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ゆっくり村の風景を見ることができたのもそこまでで、すぐに人だかりに囲まれた。武器を持った男たちが散るように命じているが、三年ぶりの来訪者はめったにない娯楽なのか人の数は増すばかり。
そのまま人々と一緒に移動すること数分、私たちは村の中央にある広場に建てられた集会所のような場所へと通された。私たちが入った途端に扉が閉められ、室内は暗闇で包まれる。
暗い……。
窓もなく、蝋燭の頼りない火が室内を淡く照らしているだけ。ようやく暗さに慣れた私の目に映ったのは、座布団に座っている十名ほどの老人たちだった。手前にある三つの座布団は、私たちの分として用意されたものなのだろう。
「どうぞおかけを」
「失礼します」
掛けられた声に従い、中央の座布団に正座する。迷いながら同じように座ろうとしたルゥとパステルには、数名の老人がしているように胡坐をかくように促す。二人がどうにか座り、私が前に向き直ったタイミングで、中央に座るご老人が口を開いた。
「私はトラヌス、この村の村長をしております。遠路はるばる来ていただき感謝申し上げる」
「私はシェリィ・ベルナールと申します。これもアナスタシア様が結んでくださった縁でしょう」
「良縁に恵まれたものです。今回の訪問だけではなく、毎年来ていただけるというのは本当なのですかな?」
「はい。そうお約束しました」
「いい関係を築ければな」
私が即答した答えに、隣にいたルゥが言葉を追加した。和やかな会話だったのに、なんで失礼なことを言うの……。
「感謝いたします。ベアーズには言い聞かせますゆえ、どうかご容赦を賜りたい」
「ルゥ、いい?」
ルゥは、ああと言いいながら頷いた。私やパステル以外の人にも、もう少し愛想よくできたらいいのに。
「それで、二通目の手紙に事情をお話ししたと書いてありますが……」
「はい。お聞きしました」
「……そうですか。この村のことはどうかご内密に」
「心得ております」
ご老人は目を閉じ、何度か頷くような仕草をする。目を開いた彼が左右にいる方々に目を向ければ、ご老人方はそれぞれ首を縦に振った。
「あなた方を信じることといたします。今日はお疲れでしょう。空き家を用意しますので、ごゆるりとお過ごしください」
老人がそう言ってから手を叩くと、扉が開けられた。私たちは立ち上がり、外に出る。こちらを睨みつけていた熊人族の横を通り過ぎようとしたとき、ルゥが彼に声をかける。
「ベアーズと言ったか。馬では持ってこれなかったため、川に鹿を沈めておいた。友好の印として受け取ってくれ」
「あ? 鹿だと?」
「ああ、そこそこ大きな鹿だ。台車を持って行った方がいい。お嬢、構わないか?」
「ええ。皆さんで召し上がってください」
誰に言付けようかと思っていたのに、まさかルゥがベアーズさんに伝えるなんて。これでわだかまりが解ければいいな。
「ベアーズ、せっかくの心付けだ。取りに行ってくれるか」
「あ、ああ」
奥から聞こえた長老様の声に、ベアーズさんは戸惑いながらも門の方へと向かった。
私たちは掃除が行き届いた家へと案内され、荷物を降ろしてほっと人心地が付いた。薪などは自由に使っていいと言われていたため、お言葉に甘えて湯を沸かし、身体を拭いて旅の埃を落す。
それから、土間で三人に食事を作っているときに、ふとルゥに話しかける。
「ルゥ、ベアーズさんのことありがとう。怒ってたでしょ?」
「お嬢の腕を取って連れて行こうとするなど万死に値する。が、お嬢は仕返しなど望んではいないだろう?」
「ええ、ルゥが守ってくれて無事だったし、私は何とも思っていないわ。長老の皆さんも、いい人そうだったしね」
「取引前に舌を出す詐欺師はいないにゃ。お嬢はもっと人を疑うことを覚えた方がいいにゃ」
それはそうなんだけど……パステルはちょっと疑いすぎじゃないかしら。
「恫喝した後に優しくするのも、悪者の常套手段にゃ」
「それって、もしかしてルゥのこと?」
確かにヤクザとかってそんなイメージがあるけど、ルゥはそんな人じゃない。
