醒メて世カイに終ワリを告ゲルは

立津テト

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3.岩屋の死闘と、居ない人達。

3#3 秘策

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「ぉ、ぉねぃさま、速ぃですょーっ」

「もう少しだから、頑張って!」

 『根絡みへの通廊』を抜けた俺は走っていた。
 
「『ラエウ』を使ってなぃルルはヒキコモリ並みの体力しかなぃんですからぁ~!」

 だんだん遠ざかるルルの声も顧(かえり)みず、大空洞へと繋がる折返し階段を駆け下る。
 この折返し階段、階段踊り場階段踊り場階段踊り場……ってな具合に延々と続く学校の階段といった風情の通路だ。もちろん壁も床も天井も白っぽくざらついた壁面照明だから、印象はだいぶ違うものだけど。
 ところでこの通路、普段は大空洞内部を含めてもかなり危険度の高いエリアだったりする。なにせこの狭い空間で上り下りからいつ魔物が襲い来るのかわからない隘路だからな。しかも足場は階段だから退くのも進むのも大変だ。

 だけどどうやらここも『根絡みへの通廊』の異常を引き摺って魔物がいないらしい。
 だから階下をろくに確認せずに階段を飛び降りるとか、慎重さなんてかなぐり捨てた強行軍で突き進む。
 不穏な安全だが、急いでいる今はありがたい。

「ほ、本当に待って下さぃってばー!」

「ついてきたかったら『ラエウ』を使いなさい! それが嫌ならあたしは先に行く!」

 今はとにかく先行することが重要なのだから。
 『ラエウ』はルルお得意の身体強化の論理だ。ルルが言う通りそれを使えば脅威の身体能力を得られる。リリカと違って扱いにも慣れているから、こういう入り組んだ場所でも勢いを持て余さないだろう。
 むしろどうして使わないんだと苛立ちすら感じていた。
 だから非情に聞こえたとしても言い切り、俺はさらに速度を上げようとして――

「ぁぁもぅぉねぃさまのパカチンがーっ!」

 ルルの声が階段室にワンワンと響き渡ったかと思うと、前方に光が弾けてそれを知覚する間もなく爆発に似た破裂音が俺の身体を押し留める。
 ルルの放った落雷魔法がすぐ目の前に炸裂したのだ。なんちゅー強引な制止。
 っていうか俺に落ちたらどうすんだ!

「なにすんのよっ!」

「落ち着きなさいシューレリア!」

「おっ、落ち着いてるわよっ!」

 いや、自分でもよくまあ言い切るなと呆れるほどのでまかせだった。
 落ち着いてないし、慌ててる。
 だって、なんか今一瞬ルゥ婆に怒鳴られた気がしてすごく懐かしいような恐ろしいような複雑な気分に……それ以前にキャリンのことで頭がいっぱいになって前のめりになっていたのも確かだ。
 事実を指摘されて焦ったり複雑でアンニュイな気分になったりと、頭の中がこんがらがってテンパってる。

 二階分上の踊り場から見下ろすルルとしばし睨み合い、俺の方から視線を外した。
 確かにルルの事を考えてなかったかもしれない。考える余裕もなかったんだが。
 ちょっと、というかかなり乱暴な止め方をされたのはおあいこって事にして大きく息を吸う。
 そして吸った時間より長く細く、静かに吐く。

「……落ち着いた」

「ぃぃでしょぅ、じゃぁちゃんとルルの話を聞ぃて下さぃ」

「何よ」

「このまま無策に突っ込むのは危険です、もっと状況を予測して正しく警戒すべきでは」

「何が危険でどう警戒するってのよ、魔物もいないのに」

「聞き逃したんですか? ジノさんが言ってぃたでしょぅ」

「……オーク?」

「そぅです」

 そういえば確かにオークの大群がどうのこうのとか言ってた気がする。

「過日、別のパーティが遭遇したとぃぅ話をしてましたょね」

「したわね」

 過日とはソレバーク掃討クエストの時の話だろう。あの時はタツミ達のパーティにオークの茶々入れがあって、俺達のパーティにまで面倒が飛び火した。

「ぉかしぃとは思ぃませんか」

「そりゃ思うけど……」

 確かに、基本的にオークは共王国のずっと北の山裾に生息する魔物だ。タツミクラスの冒険者が手間取るほどの集団が、遥か南に位置するルー=フェル周辺をうろついてるなんてこと、ありえない。
 ありえないんだが……そもそも今の『根絡みへの通廊』そのものがありえない状況だから、なんかもうオークがいるくらいじゃ驚かないっていうか……。

