醒メて世カイに終ワリを告ゲルは

立津テト

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2.夢の途中と、大切な恩人。

2#4 宴会

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「ねえ、リリカ、希者って知ってる?」

「希者様? もちろん知ってるよ~。そういえば、今はこのルー=フェルに滞在なさってるんだっけ~」

 今、俺とリリカはルー=フェルの大通りを二人並んで歩いている。
 ルルは少し野暮用があるとかで雷の身体強化門晶術を自分にさっさと帰ってしまった。俺を置いていくなんてルルにしては珍しいこともあるもんだ。

 あの後、なんとか気を取り直した俺が元来た道を呆然と戻っていると、ルルとリリカとそれとタツミたち三人がひょっこりと姿を現した。
 タツミ達曰く、すぐ目の前を走っていたはずの俺の姿が少し目を離した隙に消えてなくなり、きっと先に行ったものと東北東を目指して走ったところ、俺より先にルルとリリカに合流してしまった。先に合流していたものと思い込んでいた俺の姿がないことに慌てた一行が戻ろうとした矢先、俺がこうして姿を現したのだという。

 もうなにがなんだか、現実とは思えない状況に説明する方もされる方も混乱しっぱなしだった。
 ひとまず、どこかで発生したエーテル渦の悪影響で幻覚を見ていたんじゃないかという方向で話は落ち着いたが……やっぱ腑に落ちないことこの上ない。
 腑に落ちないが、幻覚であったことにするのは吝(やぶさ)かじゃない。あんな現実、記憶しておきたくないからな。ソレバークを全滅できた事実は事実として。

 そんなこんなで、俺達は今日の分のクエスト達成ってことで狗尾亭(えのころてい)に帰還の途に。タツミ達は事後処理とかで依頼された村まで戻って今日はそこで泊りらしい。
 いろいろあったがなんとか初日は攻略できた……明日以降はアクシデントで脚色されない順調なクエスト進行を頼むよ、まったく……。

 暮れなずむ目抜き通りは、屋台や行き交う人々の喧騒がこの日最後の活況を盛り上げようとでもするかのようにやたらと騒がしく賑やかだった。
 街灯ガジェットに火が入れられれば、それを合図に屋台は店仕舞いだ。そうすると通りは行き交うだけの通行人ばかりとなり、街灯とは逆に火が消えたようになる。その瞬間までの最後の一燃えって奴かな。

「希者って何様なの? 偉いの?」

 少し寂しさを感じる一日の終わりを横目で見ながら、吐き捨てるように聞いた。

「希者様はねぇ、えらい人と言うよりすごい人かな~。私がお勤めする正教神会の他にもいろんな神様がいらっしゃるのは知ってるよね~」

「正教神会以外の有名所だとナダルガ焔神会、シューメ青神会、アルテス星教会ってところね」

 この中でも正教神会が一番信者の多い最大勢力の信仰だったりする。
 正教神会を支えるマリベル神は人の身体に関わる方面に強い神様で、治癒や身体強化に特化した能力を持つ。治癒の奇跡は実際に便利だしな。

「うん。希者様っていうのはね、その神様達が『この人は世界にとって大事かも!』って思った人徳と能力の両方を兼ね備えた人にだけ授与する称号なの~。最低三柱の承認が必要なのよ~。それで~、希者エリク様は正教神会と星教会、それと黒教会の三柱に認可されたお方なの~。最近じゃ、他の神様からの追認もあるんじゃないかって、もっぱらの噂なのよ~」

「ふ、ふーん……すごいのね」

 俺がたじろいだのはエリクの威光に恐れをなしたわけじゃない。そんな御大層なものを知らなかった自分の無知に対してだからだ。そのへん勘違いしないでくれよな。
 
「すごいのよ~。それで、希者様がどうかしたの~?」

「いや、別に……ふと耳にしたから気になってね」

 エリクの野郎を話す時のリリカの顔は、まるでアイドルの武勇伝を話す女の子みたいだった。
 確かに世間的にはすごい人間なのかもしれない。
 でも俺の前で披露した奴の所業は強制わいせつだけだ。えらかろうがすごかろうが知ったこっちゃない。次遭(あ)ったら絶対ぶん殴る。あれが幻覚だったとしてもだ。あんなの現実だなんて認めない。認めてなるもんか。そもそもあれは幻覚なんだしな、うん……って、あれ?

