ。
「セシリア、最近読書の時間にお菓子をたくさん食べてるんですって?美味しいのは分かるけど、程々にしないと太ってしまうわよ」
朝食の時に、珍しくお母様に注意されてしまった。
「ハハ。大丈夫だよ。セシリアは、君に似てとっても可愛いからね。少しぐらい太ったって何の問題ないよ」
とお父様はニコニコしてお母様の頬に手を添える。
「まあ、あなたったら」
とお母様が言うと、お決まりのイチャイチャが始まった。
「そういうの俺らの前では控えてくれって言ってるだろ?」
それに兄のアンドレが呆れ顔で言って、セシリアを見た。
「セシリアだって、朝から親のイチャつく所なんて見たくないよな?」
「お父様とお母様が仲が良い事は、悪い事ではないので、私は気にしてませんよ」
そう言って、セシリアは表情を崩すことなく黙々と食事を続けるので、アンドレも居心地悪そうに食事を続けた。
◇
「はあ、毎日こんなに美味しいお菓子をご馳走になって悪いなあ」
ケヴィはケーキを頬張りながら言った。
今日も読書中の私の部屋へやって来たケヴィは、いつものようにお菓子を食べていた。
お母様にはああ言われたけれど、ケヴィのお腹が満たされなくて、魔術が使えないと困るものね。
とセシリアは、侍女にいつもの所にお菓子の用意を頼んでいたのだった。
「構わないわよ。どうせ、私が食べないと処分してしまうから、無駄がなくていいわ。所で貴方は未だに私の所に転移して来るけれど、魔術の勉強は進んてるの?」
「いやあ、これがなかなか難しくて」
とケヴィは頭をかいた。
魔術の事は魔力を持たない私には、分からないけれど、このルドスタ王国の魔術師は、皆、国の機関に属する事が決まっている程、貴重な存在であり、誰もが魔術師になれるわけでもないのだ。だから、魔術の修行というのはきっととても大変なのだろう。
モグモグとお菓子を食べるケヴィからは、そんな感じは一切しないけど……。
でも、転移の魔術を使う時はいつもドキドキしてしまうのよね。空中で光る文字もケヴィが一瞬にして消え去ってしまう事も、何度見てもドキドキするわ。
あれから、セシリアの読む本は専ら魔術師が出てくる物語だった。
私……、実は魔術に興味があったのかしら……?
「ね、ねえ、他にはどこに間違えて転移してしまったの?」
「いや、間違えて転移するのはセシリアの所だけだよ」
「え?どういう事?」
「うーん?なんか、師匠が言うには、転移魔術が安定しない内は、術者と結び付きが強い所に転移してしまうことがあるんだって」
結び付き?
その言葉にドクンと心臓が大きく鳴った。
「私とあなたの間に……どんな結び付きがあるっていうの?」
ドクドクと何故か速くなる心臓を押さえて、ケヴィに訪ねた。
「師匠が言うにはー、やっぱり、親、兄弟の所が多いって言ってた」
「……え?親、兄弟?」
さっきまで高鳴っていた心臓は、正常に戻っていた。
「そう!もしかして、俺とセシリアって兄妹だったりして!?親父さん、他に子供がいるような事、言ってなかった!?」
と興味津々で聞くケヴィに、セシリアはいつもの無表情で答えた。
「……確認してみるわ」
それから、その日の夕食に、私はお父様に私達以外に子供が居ないのか聞いてみた。
「お父様、私達の他に外に子供が居るのですか?」
「は!?え!?セ、セシリア、それはどういう意味だ!?」
私の発言にお父様は、大いに動揺していた。
「え!?何!?それは、どういう事なの!?」
とお母様がお父様を問い詰める。
「ええー?勘弁してくれよ」
とお兄様は呆れて言った。
「いや、待て待て!そんなわけないだろ!?セシリア何故、急にそんな事をいうんだ!?」
お父様は涙目で私に訴えて来た。
確かに、愛妻家のお父様がそんな事するとは考え辛いわ。
「ごめんなさい。ちょっと確認してみただけですわ」
では、お父様でないとすると……
「では、お兄様は?身に覚えはございませんか?」
急に、今度は自分に振られた事にお兄様も激しく動揺する。
「は!?俺!?ある分け……ない、よな?」
まさか、お兄様?
あ、でも歳的にそれはあり得ないか。18歳のお兄様に15歳の子供はあり得ないわ。
「二人ともごめんなさい。どうやら、私の勘違い……」
そう謝ったセシリアの言葉は母の怒りの籠もった言葉にかき消された。
「あなた達、食事が終わったらお話がありますわ」
お母様は怖い顔でお父様とお兄様に言ったのだった――
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