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第2章〜クラウンへの道〜
第32話 探求
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次の時間、ジュリエッタと一緒にクローゼットで帽子を選んだ。ピアジェから助けてもらったお礼を伝えたら、「あんなの朝飯前よ、あの男にはいつも目を光らせてるの」といつになく神妙に言い、「じゃあ、帽子を選んで被ってみて、どれが似合うか鏡に映してみましょう」と微笑んだ。
帽子置き場にはハット、鳥打帽、丸型のキャップ、冠まで色んな種類がある。
そういえばタイトルをすっかり忘れてしまったけれど、小学生のときオーロラにあげた誕生日プレゼントの中に、色んな種類の帽子を木にかけて売る帽子屋さんが出てくる本があったっけ。お客さんが欲しいと言った帽子を、棒で取って落としてやる。あの木の帽子屋さんなら、欲しいものがすぐに見つかりそうな気がする。
頭で考えるよりもまず手に取って被ってみよう。一番しっくりきて楽しい気持ちになるのがいいに決まってる。
私は被っていたベースボールキャップを脱いでテーブルに置き帽子の試着を始めた。まず鳥打帽。ジェロニモが被っている茶色のものとは違う、黒と白の大きなブロックチェックの柄だ。被って鏡に映してみたら、髪の色とも今の服装ともよく合っていてなかなかいい感じだ。
「あら、似合うじゃない」
試しにそれで今日習ったクラウンウォークをしてみたり、人差し指でくるくると回して宙に放って頭でキャッチしてみたり、羽音を響かせて高速で飛んできたゴキブリを捕まえてみたりした。
「ぎゃ~、やめて!!」
ジュリエッタは蒼白になって叫んだ。結局ゴキブリは帽子から逃げ出してテーブルに着地し、ジュリエッタに丸めた映画雑誌で成敗された。
次に茶色い縦長の皺くちゃのデザインのハットを手に取る。この中に何か隠してみようかと考えた直後、ジュリエッタの手に持っていたミニチュアの猿のコリンズ人形が目に入った。もしや、アルフレッドが作ったやつじゃないだろうか。
私の視線に気づいたジュリエッタは、微笑んで猿の人形を手渡した。そのコリンズは、イギリスのガーズマンの格好をしていた。黒い縦長の大きな熊毛帽を被り、8つの銀色のボタンのついた赤い制服を着ている。
「それね、アルフがくれたの。衣装を作って着せてるのは私。他にも色々な衣装があるわ」
「すごいや、これみんな君が作ったの?」
「ううん、私が作ったのは4分の1くらいのものよ。前はアンジェラっていう人が衣装作りをしてたの。ピアジェの奥さんね。すごく器用で多才な人だった。ピアノも得意で作詞や作曲もできて、料理も上手だったわ」
あの団長にはもったいない。もしあの男が同じクラスにいたら絶対に友達になりたくないし、付き合うなんてもってのほかだ。
私は試しにミニチュアのコリンズに宇宙飛行士の格好をさせてみた。このミニチュアの服はウケ狙いで作ったのかもしれないけれど、なかなかイカしてる。
次にミニチュアのコリンズを頭に被ったロングハットの中に隠してみた。
「手品風に出して子どもにあげたりしたら喜ぶかもしれないよね」
「そうね、いい考えだわ」とジュリエッタも賛同してくれた。
しかし、このロングハットの使い道が私の足りない頭では他に浮かんでこない。鳩を2匹入れるとかできるかもしれないけれど、うちに鳩はいないしそんな手品をやる予定もない。第一、コリンズ人形くらいの大きさのものを隠すだけなら普通の大きさのハットでも事足りそう。
他にもシュークリームを半分にしたみたいな円形の帽子や、赤いもこもこの毛糸の帽子、先に白い玉のついた、パーティーで被るようなカラフルなボーダーのとんがり帽子もあった。それらを一つ一つ被って鏡に映してポーズをとったり歩いてみたけれど、どれもしっくりこない。
俄かに隣の車両が騒がしくなってきた。一度中断して見に行くと、通路でジャンがコリンズと追跡劇を繰り広げていた。
「誰かコリンズを捕まえてくれ!! 俺の食べてたホットドッグを取りやがった!!」
コリンズはキキキッとご機嫌な声をあげ走り回っている。右手にはホットドッグが握られ、見せびらかすようにして齧り付いた。
「食うな、コリンズ!! それは俺のだ!!」
すばしっこい悪戯小猿は捕まえようとしたジュリエッタの脚の間をくぐり抜け、私の頭を跳び箱のように超えてクローゼットに侵入した。
「まずい!! クローゼットに入っちゃったわ!! 前にも服に悪戯されたのよ、ソースで汚れたら大変!!」
コリンズは壁にかけられたシェルフに飛び乗り、端の一番高い場所にあるシェルフまで一瞬のうちに駆け上がった。
「こら、降りてこいコリンズ! ジャンにホットドッグを返せ!」
