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しおりを挟む「あら、マカロッカ公爵子息、ご機嫌よう」
エリーナが挨拶すると、それに合わせてアランとローレンも頭を下げる。
「これは、これはエリーナ公爵令嬢にローレン侯爵令嬢、それに皇太子殿下の護衛をしているはずのアラン侯爵子息ではありませんか」
「ルドルフ皇太子殿下より、エリーナ公爵令嬢を休憩室へご案内している途中でございます」
先程の砕けた笑顔は、うってかわって、アランはクールにそう答えた。
「そうですか。……おや、エリーナ嬢は、顔色がよろしくありませんね。早く休憩室へ行かれた方がいいでしょう」
普段関わりがないのにジェフ公爵子息に指摘される程、私の顔色って悪いのかしら……。
それよりも、お忙しいのかなかなか学園でも会えないジェフ公爵子息に、転生者についてのお話を聞きたいけれど……。
エリーナは、アランとローレンのいる方をチラリと見た。
流石にここでは聞かない方が良さそうね。
「お気遣いありがとうございます。なかなか、学園ではお会いできませんが、またよろしければティータイムでもご一緒いたしましょう」
エリーナの誘いにジェフは微笑むと
「エリーナ公爵令嬢にお誘い頂き、光栄です」
と言って、エリーナの手を取ると手の甲に口付けた。
ジェフと別れて、休憩室の扉の前に着くと、ここまで送ってくれたアランが何か悩んでいるのか「うーん」と表情を百面相にした後、言った。
「エリーナ様、私が言う事ではないのですが、これはルドルフの兄弟子としての助言というか……、実はルドルフはジェフ・マカロッカ公爵子息を警戒しています。何故かは話してくれないが、以前から、彼の動向をかなり注視しているようです。ですから、あまり仲良くされるのは……」
「まあ、そうだったの!?」
ルドルフから、ジェフ公爵子息について特別なにかを言われた事がなかったから、エリーナは驚いた。
だって、今までだって二人が会った時に居合わせた時もあるけれど、そんな素振りは一切なかったもの。
ティータイムに誘ってしまったのは、良くなかったかもしれないわね……。うーん。でも彼にも話しを聞いてみたいという気持ちもあるし……。
休憩室に入ったエリーナは、先程のアランの話に頭を悩ませていた。
痛っ……。また、頭痛がしてきたわ……。
エリーナが、こめかみを押さえると、ローレンが心配そうにする。
「エリーナ様、頭痛ですか?少し、横になられてはいかがでしょう?」
「ええ、そうね……。少し横になるわ」
ソファの肘掛けにもたれると、エリーナは目を瞑った――
◇
あら……また、私、夢を見ている。痛い、熱い、苦しい夢……――
焼け焦げる匂いや、炎の熱さ、自身の胸を刺す短剣の痛み……、そのどれもがエリーナが覚えているものであった。
死の間際……息苦しく身体が鉛のように重くなっていて、自分の意思では到底動かせない。エリーナは、なんとか虚ろな瞳を開くとそこには私を抱きかかえている人の顔が朧気ながら確認できる。
赤い瞳……に銀色の髪……ああ、この顔を私は知っている。アヴィリアス帝国の皇子ルヴェルフ……
「エヴェリーナ姫……」
と言ってその後なにか言っているが、その声は私には届かない――
エヴェリーナ……。そうだ。私はリザハ王国の姫エヴェリーナだ。では、ここはリザハ王国の城?では、なぜこの人はここにいるの?どうして城が燃えているの?どうして、私の胸には短剣が刺さっているの……?
知っているはずの事が思い出せない。
ただ……自身の胸に刺さる短剣の柄にアヴィリアス帝国の紋章がある事だけは分かる……――
◇
ハッと目が覚めた――
そこは、眠る前にいた王宮の舞踏会の休憩室。
「あ!エリーナ様、目が覚めたのですね!良かった」
ローレンが、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「横になったと思ったら、真っ青になってしまって声を掛けても目を覚まされないので、心配しました。今、ルドルフ皇太子殿下を呼んでおりますから、すぐにいらっしゃると思います」
説明するローレンの話が耳をすり抜けていく。
ドクンドクンと心臓が緊張するように大きく鳴っていた。
私の前世はエヴェリーナ・リザハ。500年前にアヴィリアス帝国によって消滅したリザハ王国の姫……――
「あ、あの……エリーナ様、どうされましたか?」
ローレンに聞かれて冷静さを失っていたエリーナは、呟くように思わず答えてしまった。
「私……転生者だったわ……」
「……え?」
ローレンの驚きの声と共に、休憩室の扉が勢いよく開く。
「エリーナ!エリーナは、無事か!?」
現れたのは血相を変えて駆けつけたルドルフであった。
ルドルフを見た瞬間、エリーナは動揺して座っていたソファから、落ちそうになる。そこを、近くにいたローレンが支えてくれ、事なきを得た。
「ああ、エリーナ。目が覚めたんだね。良かった。すぐに医者も到着するから、安心……」「で、出ていって!」
ソファに近付こうとするルドルフにエリーナは、思わずそう口から出ていた。
ルドルフは、困惑した顔で立ち止まる。
「どうしたんだ?エリーナ」
エリーナは、混乱していた。ルドルフの前世がルヴェルフ皇子だと気付いてしまったからだ。
今、ルドルフと冷静に話なんて出来ない!
だって……死ぬ間際に最後に見た顔。自身の胸にはアヴィリアス帝国の短剣……
――――あなたが前世で私を殺したんでしょう?
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