上 下
11 / 18

11

しおりを挟む
 俺は剣の名家ホーテミー侯爵家の嫡男アラン。
 アヴィリアス帝国の帝国騎士団の団長であるアヴェル侯爵は俺の父親だ。

「はっ!やあっ!」

 10歳の時、練習用の木製の剣を振っていると、親父が男の子を連れてやってきた。それがルドルフ皇太子殿下だった。

「今日から一緒に訓練するから」

「えー」

「嫌な顔するな!」

 せっかく親父に一対一で教われる時間だったのに……

 最初は忙しい親父との二人だけの訓練の時間を邪魔されたと思って、練習相手も真面目にやらなかった。
 それでも……

「アラン!剣の相手してくれよ」

 と屈託なく笑うルドルフに俺も意地を張ってるのが馬鹿らしくなって

「よーし!じゃあ次は本気で行くからな!」

 と可愛い弟が出来た気分でいた。
 ヤンチャな性格のルドルフと一緒に城下町へ遊びに行ったのも一度や二度ではない。
 それで、見つかると俺だけが滅茶苦茶怒られるんだけどな。
 後継者教育だって、頑張ってはいたが、どこか真剣味は足りなかったように見えた。
 それが、エリーナ様に出会って変わったんだ。

 俺が16歳、ルドルフが13歳の時だった。皇后様がルドルフと同じ年頃の子を持つ親子を集めて主催したお茶会で、ルドルフとエリーナ様は、初めて会った。
 その時、初めてエリーナ様と顔を合わせた時のルドルフの驚いた顔は、今でも忘れられない。

 緊張した顔して固まったまま、エリーナ様を穴が開くほど見つめていた。
「ルドルフ皇太子殿下、お会い出来て光栄でございます」と言ってエリーナ様が微笑んだ瞬間、ルドルフの顔が真っ赤になったのには、見てるこちらが照れるほどだった。

 元々、親同士ではルドルフとエリーナ様の婚約の話が進んでいて、このお茶会は、顔合わせの意味もあったようだ。だから、このお茶会の後、二人は正式に婚約を結んだ。

 だけど、お茶会ではルドルフのやつ挨拶以外全然、エリーナ様と話そうとしなくて、遠くからずっと見ているだけだったんだよ。

「なんで、話しかけに行かないんだ?気になってるんだろ?」

「でも……せっかく前の事は忘れてるのに、近付いて思い出したらと思うと怖くて……」

 それは、見た事もない程、不安そうなルドルフの表情だった。

「ん?前に会った事あるのか?」

 するとハッとしたようにルドルフは、いつものヤンチャな顔になると

「そんなわけ無いだろ?今日、初めて会ったんだ」

 と言い繕った。
 その時は、前に格好悪い所でも見られて隠してるのかと思ったけれど……――

 それだけじゃない。その後から、ルドルフが急に大人びたように感じた。言葉遣いや、使用人への態度、もちろん後継者教育に至ってもいつ勉強したのかと驚く程の知識を身につけていた。そして、ルドルフの剣の相手をした時、初めて手加減なしで、負けたんだ。人が変わったのかと思う程の上手さに驚きと少しの違和感を覚えていた。
 しかし、それ程エリーナ様との出会いが、ルドルフを変えたんだと思っていた。

 でも……これはそんな単純な話じゃないのかもしれない。

 ルドルフ、お前は何を隠しているんだ――
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:7,667

【R18】一度目の別れはあなたから、二度目の別れは私から

恋愛 / 完結 24h.ポイント:908pt お気に入り:409

魔女のなりそこない。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,239pt お気に入り:761

【完結】私だけが知らない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:2,359

(完結)婚約解消は当然でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,993pt お気に入り:2,559

処理中です...