【完結】名門伯爵令嬢の密かな趣味〜公爵令息と趣味友になりました〜

花見 有

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第6話 噂の二人

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 そして、舞踏会の日――

 えーと、エドワルド様は……。まだ来てないのかな?
 会場に入ったシルヴィアは、キョロキョロと周りを見回してエドワルドの姿を探していた。

 それにしても、なんだか妙ね。
 いつもなら会場に来た途端、私に声をかけてくる男性達が今日はなぜか遠巻きにこちらを見ているだけで声をかけてこない。それに女性からの視線も厳しいような?

 どうしたのかしら?まあ、動きやすくて助かるけど。

 キョロキョロと周りを見渡していると、エドワルドを見つけたシルヴィアは嬉しそうに近付いた。

「エドワルド様!」
「やあ。シルヴィア嬢」

 エドワルドは右手を胸に当てて礼をし、シルヴィアはスカートを持って膝を屈めて礼をする。そして、顔を上げた二人の視線が合うと「フフッ」「ハハッ」と二人は可笑しそうに笑った。

「なんだか、こうやって改まって挨拶するのは変な感じですね」
「ああ、改めてこういった場で会うとなんだか照れるな」
 エドワルドは少し照れくさそうに頭をかくと、シルヴィアから視線を逸らした。

 そんな様子を見ていた周りは、ざわついていた。

「やっぱりあの二人って……」
「だってこの間の舞踏会で二人でバルコニーに」
「あんなお二人の表情、今まで見たことないわ」

 エドワルドは、周りの人々の反応が妙な事にが気付き、首を傾げる。

「なんだか周りが騒がしいな」

「エドワルド様もそう思いましたか?何だか今日は、皆さん変ですよね。私もさっきから違和感があって……」
 とシルヴィアも周りを見渡す。

「俺達、凄く見られてないか?」
「ええ、なぜでしょう。場所を変えて話した方がいいでしょうか?」
「いや、今シルヴィア嬢を連れ出したら、凄く不味い事になる気がするんだが……」
 多方面からビシバシ感じる視線。それは、嫉妬や羨望、興味など様々だ。

「やあ、楽しんでるか?」

 そこへやって来たのはこの国の王子ユディス・タドリーンだった。

 シルヴィアが即座にカーテシーをして挨拶しようとすると、ユディスがそれを手で制した。

「ああ、なんだか周りの視線を凄く感じるんだが」
 王子の従兄弟であるエドワルドは気軽にユディスと話し始めた。

「ハハッ。お前本当に分からないのか?みんなお前ら二人の様子を伺ってるんだよ」
「え?どうしてだ?」
「前の舞踏会の時に、プレーヘム伯爵の令嬢を攫って行ったらしいじゃないか。みんな噂してるぞ」
「さ!?そんな事はしていないぞ」

 エドワルドの意見にシルヴィアもコクコクと必死に頷いた。
 ユディスは否定するエドワルドの肩に手を乗せて、顔を近付けた。

「ふーん。俺は、周りにいた令嬢を振り払って、挨拶もそこそこにバルコニーに連れ去ったと聞いたぞ」

 ユディスは、横目でエドワルドを面白そうに見た。

「な!?違う!それはシルヴィア嬢に話があったからで……」

 焦って否定するエドワルドをユディスが面白そうにニヤニヤと見ている。

「あー……くそ……。確にあの時は、彼女しか見えてなかったか……。気を付けてたのに」

 エドワルドは、頬を赤くして悔しそうに頭をかいた。

「ハハッ。ほらな。」

「なんで、噂になってるって黙ってたんだよ。知っていれば、シルヴィア嬢に気軽に声を掛けなかったのに」

 エドワルドが恨めしそうに王子を見た。

「そんなの、面白そうだからに決まってるだろ?」

「お前はすぐそうやって人をからかって。俺だけなら良いけど、彼女にも迷惑が掛かってるじゃないか」

 エドワルドとユディスの話に入っていけないシルヴィアは、二人の応酬を静かに聞いていた。

「まあまあ、それでこちらがエドワルドを射止めた令嬢だって」

 王子の視線が突如シルヴィアに向けられて、シルヴィアは、緊張した。

「は、はい!プレーヘム伯爵の娘シルヴィアでございます。本日は、殿下にお目にかかれて大変光栄にございます」

 あ……、射止めたってとこ、否定しそびれた。

「あ、あの」「シルヴィア嬢は、友人だ!変な誤解をするな。彼女に失礼だろ!」

 私の言葉を遮ってエドワルド様が否定してくださいました。

「お前、こんな場で全否定したら、シルヴィア嬢の立場がないだろ?お前の事好きかもしれないのに」

 とユディスはククッと含み笑いをしてシルヴィアを見てきた。

「いいえ、エドワルド様の事はご友人としての好意のみですので、お気遣いは無用でございます」

 シルヴィアが答えるとユディスは顔を綻ばせて
「ハハハハッ。君、面白いね」
 と笑い始めた。

 殿下は意外と親しみやすいお方なんですね。

 エドワルドに「笑い過ぎだ」と嗜められながらも、ひとしきり大笑いしたユディスは、目に溜まった涙を拭くとスッとシルヴィアの前に手を差し出した。

「シルヴィア嬢、私と踊ろう」

「え……」

 シルヴィアは、驚いて一瞬固まってしまったが、殿下の誘いを断る理由もない為、私はその手を取った。

「え!?なに、どういう事!?」
「殿下がダンスを!?」

 会場はさらにざわつき出した。シルヴィアはユディスのエスコートを受けてホールの中央へと移動する。

 エドワルドはそんな二人を複雑そうな顔で見ていた――
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