クールな伯爵令嬢と見習い魔術師

花見 有

文字の大きさ
3 / 9

第3話

しおりを挟む
 
「セシリアお嬢様、こちらにお茶とお菓子をご用意しておきますね」

「ええ。ありがとう」

 侍女がカップにお茶を注ぐのを見つめながら、セシリアは昨日の事を思い出していた。

 あの少年は一体何だったんだろう。あ、美味しいって言ってたケーキが今日もあるわ。……って、そんな事気にしてどうするのよ。昨日は、たまたまこの部屋に来ただけよ。
 それにせっかくの一人の時間を邪魔されたくないし。

「それでは、セシリアお嬢様、失礼致します」

 侍女が部屋を出ていくと、セシリアはいつものように本を開いた。

 目は文字を追っているが、内容が頭に入ってこない。ページを捲る時に不意に顔を上げてしまう。

「はあ……、何だか集中出来ないわ」

 そうセシリアが呟いた時だった。部屋の中が光に包まれ、昨日の少年が現れた。

「あ!昨日ぶり!」

 にこやかに言う少年にセシリアは眉を寄せた。

「どうしてまた来たの?」

 そう問われた少年は、顎に手を置いて首を傾げる。

「どうしてなんだろう?師匠の所に戻るつもりが、何故かここに転移しちゃうんだよなぁ」

 そして少年は、テーブルにあるお菓子を見て、ゴクリと喉を鳴らした。

「もしかして、またお腹が空いているの?」

「あ、分かっちゃった?」

 セシリアはため息を吐くと「どうぞ」と少年に向けて言った。
 少年はパッと嬉しそうな顔をすると「いただきまーす」と言って昨日と同じケーキから口に運んだ。

 少年の名前はケヴィと言って、魔術師の見習いらしい。
 歳は私より下だと思ったら同じ15歳だった。

 もぐもぐとお菓子を美味しそうに食べるケヴィに、私は本を読むのも忘れてその様子を見ていた。

「どうして私の部屋へ転移してくるの?」

「いや、わざとじゃないよ?まだ、俺見習いだからさー。転移術も昨日初めて教えてもらって、だから上手く思った所に転移出来ないんだと思う」

「そうなの」

 じゃあ、彼の魔術が上達すれば、この部屋に来る事はなくなるのね。

「やあ、お腹いっぱい!」

 気付けば、ケヴィはテーブルの上のお菓子とお茶を全部食べ終えていた。

 昨日もだけど、食べるの早いわね。

「それじゃ、昨日も今日もありがとう!またね!」

 そう言ってケヴィは空中に光る文字を書くとそれを握って「転移」と言ってパッと消えてしまった。

 さっきまで騒がしかった室内が急に静寂に包まれて、やはりセシリアの心臓はドクドクと鳴っていた。


 ◇


 そして、ケヴィはその次の日もその次の日もセシリアの元へやって来た。
 そして、お茶とお菓子を食べて帰っていくのだ。


「セシリア、最近読書の時間にお菓子をたくさん食べてるんですって?美味しいのは分かるけど、程々にしないと太ってしまうわよ」

 朝食の時に、珍しくお母様に注意されてしまった。

「ハハ。大丈夫だよ。セシリアは、君に似てとっても可愛いからね。少しぐらい太ったって何の問題ないよ」

 とお父様はニコニコしてお母様の頬に手を添える。

「まあ、あなたったら」

 とお母様が言うと、お決まりのイチャイチャが始まった。

「そういうの俺らの前では控えてくれって言ってるだろ?」

 それに兄のアンドレが呆れ顔で言って、セシリアを見た。

「セシリアだって、朝から親のイチャつく所なんて見たくないよな?」

「お父様とお母様が仲が良い事は、悪い事ではないので、私は気にしてませんよ」

 そう言って、セシリアは表情を崩すことなく黙々と食事を続けるので、アンドレも居心地悪そうに食事を続けた。


 ◇


「はあ、毎日こんなに美味しいお菓子をご馳走になって悪いなあ」 

 ケヴィはケーキを頬張りながら言った。
 今日も読書中の私の部屋へやって来たケヴィは、いつものようにお菓子を食べていた。

 お母様にはああ言われたけれど、ケヴィのお腹が満たされなくて、魔術が使えないと困るものね。

 とセシリアは、侍女にいつもの所にお菓子の用意を頼んでいたのだった。

「構わないわよ。どうせ、私が食べないと処分してしまうから、無駄がなくていいわ。所で貴方は未だに私の所に転移して来るけれど、魔術の勉強は進んてるの?」

「いやあ、これがなかなか難しくて」

 とケヴィは頭をかいた。
 魔術の事は魔力を持たない私には、分からないけれど、このルドスタ王国の魔術師は、皆、国の機関に属する事が決まっている程、貴重な存在であり、誰もが魔術師になれるわけでもないのだ。だから、魔術の修行というのはきっととても大変なのだろう。

 モグモグとお菓子を食べるケヴィからは、そんな感じは一切しないけど……。

 でも、転移の魔術を使う時はいつもドキドキしてしまうのよね。空中で光る文字もケヴィが一瞬にして消え去ってしまう事も、何度見てもドキドキするわ。

 あれから、セシリアの読む本は専ら魔術師が出てくる物語だった。

 私……、実は魔術に興味があったのかしら……?

「ね、ねえ、他にはどこに間違えて転移してしまったの?」

「いや、間違えて転移するのはセシリアの所だけだよ」

「え?どういう事?」

「うーん?なんか、師匠が言うには、転移魔術が安定しない内は、術者と結び付きが強い所に転移してしまうことがあるんだって」

 結び付き?

 その言葉にドクンと心臓が大きく鳴った。

「私とあなたの間に……どんな結び付きがあるっていうの?」

 ドクドクと何故か速くなる心臓を押さえて、ケヴィに訪ねた。

「師匠が言うにはー、やっぱり、親、兄弟の所が多いって言ってた」

「……え?親、兄弟?」

 さっきまで高鳴っていた心臓は、正常に戻っていた。

「そう!もしかして、俺とセシリアって兄妹だったりして!?親父さん、他に子供がいるような事、言ってなかった!?」

 と興味津々で聞くケヴィに、セシリアはいつもの無表情で答えた。

「……確認してみるわ」



 それから、その日の夕食に、私はお父様に私達以外に子供が居ないのか聞いてみた。

「お父様、私達の他に外に子供が居るのですか?」

「は!?え!?セ、セシリア、それはどういう意味だ!?」

 私の発言にお父様は、大いに動揺していた。

「え!?何!?それは、どういう事なの!?」

 とお母様がお父様を問い詰める。

「ええー?勘弁してくれよ」

 とお兄様は呆れて言った。

「いや、待て待て!そんなわけないだろ!?セシリア何故、急にそんな事をいうんだ!?」

 お父様は涙目で私に訴えて来た。

 確かに、愛妻家のお父様がそんな事するとは考え辛いわ。

「ごめんなさい。ちょっと確認してみただけですわ」

 では、お父様でないとすると……

「では、お兄様は?身に覚えはございませんか?」

 急に、今度は自分に振られた事にお兄様も激しく動揺する。

「は!?俺!?ある分け……ない、よな?」

 まさか、お兄様?
 あ、でも歳的にそれはあり得ないか。18歳のお兄様に15歳の子供はあり得ないわ。

「二人ともごめんなさい。どうやら、私の勘違い……」

 そう謝ったセシリアの言葉は母の怒りの籠もった言葉にかき消された。

「あなた達、食事が終わったらお話がありますわ」

 お母様は怖い顔でお父様とお兄様に言ったのだった――

    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

処理中です...