「ジノパーティが壊滅する程のオークと『根絡みへの通廊』の異常、これらが可分の現象だとは考ぇ難ぃのです」

「どうしてよ、どっちもただの偶然じゃないの?」

「遺跡迷宮に尋常を求めるのも益体無ぃですが、現在の『根絡みへの通廊』の状況――遺跡から魔物が一掃された例がなぃ訳ではぁりません。人為的には為政者ゃ国が起こした討伐軍にょる功績、自然発生的には濃密すぎるエーテル渦が一般的ですね」

 ゆっくりと階段を下りてきたルルが俺を追い越した。話しながら歩く心積もりらしく、俺も黙ってその後ろに従う。

「ですが『根絡みへの通廊』の現状と照らし合わせるに、そのどちらでもなぃ事は明白です。討伐軍が遠征したのでぁれば大々的に喧伝される筈ですし、天災級のエーテル渦が発生すればぃくらエーテル耐性の高ぃオークとぃぇども生き抜く事は不可能です。ょしんば生き残ったとしてもそれはもはゃオークではなぃ魔族級の魔物と化してぃるでしょぅね」

「その魔族級のオークが、まだ解明されてない大空洞の奥地から這い出してきたとかは?」

「それはまた先の話に関わりますが、オークとぃぇども魔物化すれば生前の意識は保ってぃなぃでしょぅ。もはや別の生き物です。しかもオークの凶暴性を下敷きに生まれた魔物でぁれば、恐らく見境のなぃ暴虐に走るでしょぅね。そんなものが徒党を組める筈はなく、それでは理由になりぇなぃのです。そもそも天災級のエーテル渦が発生すれば年単位でその遺跡迷宮は封鎖されますし、各地の冒険者協会でその旨が告知されるはずです。そんな重大情報をルル達が見過ごす筈もぁりません」

「それもそっか……」

 長い長いとは聞いていたが、この大空洞へと繋がる折り返し階段は一体どこまで続いてるんだろうな……底の方は真っ暗で何も見えない。
 ここの照明も壁面照明だから、真っ直ぐな通廊と同じ理屈で数十メートル以上離れた階段室の底の方は俺の目には真っ暗闇にしか映っていないのだ。なので敵が下から登ってきてもその距離に入るまで姿は見えない。確かに普段ならあんまり油断ができない場所だな。
 それはそれとして、だ……階段が終わってくれないとルルの御高説も終わらないだろうな。これもう完全にスイッチ入ってるし……。

「そこで話柄を転じオークの方から検証してみます。オークが大量出現した例としては、共王国北西の城砦都市ゾ・バァに於ける豚人攻城戦から追討戦までを一連としたオーク戦役でしょぅ。
 これはオークの族長が共謀してゾ・バァ占領を狙ったものでしたが、結局オーク側の連携が纏まらず攻城は失敗、手を拱(こまね)ぃてぃる間に城砦の防衛軍と来援の共王軍との挟撃にょりオークの連合軍が瓦解、そのまま追討戦へと遷移しました。
 この例では大量出現の理由に目的の一致とぃぅ条件を見ぃだせます。基本的に集団行動を採らなぃオークも、目的の為には協力する事を知ってぃるとぃぅ証左ですね。
 根絡みの大空洞に巣食ったオークにも何か魂胆が在るのかもしれません。然りとてその魂胆が何処に在るのか、とぃぅところまでは今の情報では推知が難しぃですね……ですが理由が判らなくともオークが何かしらの目的をもって遺跡迷宮を占拠したと考ぇる事は不自然ではぁりません。むしろその方が自然でしょぅ」

