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 王宮、皇太子の執務室――

「うわっ!何だ、この雰囲気は!?」

 エリーナの兄クレマス・ヴィルターが執務室に入ると、どんよりとした暗い空気が漂っていた。

 ルドルフは、部屋のソファの背もたれに身体全体をもたれ掛けて、絶望した顔で天井を向いていて、アランは、立った姿勢で身体の右側が壁に寄りかかり、一点を見つめて微動だにしない。
 ルドルフとアランが目に見えて落ち込んでいた。

「はぁ……、毎日手紙と花を送ってるのに一度も返事が来ない……」

 上を向いてそう呟くルドルフ。

「婚約、破棄……」

 と呟くとツーと涙を流すアラン。

「ああ!もう、お前らジメジメしすぎだ!!」

 とクレマスが一喝した。

「ルドルフ殿下!妹はまだ手紙を書く気にはなれないようです。毎日の手紙と花束も負担になっているようなので、自粛されては?」
 と言った後
「毎度渡すたびに泣きそうな顔をされるこっちの身にもなってくれ」
 と小さくため息混じりに言われて、ルドルフが更に落ち込む。

「アラン!相手が転生者だったのなら仕方がないだろう?結婚する前で良かったじゃないか。新婚早々、仮面夫婦なんて最悪じゃないか」

 アランの目からは涙が溢れ出した。

 そんな二人の様子にクレマスの顔は、明らかに引引いていた。だが、すぐに咳払いをして真面目な顔になると

「とにかく、ルドルフ殿下……この書類の山を早く何とかしてくださいよ!!」

 クレマスは、執務室の机に積まれた書類の山を指差して叫んだ。
 この一週間、ルドルフはまともに仕事をしていなかったので、仕事が貯まりに溜まっているのだ。

「全く、エリーナに全然殿下が仕事していないってバラしますよ!」

「そ、それは駄目だ。エリーナに呆れられてしまう」

 ルドルフは、急いで書類を書き始めた。

「はぁ、エリーナも殿下の事を避けて、歴史書ばかり読み漁って、一体何を考えているのやら……」

 クレマスは、独り言のつもりでそう呟いくと、広がっている書類の整理を始める。
 それと同時にルドルフのペンの字が滲み、ポツリと呟いた。

「やはり思い出してしまったんだ……」


 その呟きに気付いたのは、アランだけであった。
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