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幼さが残る年頃の男の子がおずおずと歩み出てきた。後ろに控えている両親の方を何度も振り返り、とても緊張しているのが分かる。
ちょっとだけお話しようかな。
「こんにちは。私はシェリィ、あなたのお名前は?」
「イ、イアンです」
びくりとしながら答えるイアン。私も緊張したから彼の気持ちはとてもよくわかるし、その様子を見た周りの大人がにこにことしていたのも今になればわかる。
「イアン、良い名前ね。誰が付けてくれたの?」
「お父さん」
「私の名前もお父様に付けてもらったの。イアンと一緒ね。ご両親のことは好き?」
「……うんっ」
イアンはもう一度振り返り、少し照れくさそうに答えた。うん、もう大丈夫。
「じゃあ、始めましょうか。イアン、目を閉じてお祈りを」
彼は瞳を閉じて跪き、両手を組んだ。魔道具であるロザリオを彼の額に近づけると、中央の魔石が青白く光る。これが、彼の身体に職業発現の準備が出来ていることの印。幼くても光ることはないし、既に職業を授かっている場合も光ることはない。
呪文などは特に必要なく、発動に必要なのは任意のタイミングで魔道具に魔力を通すことだけ。でも、マザーアンナはいつもこんな感じで言ってたっけ──
「──時は来たれり。神から授けられ、イアンの内に秘められし力よ目覚めたまえ。【開眼】」
言葉を発すると同時に、ロザリオに魔力を通す。ロザリオを通ったことによって変質した魔力はイアンへと染み渡っていき、その身体に変化を促す。土に植えた種が芽吹くように、春の温かさに触れた蕾が綻ぶように、彼の中に眠っていた才能が職業として発現する……のだそうだ。
はっきりとは分からないけれど、彼の中で何かが起こっていることはロザリオを通して伝わってくる。そしてその変化が完了したとき、私の頭の中に『狩人』という言葉が浮かんできた。
「イアン、あなたの職業は『狩人』。注意力や観察眼に優れ、山を駆ける体力を持ち、弓を操ることに長けた職業よ」
職業を告げた瞬間、わっと歓声があがる。皆が一斉にイアンを祝福する言葉をかける。あれは狩人の先輩たちだろうか、イアンは彼らから胴上げされながら、外に連れていかれた。
職業発現の儀はどこもこのように賑やか。厳かな儀式ではなく、皆で喜びを分かち合うお祭りだ。外れ職なんていうのはなく、どんな職業を授かっても誰もが祝福される。私はこの雰囲気が子供のころから大好きだった。
イアンの儀式が無事に終わった途端、子どもたちの顔が早く早くといったわくわくする表情に変わったのが可愛らしい。一人ひとりに対して順番にロザリオの力を発動させれば、『農民』、『大工』、『農民』、『鍛冶職人』、『槍士』、『農民』、『木工職人』……と子供たちは様々な職業を授かっていく。
このころには長老様に呼ばれる前に、順番の子が前に出るようになっていた。実は結構な量の魔力を消費するのだけれど、子供たちの嬉しそうな顔を見れば疲れなんか吹き飛んでしまう。
次に出てきたのは熊人族の少年で、その後ろにはベアーズさんが控えている。ベアーズさんは私に向かって僅かに頭を下げるような仕草をした後、長老様に向き直った。
「長老、すまなえ。やっぱり俺んとこは辞退させてもらう」
辞退? ベアーズさんのお子さんは十歳は随分前に過ぎているようなのだけど……。
「お前は前回もそう言ったな。理由はなんだ。行き違いはあったが、エルクを受け取っておいて、まだシェリィ殿を受け入れられないと申すのか」
長老様は少し怒った様子でベアーズさんを責めるように言った。前回も受けていないということは、三年前だから少なくとも十三歳にはなっている。儀式を行える年齢制限がある訳ではないけれど、早目にしておくにこしたことはない。
「全くないとは言えん。しかし、そんなことが理由じゃない」
「では何故だ」
「……偶然かもしれねえが、戦闘職が少ねえ。俺の家は戦士の家系。獣人神や戦闘を司る男神に仕える神官から告げられれば、非戦闘職でも諦めもつくってもんだが、アナスタシア様は慈愛や誠意といった言葉に象徴される母神だろう。それが、どうしても引っかかってんだ」
そうか、王都には大勢の神官がいたから問題にならなかったけど、確かにそれを気にする人は少なくなかった。
「シェリィ殿、そのようなことは起こりえるのか?」
「いいえ、元々授かっていた才能を発現させるための儀式のため、そのようなことはありません。ただ、ベアーズさんのおっしゃることはとてもよく分かります」
私もアナスタシア様に仕えるマザーアンナに儀式をしてもらうって決めてたもの。ベアーズさんを我儘だなんて言える訳がない。
「悪いな。決してあんたに他意がある訳じゃねえんだ」
「ありがとうございます。でも、少しだけ時間をくださいませんか?」