「えーと、要するに『理由はわかんないけどオークが根絡みの大空洞を占拠しました、それを前提とします』って話よね」

「まぁそぅぃぅ事なのですけど……身も蓋もなぃのですょ」

「まだるっこしいのよ」

「と仰っても聞き流しますけど」

 爛々と輝く紫の瞳が俺を振り返り、許可を求めるように見上げてくるが、その言葉の前にはあまりにも白々しいぞ……っていうか態度とセリフがちぐはぐだ。

「あ、そう……じゃあ続きをどうぞ……でも足は止めないでね」

 突っ込もうかとも思ったが、こりゃ暖簾に腕押しだろうからな……ルルの説明好きがフル稼働してる時は聞いてる振りをするのが一番だ。
 それにルルの言う事にも一理ある。
 焦る気持ちのまま無策に突っ込んでいってエーテル渦や想像以上の大量の敵に出くわしたら、そこで俺達の人生も積みになってしまう。
 だから危険が潜んでいる可能性の高い大空洞へ向かうこの道――地下何十メートルへと続く折返し階段を降りながらの打合せは無駄な時間じゃない。
 そう自分に言い聞かせて、ルルの話を聞くとはなしに耳に流し込む。

「それではぉ言葉に甘ぇて……目的はどぅぁれ理由さぇぁれば彼らがどんな無謀でぁろぅと働くのは歴史が証明してくれてぃます。豚人攻城戦然り、グ・クゥイ原野の遭遇戦然り、『朽神の神殿遺跡』掃滅戦然りです。全て、ぁまりにも短絡的過ぎてルル達人間には想像すら出来なかった――ぃぇ、想像が見落としてぃた理由からオーク達が引き起こした愚かな戦です。
 この中で『朽神の神殿遺跡』掃滅戦には面白ぃ事跡がぁります。この戦闘に於ぃて、人間側はちょっとした予測外の長期戦を強ぃられてぃます。
 それは何故か? 人間側は朽神の神殿遺跡に籠城したオークに対して兵糧攻めの姿勢で挑みました。朽神の神殿遺跡周辺を完全に包囲し彼らの補給路を断ったのです。包囲網が配置された時の軍部の予測ではもって半月だろぅとぃぅものでした。
 しかしオークはその予測に反して二月も籠城し、尚且つ応戦までしてのけました。この予想以上の粘りで逆に人間側の兵站が疲弊し、度重なる援助要請に共王国は手痛ぃ浪費を被ったと聞き及びます。ここには戦力分配の鉄則に対する教訓も示されているのですが、今は関係がないので割愛します」

 あかん、なんか歴史の授業みたいで眠くなってきた……歴史自体は嫌いじゃないけど、興味のない年代のしかも教師がやたら悦に入って説明ばかりする時間は堪えがたい眠気に襲われるんだよな……。
 なによりルルの話は行き先が見えない。そのせいで話の結末に期待も不安も抱けないからなおさら眠くなる。
 唯一の救いはルルが非常に楽しそうだってことくらいか……黒い大きなトンガリ帽子の下で得意満面のドヤ顔を浮かべる美少女の顔は普通に可愛い。こちらは見ていて飽きないものだ。

「どぅしてどぅして、オーク達は食料の供給が断たれても尚、予想以上の戦力を有し得たか? これ以前から知られてぃた話ですが、オークはかなりの悪食でその顎で噛み砕けるものなら石でも骨でも喰らぅと云われてぃます。しかも倫理観も何もあったものではなく、口にするのも悍(おぞ)ましぃ事ながら戦死した死体ゃ戦力外になった仲間は彼らにとって食料でしかなぃのです。それでも十分人間の思考を超越してぃますが、その悪食は留まる事を知らなぃものでした」

 そこでルルは言葉を切った。
 同時に少し歩が速まる。それそのものに異論はないのだが、黙りこくったルルの気配に深刻なものを感じて少し悪寒がした。
 その悪寒の正体を知るのに躊躇(ためら)いを覚えて、俺も催促できずに黙り込んだ。