「ネロ、もういいよ」とジャンは諦めたみたいに私の肩を叩いた。
高い場所から我々を見下ろしたコリンズは、キキキキッと楽しそうに鳴いたあと隣のシェルフに飛び移った。
そのはずみで何か緑色のものが落ちてきて、私の頭にスポッと被さった。ついでに埃のせいでくしゃみが出た。
何だろうと思って手に取ると、緑色のカボチャのような丸い可愛らしいフォルムのコットン製のベレー帽だった。真ん中にヘタのような2センチくらいの紐が付いている。埃まみれだけれど被り心地は良いし、程よく重みもあり膨らんでいるからいろんなことに使えそうだ。
「それね、昔アンジェラがお洒落で被ってたやつなのよ」とジュリエッタが懐かしそうに目を細めた。
「あなたによく似合ってるわ」
コリンズはシェルフの上でホットドッグを完食し、ゆっくりと下りてきて迎えにきたアルフレッドの肩に乗って一緒にいなくなった。
「俺のホットドッグ……」
項垂れて泣きそうなジャンを、ジュリエッタが「今度作ってあげるから」と慰めた。
不意に、ハンガーラックに掛けられた臙脂色の羽織が目に入った。黄色、青、緑、黒、白という色を使い、カラフルな丸い打ち上げ花火の模様が描かれている。
「それは、ずっと前に日本公演に行ったときに着たのよ」
それを取って鏡の前であててみたら、「いいわね、すごくあなたに似合うわ。男の子にも女の子にも見えるわね」とジュリエッタは絶賛した。
「いい……いい!! 着物いい!! それ着ろよ!! この辺に和装のピエロなんていないからさ、絶対目立つよ!!」
ジャンは何故が興奮している。
すると考える間もなく、頭の中に鮮明なイメージが浮かんできた。私が衣装を着てリングの真ん中に立っているイメージだ。
「降りてきた! 衣装のイメージが! 忘れないうちに描いてしまわないと!」
私はジャンとジュリエッタが何か話している間、色鉛筆を借りて衣装案を紙に書いた。
中は灰色の着物で、下は足首くらいの丈の黒い袴。足には足袋と下駄を履く。これで完璧だ。何故和服の知識があったかというと、大学に日本の伝統舞踊の講師の先生がいて、日本舞踊の講義を選択していたからだ。他の講義よりもむしろその講義が楽しくて好きだった。綺麗な柄の着物を着るのも踊るのも楽しかった。
和装なんて今まで頭になかったし、むしろ動きにくいかもしれないけれど、慣れればきっと大丈夫だと楽天的に考えることにする。
ジュリエッタは出来上がった衣装案を眺めて、「ふむ……いいわね」と頷いた。覗き込んだジャンも「すげー、かっこいいよこれ!」と絶賛してくれた。
「時間はかかるかもしれないけど、頑張って作ってみるわ」
「ありがとう、ジュリー!」
「ふふ、あなたのためだもの。腕を振るうわ」
ジュリエッタの存在に心から感謝した。
帽子置き場にはハット、鳥打帽、丸型のキャップ、冠まで色んな種類がある。
そういえばタイトルをすっかり忘れてしまったけれど、小学生のときオーロラにあげた誕生日プレゼントの中に、色んな種類の帽子を木にかけて売る帽子屋さんが出てくる本があったっけ。お客さんが欲しいと言った帽子を、棒で取って落としてやる。あの木の帽子屋さんなら、欲しいものがすぐに見つかりそうな気がする。
頭で考えるよりもまず手に取って被ってみよう。一番しっくりきて楽しい気持ちになるのがいいに決まってる。
私は被っていたベースボールキャップを脱いでテーブルに置き帽子の試着を始めた。まず鳥打帽。ジェロニモが被っている茶色のものとは違う、黒と白の大きなブロックチェックの柄だ。被って鏡に映してみたら、髪の色とも今の服装ともよく合っていてなかなかいい感じだ。
「あら、似合うじゃない」
試しにそれで今日習ったクラウンウォークをしてみたり、人差し指でくるくると回して宙に放って頭でキャッチしてみたり、羽音を響かせて高速で飛んできたゴキブリを捕まえてみたりした。
「ぎゃ~、やめて!!」
ジュリエッタは蒼白になって叫んだ。結局ゴキブリは帽子から逃げ出してテーブルに着地し、ジュリエッタに丸めた映画雑誌で成敗された。
次に茶色い縦長の皺くちゃのデザインのハットを手に取る。この中に何か隠してみようかと考えた直後、ジュリエッタの手に持っていたミニチュアの猿のコリンズ人形が目に入った。もしや、アルフレッドが作ったやつじゃないだろうか。
私の視線に気づいたジュリエッタは、微笑んで猿の人形を手渡した。そのコリンズは、イギリスのガーズマンの格好をしていた。黒い縦長の大きな熊毛帽を被り、8つの銀色のボタンのついた赤い制服を着ている。
「それね、アルフがくれたの。衣装を作って着せてるのは私。他にも色々な衣装があるわ」
「すごいや、これみんな君が作ったの?」
「ううん、私が作ったのは4分の1くらいのものよ。前はアンジェラっていう人が衣装作りをしてたの。ピアジェの奥さんね。すごく器用で多才な人だった。ピアノも得意で作詞や作曲もできて、料理も上手だったわ」
