極めて幸せになった日本

廃止された刑務所とその囚人達

新しい首相の誕生に世間が歓喜していた年、
俺は訳あって刑務所に入っていた。
というか訳もなく刑務所に入っていた。
言うなれば冤罪ってやつだ。
いい年こいて若い女襲っただと？ふざけんな！んなことするか！
裁判じゃあっさり無罪になると思ってたよ。
あっさり有罪だったけどな。
ちきしょーめ。ふざけやがって。

そんな風に思ってたのも最初のうちだけだったよ。
俺はその時すでに五十後半のおっさんだったし、シャバに出れば迎えに来てくれる家族だっている。

誰に擦り付けられた罪か知らねえが、俺のことを、ちっとでも知ってりゃあ、俺がそんなことしねぇ男だってわかんのによぉ。まぁそんなわけで俺の周りは誰も俺がそんなことしたとは思ってねぇ訳よ。

ただ、死んだ女房と、二十歳迎えたばっかりの一人息子にゃ多少悪いことをしたとは思ってる。
まぁ、俺が悪い事した訳じゃないがな！
ただ、なんだ、運が悪かったにせよ、息子に苦労かけちまってるのも、女房を犯罪者の妻にしちまったことに、罪悪感を覚えちまうんだ。

不幸中の幸いなのか、こんなゴミみたいなところにも面白いやつはいてな、そりゃゴミみたいなやつもいれば
完全にゴミのやつもいるがな。

とにかくたまには楽しくやってんだ。
だから息子にはわざわざ高い金を払って俺をシャバに出そうとなんてしてほしくねぇのさ。

自分の金を自分のために使ってほしい。お前の幸せが俺の幸せ、なんてな。

とにかく、俺は今しばらくここでだらだらお守りでも作りながら模範囚として、過ごしてっからよ。心配しねーで嫁の一人でも捕まえやがれ！

そんな内容の手紙を出した数か月後だったな。
あの若造が総理になってから四年がたった春、俺ら全員に死刑宣告しやがったのは。