醒メて世カイに終ワリを告ゲルは

立津テト

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1.決意の日と、始まりの人。

1#5 喧嘩

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 結局、ヨーセフとの話し合いじゃ時間までにいい案は出てこなかった。
 あいつ、なんか妙案を持ってるような振りしといて、またもや見栄を張っただけだったのだ。まったく、見栄の張りどころを考えろっつの。
 俺はヨーセフに明日までに何かいい方法を考えて来いと命令して、夕食をとった。
 そもそも、俺に玉都の、特に貴賓街の知識が全くないって言うのが問題なんだ。もう少し何か知っていればヨーセフの知識と合わせて妙案が浮かぶかもしれない。

 飯を食いながらそう考えた俺は、夕食が終わった後に早速、屋敷の書庫に向かって貴賓街に関係しそうな紀行本や手続き関係の本六冊ほど抱えて自室に戻った。
 参考程度の紀行本はともかく、手続きを手解きする本なんてなかなか見当たらなくて、辛うじてそれっぽい一冊を探すのに結構時間をかけてしまった。
 あまり読書は得意でない俺だから、今から読み始めるとあんまり睡眠時間が取れないかもしれないな。
 とりあえず関係ありそうなところだけ斜め読みしておこうか。

 そんな事を考えながら自室に戻り、持ってきた書物を子供用の書斎机――というか勉強机って言った方がしっくりくるな。
 彫物とかが細やかでとにかく造りが立派な勉強机の上に置いて、ひざ掛けを持ってこようと寝室の方に移動した。

 俺の個室はなんと二部屋ある。しかも二つの部屋が扉のない出入り口で繋がっていて、自由に行き来できるのだ。まるでホテルのスイートルームのような造りになっており、最初にここが俺の部屋だと言われた時は家族とここで住むのかと勘違いしたもんだぜ。

 俺がさっきまでいた部屋は主に一人で勉強したりするための書斎だ。そしてもう一部屋がゆっくりとくつろぐための居間兼寝室だった。
 その部屋にはベッドだけじゃなくてソファとテーブルもあるから、個人的なお客を招いてお茶を飲むときなんかはここでお茶会をすることだってある。
 っても、今までここにお茶を飲みに来たのはリリカくらいなもんだけど。

 ん? リリカ?
 そう言えばさっき勉強室にリリカが来て、何か言おうとしてたのを遮って、俺どうしたっけ?

 っつーか考えてもみればこんな時間にリリカを屋敷に上げたの誰だろ。
 俺の幼馴染であるリリカと言えど、本来はこの屋敷の中に自由に出入りは出来ない。せめて屋敷に関りのある人間の口添えがないと無理な話だ。
 リリカは今日も明日も修道院のお勤めがあるだろうに。ってか、こんな時間に出歩いててよかったのか?

 そういや、あん時は俺の部屋で待ってろって追い払っちゃったんだっけ。まあ、明日もあるし帰ったんだろうな。すっかり遅くなっちゃったし。
 明日、機会があったらちゃんと謝っとかないと。

 そんな事を考えながらベッドの上の織物を手にして振り返った俺の視界に、ソファに横たわるリリカの姿が飛び込んできた。

「なっ、リリカ!?」

 俺の驚きの声に、リリカが「うぅん?」と目を擦りながら半身を起こす。
 なんで今まで気付かなかったんだと考え、入ってきた時はソファの背もたれに隠れてて視界に入らなかったんだと理解が及ぶ。