「そうにゃ。実際はルゥがそんなこと考えてるわけないけど、力自慢の熊人族に台車を持っていけって言うのは喧嘩を売ってると取られかねないにゃ。そのせいで、一つだけ不安があるにゃ」
ルゥの言葉のせいで不安になるようなこと? 誠実に言っていたと思うんだけど……。
「和解の機会をこちらから提示した。熊人族は恩知らずではないだろう」
そうだよね。人族の人も、ベアーズさんは仲間思いのいい人だと言ってたし。
「あいつ、鹿を一人で取りにいってたりしないかにゃ?」
「え……」
「む……」
私は二の句が継げず、黙り込んでしまう。なんだろう。台車を持っていくように伝えたし、そんなことないって言いたいけど……すごくありえそうな気がする。
「まあ、今更どうしようもないけどにゃ。」
パステルはそう言ってからからと笑った。伝えた方がいいとも思うんだけど、それはそれでベアーズさんのプライドを傷付けてしまいそうな気もする。
もやもやとした感覚を覚えながらも、私たちは明日に備えて休むことにした。特にルゥとパステルの二人は、野営時の見張り番を二人でしてくれていたから疲れが溜まっているはずだったから。
その日の夜中、門の方が騒がしくなったのは聞こえないフリをした。
翌日の午後、私たちは再度集会所へと来ていた。あれから準備を整えたのだろう、祭壇が設置されている。
この世界の宗教は様々あるが大元は一つであり、一神教かつ多神教の側面を持っている。唯一神がいるというわけではなく、数多くいる神々の中で一柱の教えを主に信仰する。もちろん、他の神々を蔑ろにすると言うわけではない。
そのため、こういった他種族が集まる祭事では、たくさんの神々を模した像が並ぶのが一般的なのだけれど──
「猫の部分がないにゃ!」
──様々な動物の部位を持った像が彫られる獣人神は少し特殊で、自分の種族の部位がないなんていうことが度々起きる。
「ひどいにゃ……」
尻尾を下げ、項垂れるパステル。全ての動物を組み入れるのはどうしても無理がある。落ち込む彼女をなだめているうちに、人が集まり始めた。私はルゥに彼女を任せ、祭壇の前に両膝をついて神々へと祈りを捧げる。
「では、これより職業発現の儀を始める。一人目、前へ」
五分ほどたったころ、長老さんが厳かな声で儀式の開始を宣言した。
そのまま人々と一緒に移動すること数分、私たちは村の中央にある広場に建てられた集会所のような場所へと通された。私たちが入った途端に扉が閉められ、室内は暗闇で包まれる。
暗い……。
窓もなく、蝋燭の頼りない火が室内を淡く照らしているだけ。ようやく暗さに慣れた私の目に映ったのは、座布団に座っている十名ほどの老人たちだった。手前にある三つの座布団は、私たちの分として用意されたものなのだろう。
「どうぞおかけを」
「失礼します」
掛けられた声に従い、中央の座布団に正座する。迷いながら同じように座ろうとしたルゥとパステルには、数名の老人がしているように胡坐をかくように促す。二人がどうにか座り、私が前に向き直ったタイミングで、中央に座るご老人が口を開いた。
「私はトラヌス、この村の村長をしております。遠路はるばる来ていただき感謝申し上げる」
「私はシェリィ・ベルナールと申します。これもアナスタシア様が結んでくださった縁でしょう」
「良縁に恵まれたものです。今回の訪問だけではなく、毎年来ていただけるというのは本当なのですかな?」
「はい。そうお約束しました」
「いい関係を築ければな」
私が即答した答えに、隣にいたルゥが言葉を追加した。和やかな会話だったのに、なんで失礼なことを言うの……。
「感謝いたします。ベアーズには言い聞かせますゆえ、どうかご容赦を賜りたい」
「ルゥ、いい?」
ルゥは、ああと言いいながら頷いた。私やパステル以外の人にも、もう少し愛想よくできたらいいのに。
「それで、二通目の手紙に事情をお話ししたと書いてありますが……」
「はい。お聞きしました」
「……そうですか。この村のことはどうかご内密に」
「心得ております」
ご老人は目を閉じ、何度か頷くような仕草をする。目を開いた彼が左右にいる方々に目を向ければ、ご老人方はそれぞれ首を縦に振った。