「……なんか、あいつのことになると思考が支離滅裂になるな」

「ん~? 何か言った~?」

「別になんにも」

 すこし腹立たしさが声に出てしまったのを悔いつつ、俺は足を速めた。

「ああん、待ってよ~」

 パタパタと駆け足でついてくるリリカを追いつく手前で引き離したりしておちょくりつつ、きゃいきゃい笑いあいながら家路を急ぐ。我が家狗尾亭(えのころてい)はこの路地を曲がった裏通りだ。
 そこでふと気が付いた。

「そういえばあいつ、汽車のこと知ってる風だった……?」

 エーテルで稼働するガジェットと門晶術の活用で文明を築くアステラの世界に、蒸気機関は存在しない。少なくとも十六年間生きてきて、そんなもの聞いた覚えがない。
 だから汽車――蒸気機関車という単語そのものが存在するはずないのだ。それを、エリクは不思議がる風もなく聞き捨てた。

「何かと聞き間違えた……のかな」

 今となってはそのくらいしか理由が浮かばない。
 ぶっちゃけ思い出したくもなかったし狗尾亭は目の前だしで、俺は適当な結論でその思考に蓋をした。



『お疲れ様~っ!』

 光が漏れるスイングドアを押しのけた俺とリリカは、活気に溢れた慰労の唱和とグラスが重なる涼やかな音色に包まれて出迎えられた。
 唖然とした自分の口から呆けた声が漏れるのを、俺は他人事のように聞く。

「おわ……どしたの、これ……なに、なに?」

「ぉ帰りなさぃませ、ぉねぃさま! ぉ待ちしてましたー!」

 居並ぶ知人友人を代表する形で、野暮用に出たはずのルルが前に出てくる。
 他の顔触れは見慣れたいつものが七つばかり。同じ狗尾亭(えのころてい)の住人であるキャリンとガーラ、その大家であるクリエラさん。そして俺達が狗尾亭に寄宿するきっかけになったジノとその弟のガノ君。
 あとの二人は顔見知りって程度だが、キャリンとジノのパーティメンツでヒャラボッカちゃんとドズさんだ。

 この二人は二度、三度しか顔を合わせたことがないんだが一目見ただけでそれとわかる。それほどに特徴的な二人だった。
 いや、変な顔をしてるとか極端な美醜を持ってるわけじゃない。むしろそれぞれの種族の中じゃキャリンやジノと同じくらい標準的な顔立ち身体つきらしい。
 そう、その種族が問題なのだ。二人は同じ獣人科でも俺たち猿人属とは別、彼らは猫人科と犬人科だった。
 この二種族は俺たち猿人属の次に多いといわれている種族で、通称ゴブリンとコボルトと呼ばれている。

 普通、ゴブリンやコボルトっていえば、小鬼や矮躯(わいく)のオッサンみたいな純粋に可愛いとは言い難い、せいぜいキモカワ止まりのルックスをイメージするがこの二匹、失敬、二人はそれはもう愛くるしい姿形をしていた。

 猫人属ゴブリンであるヒャラボッカちゃんは女の子で俺と同い年。
 俺の腹くらいまでしかない身体のてっぺんに乗っているのは横楕円型のもっふもふなお顔、その頭頂部から伸びるはリンクスティップがツンと立ったお耳、きゅっと突き出たお鼻、いつも微笑しているようなお口、顔の半分も占めてるんじゃないかと思われるくりっくりの釣り目。そして身体を彩る三色の毛皮――どこからどう見ても直立二足歩行する完璧な美毛猫さんだ。

 犬人属コボルトのドズさんはと言えばヒャラボッカちゃんから推して知るべしでもう説明の要もないだろうが、実はクリエラさんを除くメンツの中では最高齢の三十六歳、グイッと伸びたノーズとキリッと引き締まった瞳が印象的な、茶褐色の落ち着いた雰囲気を持つ紳士犬だ。

 そういった個性的な顔触れが、宵闇の迫る店内で色とりどりの料理が乗った皿を囲みグラスを掲げている。
 普段は下町のおっさん達がたむろする店内は、誰が見てもアットホームなパーティ会場だと思える様相に衣替えを果たしていた。

