悪役令嬢ですが、婚約破棄されたので実家に引きこもる予定だったのに…

東雲れいな

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王宮の謁見の間は、いつになく静かだった。

天井の高窓からは淡い光が差し込み、白と青を基調とした内装はまるで“新しい時代”を象徴するかのように清らかに映えていた。

クラリスが案内されたのは、王家の公式発表の場でもある玉座の間。

すでにその中央には、第二王子ユリウス・フォン・ヴァイスベルクが立っていた。  
正装の上からマントを羽織った彼は、普段の控えめな印象とは異なり、明確な“意志”を纏っていた。

「お待ちしておりました、クラリス嬢」

「……ご招待、感謝いたします。殿下」

短い挨拶ののち、ふたりは並んで壇上へと進んだ。  
その先には、王国の重臣や高位貴族、そして神殿側からも僧正が数名、神妙な顔で座っていた。

第一王子ジルベルトと大神官リヒャルトの姿は、そこにはなかった。

――逃げたか、あるいは“引いた”か。

どちらにせよ、今ここに集った者たちは、新たな秩序を認めるしかない立場にあった。

ユリウスは一歩前に出て、澄んだ声で宣言を始めた。

「本日より、王国は“聖女制度”の廃止を検討する。神の名を借りた制度は、あまりに長きにわたって人々の心を縛り続けてきた。だがそれは、信仰そのものを否定することではない」

「我々はこれから、“祈りを強いる制度”ではなく、“祈る自由”を守る体制へと移行していく」

ざわめきが広がる。

だが、誰も反論の声を上げない。  
それほどまでに、クラリスの行動が王都に残した衝撃は大きかった。

次にクラリスが前へ進み、幻術の力で文書を空中に映し出す。

「ここにあるのは、聖女制度の成立と精神干渉の関係を示す記録、及び神殿と王家の裏取引の証拠です」

「これらの記録は王都図書塔に保管され、誰でも閲覧できるよう開示されます。過去を知ることが罪になるのではなく、過去を学び、今と向き合うことこそが――真の信仰に繋がると、私は信じています」

その言葉に、一部の貴族たちが立ち上がり、頭を下げた。  
やがて神殿の僧正たちもまた、静かに手を胸に当て、沈黙の賛同を示した。

それは、“対立”ではなく“共存”を選んだ証だった。

ユリウスが再び前に出て、言葉を締めくくる。

「この国に、新しい風が吹き始めています。どうか皆様、自らの意志でそれを受け入れてください。これは命令ではありません。選択です」

謁見の間に、重く、だがどこか清々しい沈黙が降りた。

クラリスは、ふと隣を見た。

ユリウスの横顔は、まっすぐに未来を見据えていた。

(私たちは、“何かを終わらせた”のではない。ようやく、“始めることができた”のだ)

その確信が、彼女の胸に温かな光を灯していた。

そしてその光は、王国の新しい夜明けを告げる最初の輝きでもあった。
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