「あなた方を信じることといたします。今日はお疲れでしょう。空き家を用意しますので、ごゆるりとお過ごしください」
老人がそう言ってから手を叩くと、扉が開けられた。私たちは立ち上がり、外に出る。こちらを睨みつけていた熊人族の横を通り過ぎようとしたとき、ルゥが彼に声をかける。
「ベアーズと言ったか。馬では持ってこれなかったため、川に鹿を沈めておいた。友好の印として受け取ってくれ」
「あ? 鹿だと?」
「ああ、そこそこ大きな鹿だ。台車を持って行った方がいい。お嬢、構わないか?」
「ええ。皆さんで召し上がってください」
誰に言付けようかと思っていたのに、まさかルゥがベアーズさんに伝えるなんて。これでわだかまりが解ければいいな。
「ベアーズ、せっかくの心付けだ。取りに行ってくれるか」
「あ、ああ」
奥から聞こえた長老様の声に、ベアーズさんは戸惑いながらも門の方へと向かった。
私たちは掃除が行き届いた家へと案内され、荷物を降ろしてほっと人心地が付いた。薪などは自由に使っていいと言われていたため、お言葉に甘えて湯を沸かし、身体を拭いて旅の埃を落す。
それから、土間で三人に食事を作っているときに、ふとルゥに話しかける。
「ルゥ、ベアーズさんのことありがとう。怒ってたでしょ?」
「お嬢の腕を取って連れて行こうとするなど万死に値する。が、お嬢は仕返しなど望んではいないだろう?」
「ええ、ルゥが守ってくれて無事だったし、私は何とも思っていないわ。長老の皆さんも、いい人そうだったしね」
「取引前に舌を出す詐欺師はいないにゃ。お嬢はもっと人を疑うことを覚えた方がいいにゃ」
それはそうなんだけど……パステルはちょっと疑いすぎじゃないかしら。
「恫喝した後に優しくするのも、悪者の常套手段にゃ」
「それって、もしかしてルゥのこと?」
確かにヤクザとかってそんなイメージがあるけど、ルゥはそんな人じゃない。
「そうにゃ。実際はルゥがそんなこと考えてるわけないけど、力自慢の熊人族に台車を持っていけって言うのは喧嘩を売ってると取られかねないにゃ。そのせいで、一つだけ不安があるにゃ」
ルゥの言葉のせいで不安になるようなこと? 誠実に言っていたと思うんだけど……。
「和解の機会をこちらから提示した。熊人族は恩知らずではないだろう」
そうだよね。人族の人も、ベアーズさんは仲間思いのいい人だと言ってたし。
「あいつ、鹿を一人で取りにいってたりしないかにゃ?」
「え……」
「む……」
私は二の句が継げず、黙り込んでしまう。なんだろう。台車を持っていくように伝えたし、そんなことないって言いたいけど……すごくありえそうな気がする。
「まあ、今更どうしようもないけどにゃ。」
パステルはそう言ってからからと笑った。伝えた方がいいとも思うんだけど、それはそれでベアーズさんのプライドを傷付けてしまいそうな気もする。
もやもやとした感覚を覚えながらも、私たちは明日に備えて休むことにした。特にルゥとパステルの二人は、野営時の見張り番を二人でしてくれていたから疲れが溜まっているはずだったから。
その日の夜中、門の方が騒がしくなったのは聞こえないフリをした。
翌日の午後、私たちは再度集会所へと来ていた。あれから準備を整えたのだろう、祭壇が設置されている。
この世界の宗教は様々あるが大元は一つであり、一神教かつ多神教の側面を持っている。唯一神がいるというわけではなく、数多くいる神々の中で一柱の教えを主に信仰する。もちろん、他の神々を蔑ろにすると言うわけではない。
そのため、こういった他種族が集まる祭事では、たくさんの神々を模した像が並ぶのが一般的なのだけれど──
「猫の部分がないにゃ!」
──様々な動物の部位を持った像が彫られる獣人神は少し特殊で、自分の種族の部位がないなんていうことが度々起きる。
「ひどいにゃ……」
尻尾を下げ、項垂れるパステル。全ての動物を組み入れるのはどうしても無理がある。落ち込む彼女をなだめているうちに、人が集まり始めた。私はルゥに彼女を任せ、祭壇の前に両膝をついて神々へと祈りを捧げる。
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