 ルルもその結論に相当の嫌悪を抱いているというのがこの態度で知れた。沈黙はそこから生まれる躊躇(ちゅうちょ)なのだろう。
 階段と踊り場を二セットほど下る沈黙を経て、ルルがようやく口を開いた。

「オーク達は遺跡迷宮に生息してぃた魔獣を食料としてぃたのです」

「魔獣を……食べる……?」

 聞くだに胃が重くなる話だ……。
 っていうか、あんなもの喰えんのか? だって魔獣って確か『歩くエーテル渦』って呼ばれるくらい体内エーテル密度が濃いだろう。
 そんなものを口にしたら――。

「確かに、一般的な人間のエーテル耐性では魔獣化する前に体組織が耐ぇられず死亡してしまぃます。魔獣とは門晶を持たなぃ獣が微量のエーテルをゆっくりと溜めて変質するものですからね。しかし人間ょりも魔物に近ぃエーテル耐性を持つオークなら大量のエーテルを取り込んでも即死せず、時間は掛かるでしょぅが門晶にょって排出が可能です」

「信じられない生態ね……もうほとんど魔物じゃない」

 人間と魔物の間の子ってのは伊達じゃねえな。
 うすら寒い風が吹いてると思ったら、大空洞側の階段室の壁が人一人通れるほど崩れている。しかし、ここからじゃ高すぎて大空洞地上部の様子はうかがい知れなかった。壁面照明の明かり(?)がここまで届いていないのだ。

「無理もぁりません。ルル達が知るオークの情報は、ほとんどが抗争の中で得られたもの事ばかりでオークとぃぅ種族全体の生態は已然謎に包まれたままですから」

「そっかそっか、『根絡みへの通廊』に魔物がいなかった理由は大空洞にオークが巣食っていることを前提にすれば説明がつくのね」

「なのです。通廊の、そして恐らく大空洞の魔物も、オークの餌として消ぇたのです」

 確かにルルが説明を中断するのも分かる内容だったが……蓋を開けてみればそこまで重大な話でもなかった気がする。
 結局はオークはなんでも食っちまうぞ、ってだけの話だしな。それをどうして俺に聞かせにくそうにしていたのか、その点がよくわからんな。

 つーかもうぶっちゃけそんな気色悪い話なんてどうでもいいんだが……しかしなぁ、この後の事を考えると説明させないでルルの機嫌が地味に悪くなるのも厄介だ。

「と、ここまではぁくまで問題を強調する下地の話です」

「具体的な問題は『何が目的で大空洞に集まっているか』ってとこね」

「なのです。目的が判れば相手の裏をかく事も出来ます」

「目的……目的ねぇ……」

 ここまで並べ立てられたオークの情報を顧みるに……そんな人間離れした奴らの思考なんて予測どころか想像すらできないぞ、って感じか。
 つかそんなん無理だろ。さっぱりわからん。

 もうさっさと突撃して、大空洞のどこかに隠れているはずのキャリン達を助けに行きたい。
 大体、オークに対処しながら隠れてる人間を見つけるのだって至難の業なのだ、いくら時間があっても足りやしない。

 対処ってのもオークの大群から隠れて探すのか、それともドンパチしながら探すのか……いずれにしても苦労の質が変わるだけで手間が掛かるのは変わらない。
 いやまて、探すんじゃなくて見つけてもらえばいいのか……?

「オークが集団を成す時は、大抵どこかへ攻め入る準備段階なのですけど……」

 その物騒な呟きに、俺の意識がルルの方へと戻る。
 
「攻め入るって、この辺にはルー=フェルしかないじゃない」

「そのルー=フェルには常に大勢の冒険者が屯(たむろ)してぃる上、正規の駐留軍も防備につぃてぃます」

「ルー=フェルに戦争を仕掛けるなんて、一国の首都にいきなり攻め入るのと同じよ。いえ、それよりも厄介だわ。皇玉国も共王国もルー=フェルの実権を虎視眈々と狙っているのだから、いまさら第三勢力がノコノコと手を出してこようものなら我先に援軍を寄越すもの。ルー=フェルはそれを待って防衛線を展開しつつ、送られてきた援軍と挟撃する。それでおしまいじゃない」

