罠に嵌められた悪役令嬢は流刑先の辺境で聖女と讃えられる

まるぽろ

文字の大きさ
10 / 24

1-10

しおりを挟む
 ゆっくり村の風景を見ることができたのもそこまでで、すぐに人だかりに囲まれた。武器を持った男たちが散るように命じているが、三年ぶりの来訪者はめったにない娯楽なのか人の数は増すばかり。

 そのまま人々と一緒に移動すること数分、私たちは村の中央にある広場に建てられた集会所のような場所へと通された。私たちが入った途端に扉が閉められ、室内は暗闇で包まれる。

 暗い……。

 窓もなく、蝋燭の頼りない火が室内を淡く照らしているだけ。ようやく暗さに慣れた私の目に映ったのは、座布団に座っている十名ほどの老人たちだった。手前にある三つの座布団は、私たちの分として用意されたものなのだろう。

「どうぞおかけを」

「失礼します」

 掛けられた声に従い、中央の座布団に正座する。迷いながら同じように座ろうとしたルゥとパステルには、数名の老人がしているように胡坐をかくように促す。二人がどうにか座り、私が前に向き直ったタイミングで、中央に座るご老人が口を開いた。

「私はトラヌス、この村の村長をしております。遠路はるばる来ていただき感謝申し上げる」

「私はシェリィ・ベルナールと申します。これもアナスタシア様が結んでくださった縁でしょう」 

「良縁に恵まれたものです。今回の訪問だけではなく、毎年来ていただけるというのは本当なのですかな?」

「はい。そうお約束しました」

「いい関係を築ければな」

 私が即答した答えに、隣にいたルゥが言葉を追加した。和やかな会話だったのに、なんで失礼なことを言うの……。

「感謝いたします。ベアーズには言い聞かせますゆえ、どうかご容赦を賜りたい」 

「ルゥ、いい?」

 ルゥは、ああと言いいながら頷いた。私やパステル以外の人にも、もう少し愛想よくできたらいいのに。

「それで、二通目の手紙に事情をお話ししたと書いてありますが……」

「はい。お聞きしました」

「……そうですか。この村のことはどうかご内密に」

「心得ております」

 ご老人は目を閉じ、何度か頷くような仕草をする。目を開いた彼が左右にいる方々に目を向ければ、ご老人方はそれぞれ首を縦に振った。

「あなた方を信じることといたします。今日はお疲れでしょう。空き家を用意しますので、ごゆるりとお過ごしください」

 老人がそう言ってから手を叩くと、扉が開けられた。私たちは立ち上がり、外に出る。こちらを睨みつけていた熊人族の横を通り過ぎようとしたとき、ルゥが彼に声をかける。

「ベアーズと言ったか。馬では持ってこれなかったため、川に鹿を沈めておいた。友好の印として受け取ってくれ」

「あ? 鹿だと?」

「ああ、そこそこ大きな鹿だ。台車を持って行った方がいい。お嬢、構わないか?」

「ええ。皆さんで召し上がってください」

 誰に言付けようかと思っていたのに、まさかルゥがベアーズさんに伝えるなんて。これでわだかまりが解ければいいな。

「ベアーズ、せっかくの心付けだ。取りに行ってくれるか」

「あ、ああ」

 奥から聞こえた長老様の声に、ベアーズさんは戸惑いながらも門の方へと向かった。

 私たちは掃除が行き届いた家へと案内され、荷物を降ろしてほっと人心地が付いた。薪などは自由に使っていいと言われていたため、お言葉に甘えて湯を沸かし、身体を拭いて旅の埃を落す。
 
 それから、土間で三人に食事を作っているときに、ふとルゥに話しかける。

「ルゥ、ベアーズさんのことありがとう。怒ってたでしょ?」

「お嬢の腕を取って連れて行こうとするなど万死に値する。が、お嬢は仕返しなど望んではいないだろう?」

「ええ、ルゥが守ってくれて無事だったし、私は何とも思っていないわ。長老の皆さんも、いい人そうだったしね」

「取引前に舌を出す詐欺師はいないにゃ。お嬢はもっと人を疑うことを覚えた方がいいにゃ」

 それはそうなんだけど……パステルはちょっと疑いすぎじゃないかしら。

「恫喝した後に優しくするのも、悪者の常套手段にゃ」

「それって、もしかしてルゥのこと?」

 確かにヤクザとかってそんなイメージがあるけど、ルゥはそんな人じゃない。

「そうにゃ。実際はルゥがそんなこと考えてるわけないけど、力自慢の熊人族に台車を持っていけって言うのは喧嘩を売ってると取られかねないにゃ。そのせいで、一つだけ不安があるにゃ」

 ルゥの言葉のせいで不安になるようなこと? 誠実に言っていたと思うんだけど……。

「和解の機会をこちらから提示した。熊人族は恩知らずではないだろう」

 そうだよね。人族の人も、ベアーズさんは仲間思いのいい人だと言ってたし。

「あいつ、鹿を一人で取りにいってたりしないかにゃ?」

「え……」

「む……」

 私は二の句が継げず、黙り込んでしまう。なんだろう。台車を持っていくように伝えたし、そんなことないって言いたいけど……すごくありえそうな気がする。

「まあ、今更どうしようもないけどにゃ。」

 パステルはそう言ってからからと笑った。伝えた方がいいとも思うんだけど、それはそれでベアーズさんのプライドを傷付けてしまいそうな気もする。

 もやもやとした感覚を覚えながらも、私たちは明日に備えて休むことにした。特にルゥとパステルの二人は、野営時の見張り番を二人でしてくれていたから疲れが溜まっているはずだったから。

 その日の夜中、門の方が騒がしくなったのは聞こえないフリをした。



 翌日の午後、私たちは再度集会所へと来ていた。あれから準備を整えたのだろう、祭壇が設置されている。

 この世界の宗教は様々あるが大元は一つであり、一神教かつ多神教の側面を持っている。唯一神がいるというわけではなく、数多くいる神々の中で一柱の教えを主に信仰する。もちろん、他の神々を蔑ろにすると言うわけではない。

 そのため、こういった他種族が集まる祭事では、たくさんの神々を模した像が並ぶのが一般的なのだけれど──

「猫の部分がないにゃ!」

 ──様々な動物の部位を持った像が彫られる獣人神は少し特殊で、自分の種族の部位がないなんていうことが度々起きる。

「ひどいにゃ……」

 尻尾を下げ、項垂れるパステル。全ての動物を組み入れるのはどうしても無理がある。落ち込む彼女をなだめているうちに、人が集まり始めた。私はルゥに彼女を任せ、祭壇の前に両膝をついて神々へと祈りを捧げる。

「では、これより職業発現の儀を始める。一人目、前へ」

 五分ほどたったころ、長老さんが厳かな声で儀式の開始を宣言した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

年の差にも悪意がみなぎりすぎでは????

頭フェアリータイプ
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢?に転生した主人公。でもこんな分かりやすい状況でおとなしく嵌められるはずもなく。。。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...