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捨てられ令嬢、騎士団に入る

アティ、ノーブル大通りを歩く

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 アティたちは、エドワード行きつけの店に行くために、第2騎士団の隊舎の近くにある大通りを歩いていた。
 アティはこの通りを歩いたことがなかったため、周りの景色をよく見ようと辺りをキョロキョロと見回している。

「アティ、どうかしたか?」

 アティの隣を歩くウィルが、彼女を不思議そうに見る。そんな彼に、アティは思ったことを正直に話した。

「ここは、お店が多い通りなんだなと思ったんです。武器屋に鍛冶屋は隊舎が近いから分かりますけど、優雅な仕立て屋にお菓子屋まであるなんて、すごい組み合わせだなって」
「ここは騎士団の隊舎より、貴族の邸宅が立ち並んでるノーブル地区の方が近いからな。武器屋も貴族の娯楽向けのレイピアしか売ってないはずだ」
「そうなんですね。じゃあ、ここがあの有名なノーブル大通りなんですか?」

 長期休暇が終わり、学校に帰ってきた学友たちがしていた、ノーブル大通りで新しいドレスを仕立てた話やチョコを買って持ってきたという話を、アティは思い出した。そんな話にいつも入れず、さみしい思いをしたことも。

「有名かは知らないが、ここがノーブル大通りだな……あんたが来たいなら何度だって連れてきてやる」
「え?」

 アティは自分の顔を大急ぎで触った。そんなに顔に出ていたかしら。

「なんとなく思っただけだ。そんなに焦らないでいい」

 ウィルは朝焼け色の瞳を楽しげな色に染めていた。唇はどことなくゆるみ、嬉しそうだ。
 そんなウィルの背後から猛スピードで近寄ってくるぬいぐるみがあった。

「良からぬ気配を察知しましたよ! ウィル殿、姫様に近づきすぎです!」

 セドリックはウィルの頭の周りを飛び、可愛らしい牙を剥いて威嚇する。

「あんた、ぬいぐるみなのに、なんで口があるんだ?」
「その辺りは精霊の力です!」

 セドリックは腰に手を当て、自信満々に言った。
 そして、そんな彼を追いかけてバートがアティたちの元へやってくる。

「セドリック、話は終わってないぞ。あれが精霊の作った魔方陣なら、それを破ったディーンは快挙を成したことになる。精霊の祝福があって当然だ。君から祝福を与えてくれることを頼むよ」

 バートは真剣な顔で頼んでいた。後ろでずっと話し込んでいるとアティが思っていたら、そんな話をしていたようだ。

「それはもちろん、そうですが……姫様、よろしいですか?」
「私? ええ、きっと素晴らしいことだから、お願いするわ。素敵な祝福をお願いね」
「では、僭越ながらわたくしから祝福をお送りすることを約束します」

 そして、先頭を歩いていたエドワードたちが止まった。目的の店に着いたのだ。
 その店はノーブル大通りでは珍しくこぢんまりとしている。真っ白な土壁は夜の闇の中でガス灯の明かりに照らされて美しく輝いていた。

 エドワードが連れだって店の中に入ると、人の良さそうな店員が現れて個室に案内される。

 そして、団長である彼の乾杯の合図から宴会は始まった。

「アティくんとバートのアイテム作成、ディーンの解呪、両方を祝して……乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」

 全員が声を合わせて言ったあと、グラスをぶつけ合う。

「か、かんぱい!」

 アティはそれに少し遅れて、精一杯の大きな声を出すのだった。
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