「えーと、みんな揃ってどうしたの?」

 唖然としたまま問いかける。

「んー、理由は大したことないんだけどね」

 そんな風に切り出したのはキャリンだ。少し大袈裟になった雰囲気を苦笑気味に見廻して、

「シュー達が大きなクエストを獲得できたのと、私たちが明日から遺跡迷宮探索に出るから二つ揃えて『祝勝アンド壮行会』をしようって話をしてたら、いつの間にかこんな大所帯になっちゃったのよ」

「こういうのは賑やかな方がいいだろう!」

「いいだろう!」

 バカでかい声で宣言したのは他ならぬジノで、それに追従するのは弟のガノ君だ。
 こげ茶色の髪色も短く刈り込んだ髪型も言うに及ばず横柄な態度から自信にあふれた顔つきまで、ガノ君はまさにジノを小さくしたようなガキ大将なお子様だ。確かジノとは一回り以上歳が離れた十二歳だったと思う。
 見た目通りにこの辺のやんちゃ坊主たちを取りまとめるリーダー格は、下町の大人達からも次代のジノと目される生意気盛りだった。
 このポストジノ少年は両親を生まれた直後に亡くしたからか極度のお兄ちゃんっ子で、何かにつけてジノの真似ばかりしている。大人達の予想なんかなくてもきっと、近い内に冒険者を目指してあれこれやんちゃを始めるだろうな。

「キャリンさんもジノさんも、大事なことを付け加ぇ忘れてますょ」

 ニヤニヤとルルが言い添える。
 大事なことが何なのか見当もつかなかった俺が目顔で話の先を促すと、ルルは二人に向けて盃代わりのコップを掲げて高らかに宣言したものだ。

「この探索が終わったら、ぉ二人は晴れて夫婦になるのです! その前祝ぃも込みなのですょ!」

 ルルに言われて思い出した。そうだった、この二人婚約してて近々結婚するんだった!
 思わぬところで祝杯を掲げられたキャリンとジノは顔を赤くしてお互いに顔を見合わせ、それから俺たち取り巻きに感謝のこもったはにかみを見せつけた。
 俺は理解と喜色を満面に湛え、隣でリリカは眩しそうに二人を見返し、二人のパーティメンツはやんややんやの大喝采。既に席についているクリエラさんとガーラも微笑を湛えてゴブレットを掲げている。
 クリエラさんの笑みには子供を送り出す寂しさのようなものが垣間見えたのは俺の思い込みだろうか。

 ああ、そうだな――うん、そうだ、あまりに唐突で驚いたけど……いいな、この雰囲気。なんかすごくウキウキする。
 それに、他人の幸せでこんなに嬉しくなるってのがなにより嬉しい。この一瞬のおかげで今日の苦労や嫌なことも全部忘れらそうなくらいだ。

 二人のパーティメンバー、ヒャラボッカちゃんとドズさんのからかい混じりのお祝いを受ける二人を後目に、俺とリリカもルルからジュースで満たされたカップを受け取る。
 汗みどろのまま参加するのはちょっと気が引けたが、ここで身だしなみを整えに戻るのもなんか水を差しそうで躊躇(ためら)われる。ルルの奴はちゃっかり小綺麗な部屋着に着替えてるけど……。
 とりあえず乾杯が終わってひと段落したら、機を見計らってリリカと一緒に部屋に戻ろうかな。

「楽しいね~、シューちゃん~」

「うん、そうね、リリカ」

 言葉の通り心底楽しそうなリリカと微笑み合う。マリベル信徒を地でいくだけあって、リリカは他人の禍福に人一倍敏感だ。キャリンの幸福が我が事のようなのは俺以上だろうな。

「今日は随分と梃子摺(てこず)った様子だな、シュー」

 キャリンとジノの華燭の典をあれこれ想像しあう俺達の間に酒臭い息を割って入れたのは、俺達が帰ってくる前から呑んでいたのであろうガーラだった。
 お呼びじゃない、と軽い嘆息で迎えて意思表示しても、ガーラは構わず酒臭い息を吐き出し続けた。言葉にしないとわからんかね。

「ガーラもいたんだ」

「タダ酒が呑めると聞いてな。ご相伴に預かりに来た」

 そう言って腫れぼったい酔眼をニタリと笑みの形に歪める。ホントに、この酒癖さえなければ頼もしい師匠なんだけどな……。

「呆れた意地汚さよね」

「まあそう言うな、私もいろいろと肩身が狭いんだから」

「自業自得じゃない」

「こーらっ」

 俺とガーラの視線が絡まって膠着した直後、背後からお叱りの声と共に何かにのしかかられて俺はよろめいた。後ろからキャリンに抱き着かれたのだ。それを契機にガーラは肩を竦めて元の席へと戻っていく。

