捨てられ令嬢は、騎士団に拾われる

太もやし

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捨てられ令嬢、騎士団に入る

アティ、癒される

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 ハロルドは自分の執務室に案内した。執務室の隣にある続き部屋は宿泊用の部屋で、執務室の固い雰囲気とはうって違って家庭的な雰囲気があった。

「ウィル、君には着替えの準備を頼むよ。既製品なら彼女のサイズはSだろう。マダム・トゥリーの店で買ってきてくれ」
「分かりました」

 ハロルドは騎士服の内ポケットから財布を取り出すと、ウィルに渡した。ウィルはそれを受けとり、部屋から出ていった。
 アティはマダム・トゥリーという名前に驚いていた。それは学内でも有名だった婦人服の名店なのだ。

「ディーンは大急ぎで湯を張ってくれ。普通にお湯を貯めるのは、時間がかかるからね」
「分かりました。じゃあ、ちょっと失礼します」

 ディーンは胸元から宝石を取り出して、浴室へ向かった。どうやって湯を貯めるのかとアティは思ったため、ディーンの姿を目で追った。

「イザークは軽食を準備してもらうよう私の名前を使って食堂に頼んでくれ。温かいスープも頼むよ」
「了解っす。行ってきます」

 イザークは頼まれたことが嬉しそうに、尻尾をぶんぶんと振った。そして駆け足で部屋から出ていったのだった。

 そして浴室にいるディーンが、宝石に何か囁くと宝石から水色の魔方陣が浮かび上がった。
 アティはディーンが魔術士だったことを知る。

 数多の魔方陣を駆使し、膨大な魔力を魔術に変換する魔術士は、専門知識と魔力が物を言う職業なのだ。
 失礼な話だが、アティは彼の性格とのギャップに少し驚いた。

 魔方陣から出る温かな水が、バスタブを満たしていく。その速さは目を見張るものがあった。
 そして適量まで貯めると、ディーンは宝石に囁いて魔方陣を消した。

「それじゃあ、私たちは向こうに……と、その前にこのシャワーの使い方は分かるかい?」

 アティはバスタブに近寄り、装置を見た。どうやらそれは最新式らしく、旧式しか使ったことのないアティは困り顔でハロルドを見た。
 ハロルドはアティが物言う前に悟り、彼女の側に行くと丁寧に説明した。

「ありがとうございます、えっと……」
「ああ、自己紹介がまだだったね。私はハロルド・アマースト。この第2騎士団副団長の任を預かっているんだ」

 アティは人の紹介もなく自己紹介したハロルドに少し驚いたが、失礼しないように自分も挨拶することにした。
 もしかして、ディーンさんとイザークさんに失礼してしまったのかしら。アティは少し気まずくなった。

「初めまして、ハロルドさん。アティ・フラメルです」

 そしてアティはお辞儀をした。ハロルドは優しく微笑むと、上品にお辞儀を返す。

「では、お嬢様。あちらにいますので、何かご用があればお呼びください。それでは、ごゆっくりどうぞ」

 その芝居がかった台詞に、アティはまるで自分がお姫様になった気分だった。
 そして、ハロルドとディーンは部屋を出ていった。

 アティは久方ぶりの湯船を思うがままに満喫したのだった。



 アティが浴室から出ると、いつの間に置いたのだろうか脱衣室に服が置いてあった。
 アティは清潔な服に袖(そで)を通す。

 それは可愛らしいデザインで、白地に黄緑色のストライプが入っている生地は初夏の爽やかな雰囲気にぴったりだった。
 ハイウエストの位置についているリボンと、髪を結ぶためのリボンは、アティの瞳と同じ新緑色だった。

 そして誰もいない部屋を通り抜け執務室に行くと、ハロルドが仕事をしていた。
 アティが扉を開けた小さな音が聞こえると、ハロルドは顔を上げ優しく微笑んだ。

「さっぱりしたかい?」

 アティもつられるように、ニコリと笑った。

「はい、すごくいい気分です。ありがとうございました」

 そしてハロルドは執務椅子から立ち上がり、アティをソファーに座るよう勧めた。そのソファーは、とても柔らかでアティの体は軽く沈んだ。

 ソファーの前にある机には、銀製のフードカバーとオレンジジュースが入ったピッチャーが置いてあった。ハロルドがフードカバーを持ち上げると、サンドイッチとスープが中に入っていた。

「さあ、食べて。味は保証するよ」

 ハロルドはアティの机を挟んだ反対側に座った。
 アティのお腹は正直で、美味しそうな食事に音を出して主張する。彼女は恥ずかしそうにお腹を押さえたが、ハロルドはなにも聞いていないとばかりに微笑んでいる。

 アティはその優しさに感謝しつつ、優雅に見えるが素早いスピードでスープに手をつけた。

「……おいしい」

 それはトマトの味がほのかに主張する、さっぱりとしたスープだった。温かなスープは体に染み渡り、体の内側から暖めてくれた。

 そして半熟卵の黄色が美しいオムレツは、チーズとバターが入っており、ふんわりとしていておいしかった。

 普段は少食なアティだが、美味しさのおかげで出されたものを全て食べることができた。

「ごちそうさまでした」
「美味しそうに食べてくれて、料理人も喜んでいるよ。君の顔色が良くなってよかった」

 アティの頬は健康的な朱色がさし、柔らかな雰囲気になっていた。
 そんなアティはハロルドに微笑んでお礼を言おうとしたが、思わず、あくびをしてしまった。
 そんなアティを見て、ハロルドは優しい兄のように笑った。

「あとは、少し眠った方がいいね。エドワードが帰ってくるまで、まだ時間があるから、隣の部屋で少し休んでくるといい」
「ええ、ありがとうございます、ハロルドさん。少し休ませていただきますわ」

 そしてアティは隣の部屋に戻った。
 アティは大きなベットに寝転ぶ。その包み込むような柔らかい感触は、彼女が夢の国に旅立つための最良のエッセンスだった。
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