あの団長にはもったいない。もしあの男が同じクラスにいたら絶対に友達になりたくないし、付き合うなんてもってのほかだ。
私は試しにミニチュアのコリンズに宇宙飛行士の格好をさせてみた。このミニチュアの服はウケ狙いで作ったのかもしれないけれど、なかなかイカしてる。
次にミニチュアのコリンズを頭に被ったロングハットの中に隠してみた。
「手品風に出して子どもにあげたりしたら喜ぶかもしれないよね」
「そうね、いい考えだわ」とジュリエッタも賛同してくれた。
しかし、このロングハットの使い道が私の足りない頭では他に浮かんでこない。鳩を2匹入れるとかできるかもしれないけれど、うちに鳩はいないしそんな手品をやる予定もない。第一、コリンズ人形くらいの大きさのものを隠すだけなら普通の大きさのハットでも事足りそう。
他にもシュークリームを半分にしたみたいな円形の帽子や、赤いもこもこの毛糸の帽子、先に白い玉のついた、パーティーで被るようなカラフルなボーダーのとんがり帽子もあった。それらを一つ一つ被って鏡に映してポーズをとったり歩いてみたけれど、どれもしっくりこない。
俄かに隣の車両が騒がしくなってきた。一度中断して見に行くと、通路でジャンがコリンズと追跡劇を繰り広げていた。
「誰かコリンズを捕まえてくれ!! 俺の食べてたホットドッグを取りやがった!!」
コリンズはキキキッとご機嫌な声をあげ走り回っている。右手にはホットドッグが握られ、見せびらかすようにして齧り付いた。
「食うな、コリンズ!! それは俺のだ!!」
すばしっこい悪戯小猿は捕まえようとしたジュリエッタの脚の間をくぐり抜け、私の頭を跳び箱のように超えてクローゼットに侵入した。
「まずい!! クローゼットに入っちゃったわ!! 前にも服に悪戯されたのよ、ソースで汚れたら大変!!」
コリンズは壁にかけられたシェルフに飛び乗り、端の一番高い場所にあるシェルフまで一瞬のうちに駆け上がった。
「こら、降りてこいコリンズ! ジャンにホットドッグを返せ!」
「ネロ、もういいよ」とジャンは諦めたみたいに私の肩を叩いた。
高い場所から我々を見下ろしたコリンズは、キキキキッと楽しそうに鳴いたあと隣のシェルフに飛び移った。
そのはずみで何か緑色のものが落ちてきて、私の頭にスポッと被さった。ついでに埃のせいでくしゃみが出た。
何だろうと思って手に取ると、緑色のカボチャのような丸い可愛らしいフォルムのコットン製のベレー帽だった。真ん中にヘタのような2センチくらいの紐が付いている。埃まみれだけれど被り心地は良いし、程よく重みもあり膨らんでいるからいろんなことに使えそうだ。
「それね、昔アンジェラがお洒落で被ってたやつなのよ」とジュリエッタが懐かしそうに目を細めた。
「あなたによく似合ってるわ」
コリンズはシェルフの上でホットドッグを完食し、ゆっくりと下りてきて迎えにきたアルフレッドの肩に乗って一緒にいなくなった。
「俺のホットドッグ……」
項垂れて泣きそうなジャンを、ジュリエッタが「今度作ってあげるから」と慰めた。
不意に、ハンガーラックに掛けられた臙脂色の羽織が目に入った。黄色、青、緑、黒、白という色を使い、カラフルな丸い打ち上げ花火の模様が描かれている。
「それは、ずっと前に日本公演に行ったときに着たのよ」
それを取って鏡の前であててみたら、「いいわね、すごくあなたに似合うわ。男の子にも女の子にも見えるわね」とジュリエッタは絶賛した。
「いい……いい!! 着物いい!! それ着ろよ!! この辺に和装のピエロなんていないからさ、絶対目立つよ!!」
ジャンは何故が興奮している。
すると考える間もなく、頭の中に鮮明なイメージが浮かんできた。私が衣装を着てリングの真ん中に立っているイメージだ。
「降りてきた! 衣装のイメージが! 忘れないうちに描いてしまわないと!」
私はジャンとジュリエッタが何か話している間、色鉛筆を借りて衣装案を紙に書いた。
中は灰色の着物で、下は足首くらいの丈の黒い袴。足には足袋と下駄を履く。これで完璧だ。何故和服の知識があったかというと、大学に日本の伝統舞踊の講師の先生がいて、日本舞踊の講義を選択していたからだ。他の講義よりもむしろその講義が楽しくて好きだった。綺麗な柄の着物を着るのも踊るのも楽しかった。
和装なんて今まで頭になかったし、むしろ動きにくいかもしれないけれど、慣れればきっと大丈夫だと楽天的に考えることにする。
ジュリエッタは出来上がった衣装案を眺めて、「ふむ……いいわね」と頷いた。覗き込んだジャンも「すげー、かっこいいよこれ!」と絶賛してくれた。
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