「シューちゃま……おかえりなさい~」

 寝ぼけ眼をこすりこすり、とろけた口でリリカが言った。

「いや、おかえりなさいって、なんで帰ってないんだよ? 修道院はどうした?」

「らいじょうぶらよ~……ちゃあんと~、しぇんしぇーにはきょかをもらってきたから~」

 かなり寝惚けていらっしゃるご様子。

「なんで帰ってないんだよ……」

「だぁってぇ……シューちゃまにたべてほしかったからぁ」

「食べてって……」

 何をだ。あ、それか。
 リリカの横、サイドテーブルの上には小振りなバスケットがぽつんと置いてある。きっとその中に何か食べ物が入っているんだろう。が、

「ごめんリリカ、晩飯食ったばかりで腹減ってないから、明日朝にでも頂くわ。それよりも、早く帰らないとまずいだろ」

 まったく、早いところ持ってきた本を読み上げて明日に備えたいんだが……。

「む~、わたしちゃんとまったよぅ? シューちゃんにスクレたべてもらいたくてがんばったのにぃ……」

 ああもう、寝起きのリリカは面倒臭いな! いつも以上に喋りがのんびりしててイライラする!
 こっちは修道士っていう自分の道を見つけたリリカと違って、今何とかしないと親が勝手に俺の未来を決定しちまう瀬戸際なんだ。本当に俺のこと思ってくれるんだったら、ここは素直に一旦帰ってくれないか!

「リリカ、誰か女中に送らせるから、今晩は帰ろうな? な?」

「いやぁ、きょうはシューちゃんとねるぅ」

 うわぁ、絡んでくるなぁ……今日じゃなきゃ喜んでリリカとベッドインするとこだけどさぁ……なんで寄りにも寄って今晩なんだか。

「いいから、リリカ、俺は忙しいから聞き分けてくれよ」

「いやぁ~あ! スクレ食べて貰うまで帰らないぃ!」

 だから食べれないっつってんだろ!

「いいから帰れよ! こっちはリリカと違ってそんなのん気に構えてらんねえんだよ! リリカみたいに自分のやりたいことばっかやってらる余裕ないの! わかる!?」

 ここ最近、ずっとイライラしてたのもある。
 リリカがやけにわがままだったのもある。
 親父の横暴に腹が立ってたのもある。
 ヨーセフの役立たずっぷりにイラついてたのもある。

 だけど最後に爆発したのは、ずっとリリカに抱いていた、嫉妬だった。
 リリカは何も持っていない。すべてを失った憐れな子供だ。
 それが俺に出会い、仮とはいえ居場所を見つけ、そこから自分の目指すべき本当の居場所に巣立っていった。

 リリカは自由だ。俺と違って自由なのだ。
 不自由から抜け出すために、目的を探さなきゃいけない俺とは違う。
 リリカが、羨ましい。

 リリカの顔がきょとんと俺を見た。
 寝惚けた頭で自分が一体、誰に怒鳴られているのか考え、一拍おいて理解したのか、くしゃりとその顔を泣き顔に変えた。

 今の俺にはそれすら苛立たしい。
 泣けば済むと思ってるのか。泣けば俺が優しくするとでも思ってるのか。
 今は俺の大事な時期なんだ、それを邪魔するのはリリカだって許しておけない。

「おまえはもう修道士になるって夢を半分は叶えてるからいいだろうけどさ、俺はまだ自分が何をしたいかも決められてないのに、親に勝手に将来をあれこれ決められそうなんだよ! 」

 いや待てよ……。

「貴族でもないリリカにはわかんないだろうけどさ、俺だっていろいろ苦労があるんだよ!」

 これ、おいちょっと待て。俺は何を言ってんだ。
 こんなの、ただの八つ当たりじゃないか……いい歳こいて十歳の女の子相手になにマジ切れしてんだよ……。

「わた……私は、そんなつもり……ただシューちゃんにぃ……」

「それが今は迷惑なんだっての! わかれよ!」

 口が止まらない。
 おい、これじゃ十歳の子供まんまじゃないか……どこに行ったんだよ、三十路のおっさんの良識は、十六歳少年の爽やかさはよ……。

 リリカは泣いている。もう身体を起こしてソファに腰掛けていた。怯えた表情で俺を見上げ、なんとか逃げ出さないように修道服の膝のところをしっかりと握っている。

「……人を呼ぶから、今日はもう帰れ」

 これ以上、リリカの泣き顔を見ていたくなくて、俺は人を呼ぶために自分の部屋を出て行った。
 俺、なにやってんだろ……寄りにも寄ってリリカに八つ当たりしちまった……。

 夜番の女中を見つけて部屋まで戻った時、リリカは既に部屋にいなかった。
 テーブルの上のバスケットも消えていた。
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