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しおりを挟む舞踏会から1週間が経ったが、エリーナは、体調不良を理由に貴族学園を休んでいた。
部屋にはたくさんの歴史書が積まれていて、エリーナは様々な歴史書をこの一週間読み込んでいた。
ルドルフからの心配の手紙とお見舞いの花束をエリーナの兄であり、ルドルフの執務補佐官であるクレマスが毎日託されてくるのだが、エリーナはまだ返事を書く気にはなれないでいた。
『エリーナ、体調はどうだい?良ければ、皇族の専属医に診てもらうのはどうだろうか?
返事をくれると嬉しい
早くエリーナが元気になる事を願っているよ
愛しいエリーナへ ルドルフより』
エリーナが、ルドルフの手紙を力なく机に置いて、ため息を吐いた。
私とルドルフの関係は、思ったよりも因縁深いものだった……。
500年前のリザハ王国とスマラ王国の争いを終わらせたのは、他でもないルヴェルフ皇子だ。これは、歴史として確かな事実である。
私が学んだ歴史学でも、歴史書にもルヴェルフ皇子は、両国を制圧する事を皇帝に命じられその指揮を執ると、弟のエリアス皇子をスマラ王国へ自身はリザハ王国へと軍を率いて進軍し、勝利した事が記されている。
そして、古い歴史書に記された記述には、リザハ王国に進軍したルヴェルフ皇子は、リザハ王国軍に苦戦しながらも、軍を進め、ついにはリザハ城へと進んだ。
そして、追い詰められたリザハ国王が城に火を放ち、多くの犠牲者を出した。その中には、逃げ遅れたリザハ王国のエヴェリーナ姫もいたと記されていた……。
私は火事で死んだ事になっているけれど、本当は殺されたのだ。ルヴェルフ皇子に……。
確かに、歴史書を読めば、当時のリザハ王国とスマラ王国の争いがいかに国民達を苦しめ、その終結と共に、両王族は皆死を迎えている。当時の事を思えば、リザハ王国の姫であった私が殺されたのは、仕方のない事だ。ルヴェルフ皇子がした事を咎める事など出来ない。でも……。
分かっていても、割り切れない気持ちがエリーナを苦しめていた。
どうして私を殺したのが貴方なの……?
あなたは、私が皆を苦しめた王族の生まれ変わりだと分かってしまったら、今まで通り私に接してくれる?今は、愛しいだなんて言ってくれているけれど、真実を知ってしまっても本当にその気持ちは変わらない?
怖い……。あなたに会うのが……。あの赤い瞳で見られるのが怖い……――
エリーナがギュウっと自身を抱き締めると、自室の扉がノックされた。
「エリーナお嬢様、ローレン侯爵令嬢様……とルアナ伯爵令嬢様、ケーリー伯爵令嬢様、ミラー伯爵令嬢様がお越しです」
あら、ローレンだけかと思ったら、皆さんで来たのね……。
どうしよう……と少し悩んだエリーナだったが、ここ数日部屋に籠もって本ばかり読んでいたので、少し気分を変える為にも「すぐに行くわ」と返事をするとエリーナは、応接室へと向かった。
「エリーナ様、大勢でおしかけてしまい、申し訳ございません」
応接室に行くと、ローレンが申し訳なさそうにしていた。ローレンが、一人来るつもりであった事は手紙をもらっていて分かっていたので、大方、他の令嬢に押し切られてしまったのだろう。
「いいのよ。皆さん、来てくれて嬉しいわ」
するとルアナが心配そうに言う。
「私達もエリーナ様の事をとても心配しておりましたの。ローレン様がお見舞いに行かれると聞いて、いてもたってもいられなくて……」
すると、続けてケーリーとミラーも次々に話し出す。
「そうです!エリーナ様がいらっしゃらないと学園に華がなくて、なんだか寂しくて……」
「エリーナ様がおられないと淑女クラスに活気がありませんわ。ですから早くお元気になって下さい」
「フフッ。皆さんありがとう」
「ルドルフ皇太子殿下もエリーナ様がいらっしゃらないから、元気がないんですよ」
ルアナが言うと、ローレンが少しハラハラとした顔でこちらを見ていた。私は、そんなローレンに眉を下げて少し微笑むと
「……毎日、お花とお手紙を送って下さるわ」
と他の令嬢に向けてニコリと微笑んだ。
「まあ、そうですか。さすが、ルドルフ皇太子殿下ですわ!」
「やはり、お二人は理想のカップルですわね!」
とケーリーとミラーが浮かれる。すると、コホンと一つ咳払いしたルアナが少し頬を染めて、話し出した。
「ところで……、私、皆さんにご報告がありますの。ついにアラン侯爵子息と婚約破棄をする事になりました!」
ルアナは、パッと満面の笑みを浮かべて、なんとも嬉しそうに言った。
「まあ!本当!?」「では、ビカビリー伯爵と結婚なさるの?」
「ええ。近々、ビカビリー伯爵と婚約の手続きをして、公表するつもりよ!」
浮かれるルアナに恋バナが好きなケーリーとミラーが盛り上がる。
そうか……。ルアナ嬢とアラン……、婚約破棄してしまうのね……。
私は……どうしたらいいのかしら……。
あれだけ転生者となったって、関係ないと思っていたのに……――
浮かない顔のエリーナをローレンが心配そうに見つめていた。
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