「オークが敗戦した諸所の戦況もほとんどそんな具合です」

「せめて戦力を分散させるとか、主力である駐留軍を動けない状況に追い込むとか――」

『あ』

 二人揃って足を止め、間抜け面を向け合わせた。

「今月は総監議会でしたよね……ということは駐留軍が既に退去しているはずです」

「そう、そうよ……なんで忘れてたのかしら、こんな大事なこと……」

 キャリンの事で頭がいっぱいで、後回しにしてるつもりが完全に忘却の彼方にうっちゃってた……。

「あたし、オークの狙い知ってた……というか、知らされてたわ……」

 事情を知らない人間には婉曲に聞こえる物言いに、ルルは少し不思議そうな顔で首を傾げた。大きなトンガリ帽子が大袈裟に揺れる。

「どぅぃぅ事ですか? 何か心当たりがぁるんですか」

「うん、ある。あるけど確証はない」

「一応、聞かせて下さぃ」

「あまりにも荒唐無稽な話だったから話さずにいたんだけど――」

 言い掛けながら、いつの間にか止まっていた歩みを再開するべくルルに手を振って段差を降りた。ルルも心得て俺の後ろに従ってくれる。
 エリサと出会ったあの日の事を、俺はこの時初めて他人に打ち明けた。
 あの予言に、荒唐無稽かと思い悩んでもいられない現実感が伴ってきたからだ。
 ルルが出て行った後の出会いから別れまで、つぶさな説明にルルは口を差し挟む事なく耳を傾けてくれた。

「成程……確かにそれは一考に値する話かもしれませんね……」

「でも根拠がない」

「そうですね、信じるに足る情報がなぃ。ですが、それ以外の点に於ぃては――時間と場所と状況がぁる程度ちゃんと述べられてぃる。つまり、対処のしょぅがある」

「そう……ね、そうかも……」

「でぁればここで必要なのは選択です」

「選択……?」

「信じるか、信じないか、です」

 ああ、そうか……そういう事か。
 俺はどしたらエリサの話を、エリサの事を信じられるかってところばかりにこだわってた。
 信じるには証拠が薄い、でも信じたい、だけどこれが真実なら俺はどうすればいいのかわからない、だから信じたくない。それならどうやってエリサのことを信じればいい? 絶対的な証拠さえあれば……薄い根拠を裏付けるには――。
 そんな堂々巡りの中で、根本的なところをすっかり忘れ去っていた。

「あたしは……信じる」

「ルルも、信じます。でなぃと話が進みませんから」

 一拍おいて、ルルの咳払いが背後から聞こえた。愛らしかった響きは密室の階段室に反射往復して二人の靴音と絡み合い、不思議な音色に歪んでいく。

「目的はジノパーティの三人、キャリンさん、ヒャラボッカさん、ドズさんの発見です」

 言わずもがなだ。そのために急いでいる。

「これまでの痕跡から見て、三人はまだ大空洞の中にぃます。奥の方に逃げたか、通廊との連絡路付近で隠れて出るに出られなくなったか、それは定かではぁりませんが、大量のオークに見つからなぃょぅに息を潜めて彼らと接触するのは困難を極めるでしょぅ」

「でしょうね、となれば――」

「はぃ、大空洞でぁれば広さは十分です」

 そう、それは俺もさっき思い付いた。
 探すのが大変なら、向こうに見つけてもらえばいいのだ。
 じっとしてられないほどの派手なパフォーマンスでさ。

「あたしとルルの本領発揮ね」

「下手に隠れるょり、ここは打って出た方が安全です。どぅせ逃走経路の確保も必要なのですから、囲まれる前に囲ぃ込めなぃ程の大火力で出入り口から押し上げてぃけば、こちらの優勢も維持できますしどこかに隠れてぃるでぁろぅキャリンさん達にも狼煙代わりになりますからね」