「楽しむ席で喧嘩なんかしてちゃダメなんだぞー、シューう?」

「ちょ、キャリンやめてよ、重い」

「あー、女の子に重いとか言うなー。ほら、笑って笑ってー」

「ひゃりん、よっひぇるれひょ」

 口角を無理やり左右に引っ張られながら背後のキャリンを振り返ろうとして、二人まとめて回転した。そりゃそうか、抱き着かれてるんだから俺が動けばキャリンも動くわな。

「えー、まだそんなに酔ってないよー」

「んもう、やめてったらぁっ」

 キャリンを引きはがして今度は俺から抱き着き、彼女の身動きを封じにかかる。その拍子に料理が乗っていたテーブルにぶつかってゴブレットの中身をぶちまけてしまったが、俺もキャリンもそれを見て馬鹿みたいに笑うだけだ。
 ガーラと睨み合ってた時は慌てふためいていたリリカも、笑顔で倒れたゴブレットの片付けをしてくれてる。手間をかけちゃって悪いと思ったのは一瞬だ。リリカも楽しそうだし俺も楽しいからそれでいいことにした。

「遺跡探索、頑張ってくださいね~」

「ありがと、リリカちゃん、がんばるねー」

 キャリンとリリカが微笑み交わしているところへ、

「ぉぉぉねぇぇぃぃぃぃさぁぁぁまぁぁぁぁーっ!」

 今度は死角からルルが飛びついてきた!?
 なんだ俺は抱き着くといいことがあるマスコットか!

「聞ぃて下さぃぉねぃさま! ぁのガキンチョ、事もぁろうにレディを捉まぇて喋り方が子供っぽぃとか抜かしたんですょー!」

「わかった、わかったから耳元で怒鳴らないで!」

 ルルの指し示す方を見やれば、そのガキンチョ――ガノ君が折しも憎らしくあかんべーを見せつけてるところだった。
 いや、あんなのに怒って俺に泣きつくのはどう考えても子供っぽいと思うんだが……とはさすがに口にせず、

「ルルはちゃんと黒が似合ってるから、大人っぽく見えてるわよ」

 俺のちょっと稚拙な励ましに、ルルの顔はみるみる喜色に溢れていく。
 そんな様子をじっと眺めていたキャリンが、

「いいなー、そういうの」

 と、物欲しそうな目で言い出した。

「いい、って、そうかなぁ……」

「うん、羨ましい。そうだ、いいこと思いついた」

「いいこと?」

「うん、今回の冒険が終わったら、シューのパーティに参加させてもらえない?」

「あたしたちの? それはまあ構わないけど……なんでまた」

「だって、私まだ一度も女の子だけのパーティって組んだことないんだもの。一度でいいからそういう男に遠慮しないパーティで冒険してみたいなぁって思って」

「ああ、羨ましいってそういうこと。うん、それなら大歓迎よ、帰ってきたら次はあたしたちの冒険プランを練りましょうか」

「本当に!? やったぁ、楽しみ!」

 キャリンの喜びように俺も嬉しくなるが、それはなにもキャリンと冒険ができるからってだけじゃない。ちょっとした打算も働いてるのだ。
 キャリンの冒険が成功したらそれなりの実入りがあるだろうし、冒険する際の資金は持ち寄りだ。なのでちょっと甘えれば今の俺達の心許ない貯蓄でもそれなりに格好のついた冒険ができるってことになる。そうなれば後はそこで実益を出してキャリンも嬉しい俺も嬉しいの万々歳と相成るわけだ。
 ま、皮算用だけどさ。キャリンが失敗したらご破算だ。その時はその時、キャリンとまた一緒に何か考えればいいか。

「キャリンねーちゃん、女だけでなに話してんの?」

 喜色満面のキャリンの後ろからひょっこり姿を現したのは、さっきルルと拮抗する舌戦を展開したガノ君その人だ。
 ルルが早速身体をそびえさせて威嚇している。お前は猫か。

