私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

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【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅

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「本日はブロドー交通をご利用いただきまして誠にありがとうございます。当馬車はこれよりザラックへと向かいます。道中の道の状況や、天候で到着日程が遅れる場合がございますがご了承ください。それでは馬車の旅をお楽しみください」

御者さんのアナウンスの後、駅馬車が動き出した。

(あんまり揺れないね。これなら5日間余裕じゃね?)
『ここはまだ街の中ですよ。道も舗装されてますしスピードも出てませんよ』

ナビの言葉通りだった。
西門から出ると、馬車は少し速度を上げた。

その途端、先ほどよりもガタガタと振動が強くなった。

(おおおおう!結構揺れる)

車輪の振動が、座っている椅子に直に伝わってくる。
道は石の舗装路のせいか、車輪が小さい小石を踏みつける振動までくる。

私はたまらず、カバンからドーナツクッションを取り出して椅子に敷いた。
これでなんぼかマシになった…。

『今はまだ街に近いので道の状態は良いですが、この先は舗装されていない道になりますからもっと揺れますよ。下手に喋って舌噛まないように気を付けてくださいね』
(頑張る…)

ナビの言う通り、王都を出発して1時間ほど経った辺りから、道の状態が悪くなってきた。
ガッタンゴットン、揺れる揺れる。

窓が大きいから外眺められるわーとか思ってた自分を殴りたい。
これはそんな余裕全然ないわ…

しかも、外は真っ暗。
明かりの一つもございません。

(酔い止め飲んでおいて正解だった!!クッションも買っておいて良かった!!)

『受付の方に聞いておいて正解でしたね』
(ほんとにそれ。馬車なんて初めて乗ったけどこれは大変だわ…)

他の乗客を見やると、皆フツーに座っている。
そりゃそうか、これが当たり前なんだもんね…

「大丈夫ですか?」
正面に座っている護衛のリムさんが話しかけてきた。

「あ、はい。大丈夫でっす!!」
馬車の揺れのせいで言葉が変になる。

「もしかして貴女、馬車の旅初めて?」
「はい、馬車に乗るのが初めてで、こんなに揺れるものだとは思いませんでした…」

「あはは、そっかそっか!!でも、この馬車は他のより全然揺れないから、違う馬車に乗るときは気を付けてね」
「えっ…そうなんですか…」
まあ、運賃高いもん。他より快適だよね…
でも、他の馬車はもっと揺れるのか…マジか…

「ねえ、貴方名前は?結構若く見えるけど何歳なの?」
「えっと、名前はブロッサムで歳は19歳です…」

何か、自分の年齢を言うのに抵抗がある…
元々29だもん。若くしてくれたのはありがたいけど、本来年下の人たちから年下扱いされるのって物凄い違和感。

「マジで!若いね!!ザラックには何しに行くの?」
「えっと、職探しに…王都より人が多いと聞いたので」

「へぇー!若いね!!私もあなたと同じ歳の時に冒険者になってさ、ついこの間やっと銀の上級まで上がれたのよ!」
「それは凄いですね」
「でしょ!!まあ、女で冒険者になるって色々大変なんだけどさ、今のパーティーは最高に良いメンバーなんだ」

それからも、リムさんの冒険譚を聞いているとあっという間に一つ目の駅に着いた。


昼間であればここで止まる事は無いそうだが、今は大体夜の7時過ぎ。
という事で、今夜の夕食はこの駅に併設されている休憩所で食べるらしい。

「じゃあまた夕食後にね!」

他の冒険者と食べるらしく、リムさんは別の場所に移動した。
まあ、護衛と乗客が席を同じく出来ないのだろう。

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