「今までの説明の中じゃ一番わかりやすくてあたし好みだわ」

「問題は、出来れば初手に最大級の攻撃門晶術を放って先手を取りたぃところなんですが、オークが軍勢として大空洞の入り口を占拠してぃるのでぁれば唯一の出入口でぁるこの階段室は間違ぃなく見張りが建てられてぃると思われます。そぅなると不意を突ぃて一気呵成に攻め上がる勢ぃがゃゃ弱くなりそぅな不安がぁるのです」

「オークが? 見張りなんて立てるのかしら……」

 自分勝手で協調性の欠片も無いのが一般的なオークの性格だ。オークにもいろんな奴がいるんだろうが、そんな面倒な仕事を請け負う奴なんているのかね。

「軍勢の形態をとってぃる以上、オークを統率する上位種、オークキングが彼等の奥に控ぇてぃるはずです。勝手気儘が信条のオークは普段自由な分、協力するとなると蟻の様に厳密なヒエラルキーの元で行動します」

「オークキングって……結構厄介ね……一国の騎士団長並みの強さじゃなぃ」

「知能の方も戦法論に限れば兵団長並みにはぁりますからね、要所に見張り位は立てますょ」

「そんなのに出張られたら面倒ね、あんまり派手にするのも考え物かしら……」

「その心配は無ぃと思ぃますょ」

 あっさりと否定され、問いかける目で振り返る。ルルは階段を降りる足元に注意していて、俺の視線には気付かない。

「オークキングは大変権高な性分らしくて、多少自分の配下に被害が出た程度じゃ矢面には立たなぃのですょ。出た所でオークには士気を高揚させる信頼感とか英雄観の様なものは存在しなぃ訳で、将としてはさして脅威ではなぃのですけどね」

 だがちゃんと説明はしてくれた。さすが説明好き。

「その説明だけじゃよくわかんなかったけど、要はオークキングのねぐらを荒らさなきゃ出てくるようなことはないってことね」

「そゅことです」

「っていうかそもそも話が脱線してるわね、どうやってオーク達の不意を衝くかって話よ」

「そぅですねぇ……兵卒に使われるょぅなオークでぁれば命令以外までは気が回らなぃでしょぅし、入り口が一か所しかなぃとぃぅ思ぃ込みを逆用できれば良ぃのですが……実際一か所しかぁりませんしねぇ」

「入り口以外? んー……」

 そういえば降りてくる途中の壁が一部崩れてて、大空洞内部が見渡せるようになってたな。まあ、階段室の底と同じで何も見えない真っ暗闇だったけど。
 つまり数十メートル以上の高さがあるってことだよなぁ。飛び降りるのは辛いかぁ……。
 あ、だけど昔やったあれと組み合わせれば……ふむ、意外と……?

「そうね……イイコト思いついたかも」

 うん、面白い。これは試してみたい。
 そう思ったら顔がにんまりと笑みを作っていた。

「ルル、あたしに考えがあるわ」

 足を止めてヒョイッと身体を回転させる。
 ルルも降りるのを止め、顔を上げた。
 なんだか妙に強張った愛想笑いが浮かんでいた。

「考えって……さっきの独り言のイイコト……ですか……?」

「うん」 

「ぉねぃさまの云うイイコトに良ぃ記憶がとんと無ぃんですが……ってぃぅか悪ぃ予感しかしません」

「ズケズケ言うわね……」

 首を振って嘆息する態度はさすがに面白くない。
 二人して難しい顔と仏頂面を突き合わせたが、予想通りルルの方が先に折れた。こういう時、俺が頑固なのはルルも学習してくれたみたいだ。
 ひときわ大きい溜息を一つ漏らしてから、眉根を寄せたまま聞いてきた。

「それで、どんなイイコトなんですか」

「それはね――」

 説明が進むにつれてルルの渋い顔が自分の処刑方法を聞かされた死刑囚みたいな陰惨で思い詰めたものに変わっていくのを、俺はドヤ顔で見返して元来た階段を昇り始めたのだった。
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