それでも、一番大事なのはベアーズさんの気持ちじゃない。この子の意思がどうなのかだ。
ちょっとだけお話しようかな。
「こんにちは。私はシェリィ、あなたのお名前は?」
「イ、イアンです」
びくりとしながら答えるイアン。私も緊張したから彼の気持ちはとてもよくわかるし、その様子を見た周りの大人がにこにことしていたのも今になればわかる。
「イアン、良い名前ね。誰が付けてくれたの?」
「お父さん」
「私の名前もお父様に付けてもらったの。イアンと一緒ね。ご両親のことは好き?」
「……うんっ」
イアンはもう一度振り返り、少し照れくさそうに答えた。うん、もう大丈夫。
「じゃあ、始めましょうか。イアン、目を閉じてお祈りを」
彼は瞳を閉じて跪き、両手を組んだ。魔道具であるロザリオを彼の額に近づけると、中央の魔石が青白く光る。これが、彼の身体に職業発現の準備が出来ていることの印。幼くても光ることはないし、既に職業を授かっている場合も光ることはない。
呪文などは特に必要なく、発動に必要なのは任意のタイミングで魔道具に魔力を通すことだけ。でも、マザーアンナはいつもこんな感じで言ってたっけ──
「──時は来たれり。神から授けられ、イアンの内に秘められし力よ目覚めたまえ。【開眼】」
言葉を発すると同時に、ロザリオに魔力を通す。ロザリオを通ったことによって変質した魔力はイアンへと染み渡っていき、その身体に変化を促す。土に植えた種が芽吹くように、春の温かさに触れた蕾が綻ぶように、彼の中に眠っていた才能が職業として発現する……のだそうだ。
はっきりとは分からないけれど、彼の中で何かが起こっていることはロザリオを通して伝わってくる。そしてその変化が完了したとき、私の頭の中に『狩人』という言葉が浮かんできた。
「イアン、あなたの職業は『狩人』。注意力や観察眼に優れ、山を駆ける体力を持ち、弓を操ることに長けた職業よ」
職業を告げた瞬間、わっと歓声があがる。皆が一斉にイアンを祝福する言葉をかける。あれは狩人の先輩たちだろうか、イアンは彼らから胴上げされながら、外に連れていかれた。
職業発現の儀はどこもこのように賑やか。厳かな儀式ではなく、皆で喜びを分かち合うお祭りだ。外れ職なんていうのはなく、どんな職業を授かっても誰もが祝福される。私はこの雰囲気が子供のころから大好きだった。
イアンの儀式が無事に終わった途端、子どもたちの顔が早く早くといったわくわくする表情に変わったのが可愛らしい。一人ひとりに対して順番にロザリオの力を発動させれば、『農民』、『大工』、『農民』、『鍛冶職人』、『槍士』、『農民』、『木工職人』……と子供たちは様々な職業を授かっていく。
このころには長老様に呼ばれる前に、順番の子が前に出るようになっていた。実は結構な量の魔力を消費するのだけれど、子供たちの嬉しそうな顔を見れば疲れなんか吹き飛んでしまう。
次に出てきたのは熊人族の少年で、その後ろにはベアーズさんが控えている。ベアーズさんは私に向かって僅かに頭を下げるような仕草をした後、長老様に向き直った。
「長老、すまなえ。やっぱり俺んとこは辞退させてもらう」
辞退? ベアーズさんのお子さんは十歳は随分前に過ぎているようなのだけど……。
「お前は前回もそう言ったな。理由はなんだ。行き違いはあったが、エルクを受け取っておいて、まだシェリィ殿を受け入れられないと申すのか」
長老様は少し怒った様子でベアーズさんを責めるように言った。前回も受けていないということは、三年前だから少なくとも十三歳にはなっている。儀式を行える年齢制限がある訳ではないけれど、早目にしておくにこしたことはない。
「全くないとは言えん。しかし、そんなことが理由じゃない」
「では何故だ」
「……偶然かもしれねえが、戦闘職が少ねえ。俺の家は戦士の家系。獣人神や戦闘を司る男神に仕える神官から告げられれば、非戦闘職でも諦めもつくってもんだが、アナスタシア様は慈愛や誠意といった言葉に象徴される母神だろう。それが、どうしても引っかかってんだ」
そうか、王都には大勢の神官がいたから問題にならなかったけど、確かにそれを気にする人は少なくなかった。
「シェリィ殿、そのようなことは起こりえるのか?」
「いいえ、元々授かっていた才能を発現させるための儀式のため、そのようなことはありません。ただ、ベアーズさんのおっしゃることはとてもよく分かります」
私もアナスタシア様に仕えるマザーアンナに儀式をしてもらうって決めてたもの。ベアーズさんを我儘だなんて言える訳がない。
「悪いな。決してあんたに他意がある訳じゃねえんだ」
「ありがとうございます。でも、少しだけ時間をくださいませんか?」
それでも、一番大事なのはベアーズさんの気持ちじゃない。この子の意思がどうなのかだ。
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