【完結】名門伯爵令嬢の密かな趣味〜公爵令息と趣味友になりました〜

花見 有

文字の大きさ
11 / 12

第11話 これが恋?

しおりを挟む
「お嬢様、お久しぶりです!」

 前と変わらず、微笑むシーアにシルヴィアは、思わず抱きつこうとして、思いとどまった。

「シーア、久しぶりね!子供も無事に生まれて、良かったわ。おめでとう」

「ありがとうございます。お嬢様もご婚約が決まったと聞きました。おめでとうございます」

 ニッコリと微笑んだシーアに、シルヴィアの瞳はウルウルと潤んで「シーア!助けてー」と言って泣き出したのだった――

 子供を寝かしつけたシーアは、シルヴィアの向かいに座ると、元気のない様子のシルヴィアを見つめた。

「シーア、ごめんなさいね。引き止めちゃって」

「いいえ、夫もゆっくり挨拶して来なさいと言っておりましたから、お気になさらないで下さい。それより、ご婚約が決まったと聞いておりましたが、お元気がないのはそれが原因ですか?やはり、好意を持てない相手との結婚は気が進みませんわよね」

 シーアは、兼ねてからシルヴィアが恋をしてみたいと思っていた事も知っていた。

「お相手は……フレシアム公爵のご令息エドワルド様ですよね?端正な顔立ちの真面目な殿方だと侍女の間でも人気の方でしたから、いいお相手と婚約されたとばかり思っておりましたが……。噂とは違い、酷いお方だったんですか?」

 シーアは、心配そうにシルヴィアを見つめた。

「ち、違うの!エドワルド様は、とっても優しい方よ!真面目だし、目が合うとついつい魅入ってしまうくらい魅力的な方なのよ!」

「まあ、そうなんですね!」

 シーアはシルヴィアの話を微笑んで聞いていた。

「それに、エドワルド様とは、婚約する前から友達だったの。エドワルド様も恋愛小説がお好きで、私からお友達になって欲しいってお願いしたのよ」

 シルヴィアが少し得意気に言うものだから、シーアはフフッと笑みを浮かべた。

「まあ、そうでしたか!では、どうしてそんなに困ってらっしゃるのですか?」

 さっきまで、意気揚々としていたシルヴィアは、少し視線を落とすと頬を染める。

「エドワルド様、婚約した途端に恋愛しようって言い出したり、距離も凄く近くなって、隣に座ったり、手を握ってきたり……。私、凄く恥ずかしいし、緊張するしでもうどうして良いか分からないの!!しかも小説を読むとヒーローの台詞がエドワルド様が言ってるみたいに聞こえてきちゃうし、一晩中エドワルド様の事が頭から離れなくて、寝不足になっちゃうし、そのせいでエドワルド様の前で寝ちゃったのよ!嫌われたかもしれない!!」

 シルヴィアの必死の訴えにシーアは、我慢できず、笑いをこぼした。

「フッフフフ。お嬢様、今のお嬢様、凄く可愛らしいです」

「……え?」

「頬を赤く染めて、一生懸命エドワルド様の事をお話になるお嬢様は、とっても可愛らしいですわ」

 シーアは、ニッコリと微笑むとシルヴィアを優しく見つめて言った。

「お嬢様、エドワルド様とお話したり、一緒にいるのが嫌だと思った事はありますか?」

「そんな事、思った事無いわ。あ、でも近くに来られると恥ずかしくて困るわ……」

 シルヴィアは、視線を逸して、恥ずかしそうに答えた。

「お嬢様、それはお嬢様がエドワルド様を意識されているからですわ」

「意識……?そういえば、エドワルド様が自分を意識して欲しいって言っていたわ」

「まあ。フフッ、では、エドワルド様はお嬢様を口説いている最中なんですね」

「え!?口説いてる?それは好きな人にする事でしょう?」

「ええ、そうですよ。小説でも主人公を好きになったヒーローが、優しくしたり、気に掛けたり、困っている時に助けてくれたりしますでしょう?あれは、全部、好きな女性に振り向いてもらう為ですよ。そうそう、今日、エドワルド様がいらして、お花と今度の舞踏会用のアクセサリーをプレゼントして下さったようですよ」

 すると、ブワッとシルヴィアの顔は真っ赤になる。
 気が付いてしまったのだ。エドワルドの気持ちに……。
 今までのエドワルドとの時間が、走馬灯のようにシルヴィアの頭を駆け巡る。

 待って、待って……。じゃあ、エドワルド様って、私の事!?

 ドクンドクンと心臓が早鳴る。
 エドワルドの気持ちが自分に向けられていると思うと嬉しくて気恥ずかしくて、ムズムズとした気持ちでいっぱいになる。そして、思い出すのは、一番シンプルな自分の気持ちに気付いた昨日の事――
「この人とずっとこうして一緒にいたい」という気持ち……。

 ああ……、今までこんな気持ちになった男性はいなかった……。

 シルヴィアは、真っ赤な顔を手で挟んで、呟いた。

「これが……恋?」

 シーアは、嬉しそうに微笑んで頷くと
「お嬢様、良かったですね」
 と優しく言ったのだった――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

王子と婚約するのは嫌なので、婚約者を探すために男装令嬢になりました

Blue
恋愛
 ガルヴァーニ侯爵家の末娘であるアンジェリーナは困った事になっていた。第二王子が一方的に婚約者になれと言ってきたのだ。バカな上に女癖もよろしくない。しかも自分より弱い男に嫁ぐなんて絶対に嫌なアンジェリーナ。第二王子との婚約が正式に決まってしまう前に、自分より強い素敵な人を探すために、色々な人の力を借りて彼女は強い者たちが集まる場所に探しに行くことにしたのだった。

ねーちゃんの愛読書の、『ザマァされる王子』に転生したんだが。

本見りん
恋愛
俺がねーちゃんに渡された数冊の本。……それが全ての始まりだった。 高校2年の初夏、俺は事故に遭った。……そして、目が覚めると……。 ねーちゃんの本のザマァされる王子に転生していた! 何故か本の内容の通り勝手に動く身体。……このままじゃ、俺は『ザマァ』されてしまう! ねーちゃん! どうすりゃいいんだ!?

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、推しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

魔王様は転生王女を溺愛したい

みおな
恋愛
 私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。  私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。 *****  タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。  よろしくお願いします。

処理中です...