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第12話 恋してるんです
しおりを挟む今日は、エドワルドとシルヴィアが婚約して初めての舞踏会――
「お待たせ致しました。お嬢様の支度が整いました」
いつもとは違い、エドワルドがプレーヘム伯爵邸にシルヴィアを迎えに来て、一緒に会場へ向かうのだ。
階段を降りて、一階で待つエドワルドの前に姿を現したシルヴィアは、青いドレスに身を包み、首元と耳には、エドワルドがプレゼントしたネックレスとイヤリングが光っていた。
「お待たせ致しました。それから、プレゼントありがとうございます。この間はお会いできず、お礼が遅くなり申し訳ございません」
「体調が悪いと聞いたから、心配していたよ」
「も、申し訳ございません。もうすっかり良くなりましたので」
シルヴィアは、エドワルドを直視できず視線を逸らす。
「それは、良かった。ドレスもアクセサリーもよく似合っていて、とても綺麗だ」
そういうエドワルド様もタキシードがお似合いで、とっても格好良いです。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
シルヴィアは、エドワルドにエスコートされて、馬車に乗り込んだ。
会場につく前に、この間寝てしまった事を謝らないと。
シルヴィアが話すタイミングを伺っているとエドワルドの方が先に話し始めた。
「シルヴィア嬢、すまなかった」
「え?どうしてエドワルド様が謝るんですか?」
謝らなければいけないのは私のはず……。
「最近、焦り過ぎて、距離を急速に縮めすぎたと反省したんだ。まさか、泣かせてしまうとは……」
エドワルドは、申し訳なさそうな顔で頭をかいた。
「それと……、ちゃんと自分の気持ちを伝えていないのもフェアじゃない気がして……」
シルヴィアはドキッとして瞳を彷徨わせる。
そんな、シルヴィアの様子にエドワルドは、自分の気持ちが既にシルヴィアにバレている事を悟った。
「もう気付いていると思うけど、俺はシルヴィア嬢が好きだよ。だから、友達のままではいられない。ごめんな」
その言葉に、シルヴィアの心臓はドクンドクンと早鳴る。顔を真っ赤にして、震える手で口元を抑えた。
恥ずかしい……、緊張する……
今まで知らなかった感情に押しつぶされそうになり、シルヴィアは下を向いた。
駄目よ。エドワルド様はちゃんと言葉にして下さったんだから、私も答えなきゃ……。
そこでシルヴィアの目に入ったのは、エドワルドの手だった――
優しく温かいエドワルド様の手……
「すまない。また、シルヴィア嬢を困らせてしまったな。今のは、忘れてくれて構わないから、シルヴィア嬢は気負わず、俺の事は今まで通り友達と思ってくれれば……」「ち、違うんです!」
顔を上げたシルヴィアは、真っ赤になって涙目にだった。
「あの……、私……、ずっとエドワルド様が近くにいると恥ずかしくて、緊張してしまって……、エドワルド様の事ばかり考えてしまうし、それも恥ずかしくて……。でも、恥ずかしいとか、緊張するとかそういうのを取り除いた時に、思うのは……ずっとエドワルド様と一緒にいたいっていう気持ちで……」
そこで、シルヴィアの目から涙がポロリと落ちた。
「私……エドワルド様に恋してるんです……」
ポロポロと涙が流れるシルヴィアを、エドワルドが力強く抱きしめた。
「シルヴィア嬢……」
「エ、エドワルド様……」
「好きだよ……」
耳元でエドワルドが囁く。
「わ、私も……」
答えるとシルヴィアは、更に大粒の涙を流して、エドワルドにしがみついた。そんなシルヴィアをエドワルドは、強く強く抱きしめたのだった――
◇
舞踏会の控室――
馬車の中で大泣きしてしまったシルヴィアを、会場に付いてすぐにエドワルドが控室へ連れて行った。
「今、侍女を呼んだから、メイクを直してもらうといいよ」
「は、はい。すみません。来て早々ご迷惑を……」
すると、エドワルドはシルヴィアの隣に座ってシルヴィアの頬を両手で軽く挟んだ。
「何言ってるんだ。迷惑なんて事は一つもない」
シルヴィアが赤い顔でエドワルドを見つめると、エドワルドの碧い瞳と視線が交わる。
いつ見ても綺麗な瞳……
いつものようにエドワルドの瞳に魅入っていると、それが、段々と近付いてくる。
そして、もう少しで唇が触れそうな所で、エドワルドが止まった。
「ずっと見つめていてくれるのか?」
「私、エドワルド様の碧い瞳……好きです」
「フッ、そうか」
エドワルドは、笑みを浮かべるとそのままシルヴィアに口付けた。その後、シルヴィアはゆっくりと瞳を閉じて、エドワルドの背中に腕を回したのだった――
◇
メイクを直し、シルヴィアの準備ができると、エドワルドとシルヴィアは、舞踏会のホールへとやって来た。
二人が婚約をした事は、既に大きな噂となっており、二人の登場に会場のざわめきが一層大きくなる。
「やあ、噂のお二人さん」
そこにユディス王子がやって来た。
「婚約したんだってね」
とエドワルドの肩を叩くと、シルヴィアの方を見て、微笑んだ。
「おめでとう。シルヴィア嬢」
「ありがとうございます!」
「あーあ、本当は、私の婚約者にしたかったのに、エドワルドに取られちゃったなあ」
とユディスが残念そうに首を振る。
「へ!?」
これは、冗談なの!?本気なの!?
