ライオンガール

たらこ飴

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第1章〜サーカス列車の旅〜

第26話 一か八か

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 アスンシオンを発った列車は翌日ボリビアのスクレに到着した。

 駅に着いたのは昼前だった。まだテントの準備までは時間があるので、ジェロニモに連れられて郵便局へ向かった。すごく大きなバッグを担いでいたから理由を尋ねると、「すぐ分かるよ」と彼は笑顔で答えた。

 郵便局には、団員の家族からの手紙や荷物が局留めで沢山届いていた。ジェロニモは窓口で受け取ったエアメールや荷物を一つずつバッグに詰めた。

「各場所で公演の日程が決まってるから、それに合わせてみんなの家族が母国から送ってくれるんだ」

 家族と離れて生活している団員の寂しさや心細さ、遠くの国から我が子を思う親の気持ちに思いを馳せた。もしサーカスでパフォーマーとして頑張っている家族がいたとして、私が彼らの親兄弟であったら、怪我や病気をしていないか、仲間と上手くやれているか、ちゃんとご飯を食べれているかなど心配が尽きないだろう。

 そんなことを考えていたら、無性に家に電話をかけたくなった。母の声が聴きたかった。

 郵便局を出てジェロニモにお金を借り、公衆電話から家に電話をかけたが繋がらなかった。留守電のメッセージすら流れない。電話が故障してでもいるのだろうか。

 私の手紙が届いていること、母や祖母が元気でいてくれることを祈った。
 
 スクレ、ラパスでの3日間ずつの公演を終えた後はブラジルのサンパウロに向かった。その次はリオ、ブラジリア、サルバドール等ブラジルの主要都市を2週間以上かけて巡った。ブラジルでは多くの都市でサーカスの動物使用が禁止されているので、動物たちにとっては長い休暇となった。その間も列車にすし詰めにはしておけないので、許可を取って夜間や早朝に会場の外で場所を確保してテントの中や外を散歩させたり、身体を洗ってやったりトレーニングをさせる。もちろん逃げないように厳重な注意を払いながら。

 サン・ルイスに着く頃には、綱渡りが半分くらいまでできるようになっていた。

 そうこうしているうちに季節は秋から冬に移り変わり、5月半ばになると朝方や夜の冷え込みが少しずつ厳しくなってきた。車窓の外を通り過ぎる景色もうら淋しく、木々からは落ち葉が散って、山間部の畑や田んぼは色を失って干からびている。

 ショーを重ねるたびクラウンとしてサーカスに出たいという気持ちは高まるばかりだったが、ピアジェに反対されることを見越して動けずにいた。だがサン・ルイスでの公演の時には、気持ちは抑えきれないレベルにまで達していた。
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