「んふふー、男の子には秘密でーす」

「あー、ずるいぞー」

「男の子には秘密ってんなら、大人の男、しかもお前の旦那様ならいいよな?」

 ぬうっとキャリンの背後から現れたジノは、出し抜けに大きな声で話に加わってくる。ちょっとその声の大きさに驚いた。

「良い女っていうのは魅力的な秘密の一つや二つ持っててナンボなのよ、だ・ん・な・さ・ま?」

「はっはっ、そうか、こりゃ一本取られたな!」

 ジノのこの脂下がった顔と言ったらまあ……羨ましさを通り越してちょっと鬱陶しいくらいだ。

「いいなー、オレもキャリンねーちゃんと結婚したかったなぁ」

「残念だったなガノ、キャリンは男を見る目があるからな。お前にはまだちょっと早かったのさ」

「ちぇ、じゃあオレはシューねーちゃんと結婚する!」

「気軽に乗り換えてくれるわね……」

 苦笑なのか怒りなのか自分でも微妙な顔で呻く。
 するとその言葉が言い終わるか終わらないかと言った頃合いに、

『はぁっ!?』
 
 ルルとリリカの素っ頓狂な叫び声が重なった。

「お、そりゃいいな! そうすりゃ兄弟揃って美人と結婚したって自慢できるぜ!」

 いやいやジノさん? 今の変な悲鳴を無視してなに言ってるんですか?
 みたいな感じのセリフを口に上(のぼ)せようとした矢先、似たようだがより激しい声が俺の機先を制して飛び出した。

「ンなにをほざきますか! ぉねぃさまは男なんかと結婚しませんょ!」

「え……あたしはじゃあ何と結婚させられるの」

 思わずルルに問うが……眼光鋭く兄弟を見やるルルは取り合う様子もない。

「そ、そうですよ~、そういうのはお互いの気持ちが大事であってぇ~」

「正論だけど、子供相手に真剣に正論を並べるのは大人気ないわよリリカ……」

 なぜか涙目で必死に訴えるリリカも聞き入れてくれない。

「俺とシューねーちゃんはそーしそーあいだぞ!」

 いつの間にそうなった、とは言わなかった。たぶん誰も聞いてくれないから。

「このガキンチョは言わせてぉけば! 相思相愛とはルルとぉねきさまのことを言ぅのです!」

「わ、私とシューちゃんはずっと一緒で幼馴染で、私だってシューちゃんのこといっぱい知ってるし~!」

 あれやこれやと的外れお門違いな意見が飛び交う中、話題の中心である俺も何度となく意見を具申したが誰の耳にも入れてもらえず……結局諦めて、白熱した論争の輪から弾かれるようによろめき出た。

「誰かあたしの話聞いてよー……」

 手近な椅子にもたれて、もう空気しか話しかける相手がいない自分の侘(わび)しさを託(かこ)っていると、

「はっはっは、モテる女は辛いなシュー」

 楽しそうなガーラの声に出迎えられた。

「モテてないし、無視されてるし」

 ふてくされて言う。
 するとガーラは膨らませた俺のほっぺをつつきながら苦笑して、

「ま、今のうちに楽しんでおけ。最後の思い出になるかもしれないからな」

 そう言い放った。

「……空気読みなさいよ」

 ガーラの言わんとしているところを瞬時に察して、気持ちが一気にささくれ立つ。
 ガーラはこう言っているのだ。この冒険でキャリン達の誰かが帰らぬ人になるかもしれないから、しっかり別れを済ませておけ、と。

「心外だな。冒険者が冒険に出るというのはそういうことだろう」

 だとしてもそれをわざわざ宴もたけなわって時に言うか? 俺にしか聞こえない声とはいえ、俺が不愉快だ。どうしてこの人はこんなに無神経なんだ。

「現実にあえて目を瞑ることも人生を楽しむコツの一つよ」

「そうか。瞑った目の内で現実を想っているならそれでいい」

 自嘲気味に鼻で何かを笑い飛ばすと、ガーラは口を閉じた。
 いっつもそうだ。偉そうに講釈を垂れるだけで自分の考えや気持ちは全然話してくれない。そんなに俺のことが信用できないのかよ。自分は信用されてると思ってるのかよ。隠れてコソコソ一人で何かしてるくせに。それで言いたいことだけ言って師匠面していいと思ってんのかよ。

「……余計なお世話よ」

 口の中に吐き捨てると、手近にあった酒杯を鬱々とした気持ちごと一息に呷(あお)る。ついでに辺りに漂っていた楽し気な空気を補充して気分を直すと、俺はガーラのそばから立ち去った。
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