捨てられ令嬢は、騎士団に拾われる

太もやし

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捨てられ令嬢、騎士団に入る

アティ、目を白黒させる

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 アティが目覚めると、朝になっていた。大急ぎで、服の皺(しわ)や髪の毛を整え、ハロルドの執務室に行く。

「ああ、起きたんだね。気分はどうだい?」

 ハロルドはまだ仕事をしていたようで書類から顔を上げると、アティに爽やかに微笑みかけた。
 アティはその言葉で気持ちや体が軽やかになっていることを気づいた。

「とても良い気分です。でも……」
「でも? ……ああ、時間なら大丈夫だよ」

 ハロルドは一瞬、怪訝(けげん)な顔をしたが、すぐに気づくと優しく微笑んだ。
 何と言えばいいか悩んでいたアティは、ハロルドが言いたいことを分かってくれてホッと胸を撫で下ろした。

「むしろ、ちょうど良い時間に起きてくれてよかった。エドワードは、ついさっき監獄から帰ってきたばっかりなんだ」
「監獄?」
「ああ、君を監禁していた奴らを絞り上げてたんだよ。何しろ人数が多くてね、手間と時間がかかってしまったんだ……こちらこそ、君を待たせて悪かったね」

 ハロルドは真摯な表情で、アティに断りを入れた。
 年上で身分の高い男性に謝られたアティは両手を振って、遠慮した。

「いえ、気にしないでください。私も、たくさん眠らせていただきましたから」
「気を使わせてしまってすまないね」

 そしてハロルドは執務椅子から立ち上がると、アティのそばにきた。

「エドワードは君から直接、捕らえられた話を聞きたいようなんだ。言いづらい話なら女性を呼ぶけど、大丈夫かい?」

 心配そうなハロルドに、アティは微笑む。なんだかハロルドさんといると、安心できるわ。彼女はそう思った。

「ええ、大丈夫です」
「ありがとう、君の協力に感謝するよ」

 そしてアティはハロルドに連れられ、団長執務室へ向かった。

「エドワード、入るぞ」

 アティとハロルドが部屋に入ると、エドワードは執務机の上にある書類とにらみ合いしている最中だつた。
 彼はすぐに顔を上げ、天の助けとばかりに大きく口を開けて笑った。

「おお、ハロルドか。何の……ああ、フラメル嬢、気分はどうだ?」

 エドワードは大股ですぐに扉の前に来ると、アティの顔色をうかがう。
 アティは近くで見る彼の顔と体に驚いた。

 アティより何倍も大きな体に、均整のとれた筋肉、太い首、ごつさはあるが整った顔立ち、エドワードは博物館にある英雄の彫刻のような男性だったのだ。短い髪は漆黒のような黒色で、夜のように黒い瞳には星が煌(きら)めいており、意思の強さを伺わせた。

「うん、昨日よりだいぶん良い顔色だな。すぐに健康的な体を取り戻せるだろう。さあ、こちらへ来てくれ」
「ええ、ありがとうございます」

 そしてアティは男性の中の男性に圧倒されながらも、団長執務室の続き部屋にある応接室に通された。

 応接室には、3人掛けの大きなソファーが2つと1人用の上品なソファーが置いてあった。壁紙は爽やかな水色で、人が通れるほど大きな窓は太陽の光をふんだんに取り入れており、部屋を明るくしていた。

 アティはエドワードに1人用のソファーを勧められ、そこに座った。
 ついてきたハロルドは、エドワードが座っている3人掛けの大きなソファーの後ろに立っている。

「昨日お会いしたが挨拶するのは初めてだな、フラメル嬢。私はエドワード・ホーク。王立第2騎士団の団長の任を預かっている」

 野太い声で挨拶するエドワードに、アティは声を張って答える。

「昨日はありがとうございました、エドワードさん。私はアティ・フラメルです。よろしくお願いします」

 2人はお辞儀した。そしてエドワードが口を開こうとしたところで、扉が大きな音を立てて開いた。エドワードとハロルドは顔をしかめて、アティは驚きによる無防備な表情で、扉を開けた男性を見た。

 そこには黒いローブを纏(まと)った長身痩躯の男性がいた。アティはこの騎士団には端正な顔立ちの男性しかいないのかしら、と頭の隅で思った。

 眉間にシワを寄せた彼は、冬の精霊と勘違いしてしまうほど美しく端正な顔立ちをしていた。切れ長の形をした薄水(うすみず)色の瞳は知性に満ちており、白金に近い金色の髪は鋭さを感じさせる。

「どうした、バート」

 バートと呼ばれた男性バートニウス・クレンツは、ズカズカと部屋に入ってくる。そしてアティの目の前で止まった。

 バートは瓶をローブから取り出し、アティの顔の前に出した。彼女はおののきながらも、バートの綺麗な顔と水色の液体が入った瓶の間で、視線を何度も往復させる。

「このポーションを作ったのは君か?」
「おい、バート。フラメル嬢が驚いているじゃないか」
「そうだ、バート。少し離れなさい」

 エドワードとハロルドがバートをたしなめるが、バートはアティから視線を外すことはなかった。

「その瓶が地下室にあったものなら、私が作ったポーションが入っていると思いますけど……」

 アティは熱い視線に胸を高鳴らせながら、おずおずと答えた。すると、バートに肩をがっしりと掴まれた。彼の大きな手に、彼女の心臓は大きく飛び跳ねる。

「これは類を見ないほど素晴らしいポーションだ。HPポーションとMPポーションを兼用しているところが素晴らしい。そして状態異常回復と士気向上は、普通のポーションには付けられない効果だから、驚いたよ。いったい、どんなレシピを使っているんだい? それに付与効果も素晴らしかった。美味しいということは、何より大事なことだからね。きっと君には錬金術の才能があるんだろう。僕の名前はバート。君、僕と錬金術について意見を交換し合わないか? 君と僕の力を合わせれば、もっと素晴らしいものができると思うんだ」

 バートは早口でまくし立てるように、そう言った。その言葉にアティは目を白黒させるだけで何も言えず、エドワードは額に手を当てて、ため息をついた。

「すまない、フラメル嬢。そいつは錬金術のことになると歯止めがきかないんだ」
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