「おい!彼女を困らせるなと言っただろ!?」
エドワルドがシルヴィアの前に立ち、ユディスの視界から遮った。
「なんだよ。冗談だろ?嫉妬深い奴だな。束縛の強い男は嫌われるぞ」
「俺は、危険な奴から彼女を守っているだけだ」
またもエドワルドとユディスの応酬を静かに聞いていたシルヴィアに、ユディスがエドワルドの横から顔を出して聞いてきた。
「こんな嫉妬深い男のどこがいいんだ?」
シルヴィアは、首を横にかしげて少し考えた後、答えた。
「嫉妬深いのかどうかは、私にはよく分かりませんが、エドワルド様は、優しくて、誠実で、格好良くて……何より趣味が同じ所が良いですわ!」
「へえ、お前に趣味なんてあったのか?どんな趣味なんだ?」
とユディスが面白そうにエドワルドを見た。
「な、なんだって良いだろ!」
とエドワルドが頬を赤くしてそっぽを向くので、ユディスは、シルヴィアの方を向いた。
「二人の趣味ってなんだ?」
するとシルヴィアは、ニッコリと笑って答えた。
「それは、殿下にもお教えできません!私達二人の秘密ですから!」
それを聞いたユディスは、またアハハハと陽気に笑い始めた。
「やはり、シルヴィア嬢は面白いな」
そして、シルヴィアの前に手を差し出す。
「踊ろうか」
しかし、シルヴィアは首を横に振ると深いカーテシーをした。
「殿下、申し訳ございません。本日は先約がございます」
そして、顔を上げるとシルヴィアはエドワルドを見つめた。
エドワルドは嬉しそうに微笑むと、シルヴィアの前に手を差し出す。
「シルヴィア嬢、私と踊って頂けますか?」
エドワルドの誘いにシルヴィアも嬉しそうに微笑んだ。そして
「ええ喜んで」
と言ってその手を取ると、二人は見つめ合って幸せそうにホールへと向かったのだった――
音楽が始まり、二人は初めてのダンスを楽しそうに踊り始めた。すると、シルヴィアは顔を上げて、エドワルドの碧い瞳を見つめて微笑む。
「どうした?」
「エドワルド様。私……、よく考えたら、ずっとエドワルド様の事、意識してました」
「え!?」
エドワルドの頬がほんのり赤くなる。
「いつも私と同じで異性に囲まれてるなって思って仲間意識を持ってました」
あ、そっちか……。
とエドワルドが少し落胆する。
「だから……、エドワルド様もミリアーム先生の本を読むんだって知った時、どうしても友達になりたいって思って勇気を出したんです。私、どこかでずっとエドワルド様と仲良くなりたかったんだと思います」
エドワルドは、ニコリと笑ってシルヴィアをクルリと回すと、再び腰を抱いて言った。
「俺は、ずっと友達になりたいって言われた時のシルヴィア嬢が、頭から離れなかったよ。凄く綺麗で力強くて、それでいて儚い夢のようだった。思えばあの時、俺はシルヴィア嬢に堕ちたんだろう」
「フフッ。エドワルド様、リリック先生のヒーローみたいな事言ってます」
「え?そうかな?」
とエドワルドが照れ笑いすると、シルヴィアも釣られて照れくさそうに微笑む。
そんな幸せそうな二人の様子は、会場中の皆の心を温かくしていた――
そして、幸せそうにホールで踊る二人を見てユディスは「あーあ、本当に惜しい事しちゃったな」と呟いて、嬉しそうに微笑んだのだった――
fin
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